宝石泥棒/山田正紀
1980年発表 ハヤカワ文庫JA220(早川書房)
序盤の注釈は、物語世界の背景を翻訳して読者に伝えているようにも解されますが、第一章の註8:““黄金の半島{レエーム・トング}”は、タイ語でインドシナ半島を指す”
(126頁)や、註10:““浮稲”は、東南アジアに特有な種である。(中略)“稲魂{クワン}”は明らかに、この“浮稲”に知性が宿り、さらには神経を帯びたものと思われる”
(127頁)などは、明らかに現実世界とのつながり、そして未来の出来事であることを示唆しています。これが、第二章の終わりに明らかにされるチャクラの出生の秘密、そして“盤古”の台詞へ、さらには第三章の怒涛の展開へとつながる伏線となっているのです。
異世界風の舞台でありながらも、シェークスピア(「マクベス」でしたか?)やスフィンクスの謎かけなどが取り込まれることで、読者にも親しみやすい物語となっています。しかしこれも単純に取り込むだけではなく、三人の老婆の予言が前述のチャクラの出生の秘密につながっていたり、スフィンクスの謎かけの答が一種のパスワードになっていたりするあたりは非常によくできています。
第三章にいたって、次々と世界が解体され、姿を変えていきますが、それによってジローやチャクラの感じるであろう無力感が印象的です。特にジローの場合は、狂おしいものだったはずのいとこのランへの想いさえも、作られたものだったことになるのですから。
余談ですが、ラストのジローの姿が、『闇の太守』(第1巻)ラストの贄塔九郎に重なってしまうのは私だけでしょうか。
ところで、この作品のような、異世界(特にファンタジー風)と思われていたのが実は未来の地球だった、という設定のオリジナルは誰の何という作品なのでしょうか。どなたか教えていただければ幸いです。
2000.06.22再読了