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◎私感訳注:
※淸平樂:詞牌の一。詞の形式名。双調。四十六字。平韻相互の換韻。詳しくは「構成について」を参照。花間集巻第二所収。
※何處:どこの。いづこの。
※遊女:あそびめ。ここが杜牧の『泊秦淮』「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」 を蹈まえているとすれば、「祖国の窮状も顧みない遊女」の意となる。
※何處遊女:どこのあそびめだろうか。
※蜀國:蜀の国。ここの巫山県の東部に巫山がある。「巫山雲雨」で男女の交情をいう。現・四川省のこと。
※多雲雨:多情である。 ・雲雨:男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事からきている。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの(か))があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。「巫山之夢」。婉約の詩詞によく使われるが、千載不磨の契りといった感じのものではなく、もっと、気楽な契りをいう。 ・無覓處:探しようがない。漂いやがて消えてゆくガスのような雲なので、探しようがない。
※蜀國多雲雨:蜀の国は(「巫山雲雨」の言い伝えどおりに、)多情である。
※雲解有情:雲は情を解して。
※花解語:花は言葉がわかる。美しい女性を暗示している。婉約詞では、美しい女性を「解語花」(言葉を解する花)という。
※雲解有情花解語:雲は情を解して花は言葉がわかる。情が深くてやさしく美しい女性たちよ。
※ 地:サラサラと。衣ずれの音。擬声語。 〔そつ;sa1〕。 ・地:〔口頭語〕副詞句にする働きがある。…と、…に、…で。本来はこの後に「出現」の意を表す動詞が来るべきところ。古語の「…然」「…爾」と働きが似ており、「…而」とも雰囲気的には似ているか。
※綉羅:ぬいとりのあるうすぎぬ。女性の身にまとう衣装の布地。
※金縷:金糸の(刺繍)。
※ 地綉羅金縷:サラサラと衣擦れの音と共に金糸の縫い取りのある紗の衣装を着た女性(が現れた)。
※妝成:よそおいがなる。身繕いができあがる。
※不整金鈿:金のかんざしなどの髪飾りがゆがんで。
※妝成不整金鈿:身繕いができあがるったが金の髪飾りがゆがんでいるのは(あわてたからだろう)。ここは白居易の「長恨歌」の「雲鬢半偏新睡覺,花冠不整下堂來。」 をふまえていよう。
※含羞:はじらいながら。
※待月:月の出を待つ。明るくなるのを待つ。ここは「待月」ではなくて、本当は「待人」かも知れない。
※鞦韆:ブランコ。女性の遊具。
※含羞待月鞦韆:はじらいながらブランコで月の出を待っている。
※住在:…に住んでいる。白話で“住在+地名”として、よく使う。
※綠槐陰裏:青々と茂ったエンジュの木陰で。 ・裏:なかで。
※住在綠槐陰裏:青々と茂ったエンジュの木陰のところに住んでいる。これは女性が、男性の「きみ、美しいね。どこに住んでいるの」との問いに答えて「あたしは、あの青々と茂ったエンジュの木陰のところに住んでいますのよ」と言ったものだろう。
※門臨:門は…に面している。
※春水橋邊:春の川の流れに架かった橋のたもと。
※門臨春水橋邊:門は春の川の流れに架かった橋のたもとに面している。これも女性の答えの続きだろう。
◎ 構成について
双調。四十六字。換韻。韻式は「aaaa BBB」。韻脚:「女雨語縷」は第四部上声で、「鈿韆邊」は第七部平声一先。
○ ●(仄韻),
●○○●(仄韻)。
● ○○●●(仄韻)。
● ○●●(仄韻)。
○ ●○○(平韻)。
○ ●○○(平韻)。
● ○ ●,
○ ●○○(平韻)。
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