天保からくり船/山田正紀
1994年発表 (光風社出版)
初読時は、まさかこういう展開になるとは思いもよらず、完全に時代伝奇小説だと思い込んでいました。“江戸”の描写が非常によくできている上に、山田正紀はすでに時代(歴史)小説をいくつも発表しているだけに、この仕掛けが非常に効果的なものとなっています。
“江戸”の真の姿を知ってしまった登場人物たちの苦悩は圧倒的です。“自分が何者かの掌の上で踊らされている”という状況は『魔術師』などにもみられますが、この作品では“22世紀の鐘つき名人”となってしまったおよその徳兵衛や、“江戸を動かすからくりを壊したい”と思いながら、実は自分こそがそのからくりの一部であったことを知った阿波屋利兵衛らの絶望は、計り知れないものがあります。
主人公である重四郎の心境については、以下の文章が印象的です。
これが真実だった。
これ以外にどんな真実もない。(283頁)
余談ですが、題名の『天保からくり船』は“天保”の“からくり船”ではなく、“天保からくり”の“船”と読むのが正しいのでしょう。
2000.08.23再読了