花間集
菩薩蠻
韋莊
| 洛陽城裏春光好， 洛陽才子他鄕老。 柳暗魏王堤。 此時心轉迷。 桃花春水綠， 水上鴛鴦浴。 凝恨對殘暉， 憶君君不知。  |
| 洛陽城裏春光好， 洛陽才子他鄕老。 柳暗魏王堤。 此時心轉迷。 桃花春水綠， 水上鴛鴦浴。 凝恨對殘暉， 憶君君不知。 |
菩薩蠻
洛陽城裏 春光 好く，
洛陽の才子 他鄕に 老ゆ。
柳は暗（ふか）し 魏王の堤。
此の時 心 轉（うた）た迷ふ。
桃花 春水 綠にして，
水上に 鴛鴦 浴（みづあび）す。
恨を凝らして 殘暉に 對し，
君を憶（おも）へど 君は 知らず。
| ****************** ◎私感訳注： ※菩薩蠻：詞牌の一。詞の形式名。双調。四十四字。換韻。詳しくは「構成について」を参照。花間集巻第二所収。 ※洛陽城裏：洛陽の街の中。 ・洛陽：唐の都。河南省にある。洛水（現・洛河）の北にあることからついた。（陽：河の北岸） ※春光好：春の風光がよい。 ・春光：春の日和。春の景色。 ※洛陽城裏春光好：洛陽の街の中（に春が訪れ）春の風光がすばらしい。 ※才子：才能の優れた男子。才徳の優れた男子。詩詞風に謂うと、王孫か。 ・洛陽才子：前漢の賈誼のことだが、ここでは関係がない。この才子を誰と見るかによって、この詞の意味がすこしずつ変わってくる。 ①女性の立場でこの詞を作ったとすれば、この才子は、女性の恋人になる。その場合、この詞の意味は、「春になれば、別れてこの洛陽から出ていき、今、流離っているあの（男の）人が思い出される。」という具合に、洛陽から他国にいる男を思うこととなる。 ②作者の韋荘自身と見る。彼は江南を漫遊している。その場合、この詞の意味は「旅先で春を迎えたが、洛陽の春の風情や女性が懐かしく思い出される。」と言う具合で、異郷の地から洛陽の女性を思うこととなる。 さて、どちらがよいか。 ※他鄕：異郷。他国。 ※洛陽才子他鄕老：洛陽の才子が異郷に歳をとっていく。 ※柳暗：柳の葉が茂るさま。 ※魏王堤：地名。洛陽の南にある名勝。洛水の水が溢れて池が出来、堤を築いて洛水と隔てた、貞觀年間に魏王泰に賜ったのでこの名が付いた。白居易の『魏王堤』「花寒懶發鳥慵啼，信馬閒行到日西。何處未春先有思，柳條無力魏王堤。」  からきたか。※柳暗魏王堤：柳が魏王堤に茂り（だした）。白居易の詩句を元にして考えると、「思いが満ちあふれる魏王堤の柳は茂り」となろう。 ※心轉迷：心が一層迷う。心が変わり、迷う。 ・轉：（古白話）かえって、一層。 ※此時心轉迷：この（春になった）時、心はますます迷う。 ※桃花春水綠：（目の前の春の様子は）モモの花が（美しく咲き）春の（川や池の）水は（春が来て生命の躍動感に溢れる）緑色になっている。綠を  ともする。の場合は、水が澄んで清らかなこと。※鴛鴦：（つがいの）オシドリ。雌雄のつがいでいることから夫婦仲のよいことに使う。自分の境遇を強調するために使っている。 ・鴛：雄のおしどり ・鴦：雌のおしどり ※浴：水浴びをする。鴛鴦は水鳥。 ※水上鴛鴦浴：池（川）の上にオシドリがつがいで、（仲良く）水浴びをしている（それに引き替え、わたしの方は……）。 ※凝恨：うらめしさをこめて。恨みを凝集させて。 ・恨：うらみ、うらむ、の外に、うらめしい、情けない、の意味もある。感情の強さを表す。ここは、「長恨歌」の「恨」と同様で、後者の意。 ※殘暉：夕日の光。残照。残陽。斜陽。夕焼け。 ※凝恨對殘暉：うらめしさをこめて夕陽に向かう。 ※憶君：君をおもう。 ・君：女が男をいう場合やその逆、広く人を指す場合など多様。本来は君主を指す。ここは、韋莊の一連の菩薩蠻をも参照し、素直に「いとしい人」ととってよいだろう。 ※君不知：君は知らない。 ※憶君君不知：君をおもっても、君のほうは（そのことが）分からない。 ◎ 構成について 双調 四十四字。換韻。各句が押韻し、押韻の平仄が入れ替わる。 韻式は「ａａＢＢ ｃｃＤＤ」。韻脚:「好老」は第八部上声十九皓で、「堤迷」は第三部平声八齊。「綠浴」は第十五部入声二沃で、「暉知」は第部三平声五微等。この作品の韻式は「ａａＢＢｃｃＢＢ」になる。  ○ ●○○●。（a仄韻）○●○○●。（a仄韻）●●○○。（B平韻）○●○，（B平韻）○○●●。（c仄韻）●○●，（c仄韻）●●○○，（D平韻）○●○。（D平韻） |
| ２００２．１．２７ １．２８完 |
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