幽霊射手/J.D.カー
The Door to Doom & other detections/J.D.Carr
1980年発表 宇野利泰訳 創元推理文庫118-20(東京創元社)
2002.02.15再読了 (2002.02.28改稿)
- 「死者を飲むかのように……」
- “悪魔の聖杯”に隠されたトリックでは、酒に毒を盛ると見せかけたミスディレクションが効果的です。そして、主が死に瀕しているにもかかわらず、とりつかれたように原稿を書き続けるフォン・アルンハイムの姿が印象的です。
- 「山羊の影」
- 密室からの消失は他愛もないものですが、それをアリバイ工作と結びつけたところがよくできています。月明かりの下の金髪が、先入観によって坊主頭に見えてしまったというのも面白いところです。
- 「第四の容疑者」
- ラストのバンコランの台詞が皮肉で気が利いています。ヴィヨン伯へのささやかな仕返しといったところでしょうか。
- 「正義の果て」
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自殺を殺人に見せかけて狙う相手に罪をかぶせるという“殺害手段”はカーのお気に入りであったようで、ラジオドラマ(以下伏せ字)「死を賭けるか?」(『黒い塔の恐怖』収録)(ここまで)でも使われていますし、長編(以下伏せ字)『九つの答』(ここまで)も同じような状況です。
この作品では、何よりも重いラストが印象的です。短編では比較的人間味のある姿に描かれているバンコランが、『夜歩く』などの長編にみられるような悪魔的な雰囲気(特に犯罪者に対して)に変貌するきっかけになったのではないかと思えます。
終盤にバンコランが“その男を見かけた証人は、そのときはまだ、雪が降っていたと述べたそうですね”
(155頁)と述べていますが、ジョン卿とウォルフ司祭の話ではこの点が明らかにされていません。残念なミスです。
- 「四号車室の殺人」
- バンコランの登場の仕方には意表を突かれましたが、“鼻の先がちょん切れた顔”の真相はお間抜けです。殺害現場及び時刻を誤認させるミスディレクションはよくできていると思います。
なお、以上四篇のバンコラン物に脇役として登場しているジョン・ランダーヴォーン卿は、長編『絞首台の謎』にも登場しています。
- 「B13号船室」
- 自分が姿を消すだけでなく、船室までも消してしまうことで、妻の話を一層信じがたいものにするという計画は巧妙です。
- 「絞首人は待ってくれない」
- チョッキを貫通した銃孔という手がかりが見事です。また、
“二点間の最短距離は、その二点をつなぐ直線なり”
というフェル博士の台詞には、ニヤリとさせられます。
- 「幽霊射手」
- 合い鍵によって画廊に侵入するのはともかくとして、あらかじめ画廊内で弓を射ておくことで、殺人の凶器も木像の持つ弓によって発射されたものだと誤認させるトリックはよくできていると思います。ただ、犯人が入国した日付に大きなミス(一日どころではなく)があるのが残念です。
- 「花嫁消失」
- このような特殊な犯行手段の場合には、それを見破るのは困難でしょう。この作品では、犯行手段を先に明らかにしておいて、そこから犯人を絞り込んでいるところがうまいと思います。なお、この犯行手段は別の短編(以下伏せ字)「見えぬ手の殺人」(『パリから来た紳士』収録)(ここまで)に通じるところがあります。
2002.02.15再読了 (2002.02.28改稿)