ミステリ&SF感想vol.29 |
2001.11.10 |
『不思議の国の悪意』 『見えない凶器』 『風が吹く時』 『マン・プラス』 『ミステリークラブ』 |
不思議の国の悪意 Malice in Wonderland ルーファス・キング | |
1958年発表 (押田由起訳 創元推理文庫191-03) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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見えない凶器 Invisible Weapons ジョン・ロード | |
1938年発表 (駒月雅子訳 国書刊行会 世界探偵小説全集7) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] この作品は題名からもわかる通り、フランシャム氏を殺した凶器の謎が中心となっているわけですが、これ自体は現代ではかなり拍子抜けの感があります。ところがこれ以外の部分に意外な面白さがあります。例えば、明らかになった凶器から容疑者を割り出す過程がなかなかユニークですし、終盤に明らかになる事件の構造も面白いと思います。皮肉なことではありますが、凶器の謎に目をつぶればそれなりに楽しめる作品ではないでしょうか。
2001.11.01読了 [ジョン・ロード] |
風が吹く時 When the Wind Blows シリル・ヘアー | |
1949年発表 (宇野利泰訳 ハヤカワ・ミステリ178) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『法の悲劇』に続いて弁護士ペティグルウ氏が登場し、ヘアーお得意の法律ネタも絡んでいますが、地方のアマチュア楽団を舞台とした音楽ミステリといった方がいいでしょう。マークシャア管弦楽協会監事なる役目を引き受けさせられたペティグルウ氏ですが、彼の視点で描かれるアマチュア楽団コンサートの舞台裏がよくできています。特に、次々と起こるトラブルを乗り切ろうとしていく様子は臨場感に溢れています。そしてようやく開演にこぎ着け、メイン・プログラムが始まるというところで殺人事件が発生するという展開は、なかなか魅力的です。
“謎のクラリネット奏者”探しを中心とした地道な捜査が暗礁に乗り上げ、ペティグルウ氏の協力も役に立たないまま終わるかと思われた矢先に、驚くほどシンプルな手がかりが爆弾のように投じられ、事件は一挙に解決へと転じます。この終盤の鮮やかさが非常に印象的です。そして、すべてが解決した後の味のあるラストには、思わずニヤリとさせられてしまいます。 2001.11.04読了 [シリル・ヘアー] |
マン・プラス Man Plus フレデリック・ポール | |
1976年発表 (矢野 徹訳 ハヤカワ文庫SF833・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 一人の男が火星用サイボーグに改造されていく過程を詳細に描いた作品です。普通の人間とはかけ離れた存在へと変わっていくことの苦しみ、肉体的だけでなく精神的な苦痛、そしてその変容が、どうしても他人事になってしまう周囲の人間たちと対比することでよりはっきりと浮き彫りにされています。特に主人公となるロジャー自身、当初はバックアップ要員(しかも第3候補)だったためにどこか醒めた目で眺めていたのですが、アクシデントによって急に当事者となってしまったことで、なかなか心の準備ができない様子が伝わってきます。
サイボーグに改造されること自体の苦しみに加えて、ロジャー自身(そして死亡した第1号も)本気で火星に住みたいと思っているわけではないところが悲劇的です。彼を火星に送り込む側の人々にしても、半ば仕方なく計画を進めているわけで、このあたりにポールの描くディストピアの不毛で閉塞的な状況(『JEM』(ハヤカワ文庫SF)もそうでしたが)がよく表れていると思います。 ある種の“ハッピーエンド”の陰に隠された皮肉。いかにも続編を予感させるラストですが、ようやく1994年に続編『Mars Plus』が刊行されているようです。 2001.11.06再読了 [フレデリック・ポール] |
ミステリー・クラブ 霞 流一 | |
1998年発表 (角川書店・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『フォックスの死劇』で活躍した紅門福助が再登場。今回の事件は“蟹づくし”ですが、さらにコレクターと都市伝説を通じて“昭和”を回顧するというのが裏テーマになっています。作中登場するコレクターたちはいずれも奇人ばかりで、ここに酔狂探偵・紅門福助が絡んで騒動が繰り広げられています。一方の都市伝説についてもやや強引ではあるもののユニークな考察がなされていて、さらにそこに蟹に関する蘊蓄が加わった上に、全体として昭和を回顧するノスタルジックなムード(と滑りかけのギャグ)に満ちています。雑多な印象はぬぐえませんが、作品に注ぎ込まれたエネルギーは半端ではなく、いかにも霞流一らしい作品といえるでしょう。
事件の方はバカトリックこそ登場するものの、犯人の指摘に至るロジックなどは意外にすっきりとしていて、なかなかよくできています。謎を詰め込みすぎてプレゼンテーションがうまくいっていない面はありますが、それもまた独特の味というべきでしょうか。 2001.11.08再読了 [霞 流一] |
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