超・博物誌/山田正紀
1980年発表 徳間文庫210-3(徳間書店)
最後に明らかにされた“わたし”の名前は、『ファーブル昆虫記』で有名なジャン・アンリ・ファーブルです。やや唐突にも感じますが、うまく説明されています。
まず、“エントロピー増大の法則”が支配する宇宙と、“エントロピー減少の法則”が支配する宇宙との間を、自由に行き来できるタナトスカラベという存在が紹介されています。このことから、宇宙が輪廻転生を繰り返していることが明らかにされています。
そして、“わたし”が最後に気づいたように、多少の変化を伴いながら同じ人間が繰り返し登場してくるという結論が導かれ、結局、あの『昆虫記』を書いたファーブル本人が、転生してもなお、小さな生き物の観察を続けていたということになるのです。
このように、小さな要素を描くことで、世界全体の姿を明らかにしていくというのは、SFならではの醍醐味です。さらに、ここに登場人物の“意外な正体”を導入することで、ミステリにも通じる“サプライズ・エンディング”となっています。見事な構成といえるでしょう。
2000.04.09再読了