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妖魔の森の家/J.D.カー

The Third Bullet & other stories/J.D.Carr

宇野利泰訳 創元推理文庫118-02(東京創元社)
「妖魔の森の家」
 トリックが現実に成立するかどうか(バスケットを運ぶときに食器の音がしないこと、あるいは血の臭いがすることにより、気づかれる可能性がある)はさておき、現実と非現実が交錯する物語世界は、幻想的でとても美しいと思います。その幻想を最終的に現実へと収束させた、“裏(以下伏せ字)『火刑法廷』(ここまで)”ともいえるラストは、妖精になり得なかったヴィッキーの、翼を失って地上に堕ち、踏みにじられてしまったかのような悲惨な運命を残酷に描いています。読み終えてからも強烈なイメージを心に残す作品です。

「軽率だった夜盗」
 早い段階で否定されてはいるものの、序盤で保険金目当ての狂言という疑惑が提示されているため、主人自らが盗みに入ったという表面的な状況に惑わされやすくなっているように思います。

「ある密室」
 “頭をひっぱたかれたみたいな感覚”によって犯行時刻を誤認させるというトリックには意表を突かれます。しかし、“何者かの足音”が被害者の空耳だったという真相には不満が残ります。

「赤いカツラの手がかり」
 赤いカツラというユニークな手がかりから、死体の奇妙状況の謎が明らかになるあたりはよくできていますし、そこで犯人指摘につながる新たな手がかりが登場しているところも秀逸です。

「第三の銃弾」
 犯人たちの計画はなかなか手が込んでいます。最大の容疑者が実際に銃弾を放つところまでいきながら犯行が不可能だったという状況を演出するために、複数の銃を使用するというもので、第一の銃弾と第二の銃弾が実はだったというのが面白いと思います。
 しかし、犯人たちの予期せぬアクシデントによって、事態はさらに複雑になっています。まず、西側の窓が開かなかったことで、“犯人”が窓から逃走したと見せかけることが不可能になりました。これだけならばすんなりとホワイトが犯人であるということになったはずですが、ホワイトの放った銃弾がどちらも命中せず、キャロリンが判事を狙撃したことで、“第三の銃弾を放った犯人が密室から消失した”という不可能状況が生まれています。第三の銃弾が部屋の外から飛び込んできたという逆転の発想も含めて、不可能犯罪にこだわった作者の面目躍如というところでしょう。
 プロットの方では、作者の期待した(ラストのマーキス大佐の台詞からは、そういう意図があったことがうかがえます)ほどアイダが疑わしく思えないところにやや難がありますが、まずまずといっていいのではないでしょうか。
1999.11.15読了
2002.02.03再読了 (2002.02.28改稿)