花間集
賀明朝
　　　　　　　　　　　　欧陽炯
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐・五代・宋　歐陽炯

　　　　　　　　　　　　　　　

憶昔花間初識面， 紅袖半遮妝臉。 輕轉石榴裙帶， 故將繊纖玉指， 偸撚雙鳳金綫。 碧梧桐鎖深深院， 誰料得， 兩情何日�ﾍ綣。 羨春來雙燕， 飛到玉樓， 朝暮相見。

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　　　　　　賀明朝

　　　
憶ふ　昔　　花間に　初めて　面（かほ）を識りしとき，
紅袖にて　半ば　妝臉を　遮れり。
輕やかに　　石榴の　裙帶を　　轉（ひるが）へし，
故（ことさら）に　　纖纖たる　玉指を　將（も）って，
偸（ひそ）かに　　雙（なら）べる鳳の　金の綫（いと）を　撚（よ）る。


碧き　梧桐は　　深深たる　院（には）を　鎖（とざ）し，
誰（たれ）か料（はか）り得て，
兩情　　何（いづ）れの日か　綣せしめん。
羨む　　春來の　雙燕，
玉樓に　　飛び 到り　，
朝暮　相ひ見（まみ）ゆるを。

****************** 私感訳注： ※賀明朝：マイナーな詞牌の一。詞の形式名。双調　六十一字。仄韻一韻到底。詳しくは　「構成について」を参照。この詞は花間集巻六所収の賀明朝の一である。 ※憶：…を思い起こす。逗（領字）のところ。 ※花間：花の咲き誇っているところで。 ※初識面：知り合った。初めて面識があるようになった。 ※憶昔花間初識面：昔を思い起こせば、花園でデートをした（ことがあったなあ）。 ※紅袖：紅いそで。若い女性の美しい衣裳の袖のことをいう。 ※半遮：半ばさえぎるようにして。 ※妝臉：化粧をした顔。若い女性の美しい顔のことをいう。 ※紅袖半遮妝臉：紅いそでで、顔を半ば隠すようにして。初めて異性と出逢った、羞じらいの表現。 ※輕轉：軽やかに…をひるがえして。これも羞じらいの表現。 ※石榴：ザクロ。 ※裙帶：もすそのひも。 ※輕轉石榴裙帶：軽やかにザクロ色のもすそのひもをひるがえして。 ※故：（詞語）故意に。わざと。 ※將：…を。…をもって。名詞の前に置いて、後述の名詞を取り上げる働きをする。 ※纖纖：ほっそりとした。しなやかである。蛇足だが、平成十四年七月に問題となった、中国製のダイエットの薬を新聞などでは「之素嚢（せんのもとこうのう）」としているが、（商取引等では、実際そう言っているのかも知れないが、）これは、「繊之素膠嚢」と書くべきものであって、読み方も音読みで統一すれば「せんしそこうのう」となる。「繊之素」とは、「ほっそりとなる素」という意味と「セルロース」（繊維素）という意味を兼ねていよう。「膠嚢」とは、ゼラチン状の物で作られたカプセルのこと。「せんのもと」と言っているのは、「味の素」にひかれたからではなかろうか。 ※玉指：美しい（女性の）指。 ※故將繊繊玉指：ほっそりとした指で、わざと…（をする）。 ※偸：こっそりと。 ※撚：ひねる。よる。よじる。 ※雙鳳金綫：二羽並んでいる鳳（の縫い取り）の金糸。　・綫：糸。 ※偸撚雙鳳金綫：対の鳳（の縫い取り）の金糸をこっそりとひねって。 ※碧梧桐：青いアオギリ。詩詞で、寂寞感の漂うときに屡々使われている。 ※鎖：とざして。 ※深深院：深い深い中庭。　・院：塀等で囲まれた中庭。 ※碧梧桐鎖深深院：青いアオギリ（の茂りが）深い深い中庭を閉ざしている。似た表現に、李�C照も褒めた歐陽脩（馮延巳？）の「蝶戀花」「庭院深深深幾許？楊柳堆煙，簾幕無重數。」がある。 ※誰料：…だとは、誰が予想しようか。なんぞはからん。ここでは、一体誰がはかってくれようか。 ※得：…と。 ※誰料得：誰が…と予想しようか。 ※兩情：二人の思慕の情。 ※何日：いつに（なったら）。 ※�ﾍ：使役を表す。 ※綣：つきまとって離れない。思い切れない。情緒纏綿として離れがたい。まつわる。 ※兩情何日�ﾍ綣：二人の思いを何時、結びつけてやるのか。 ※羨：うらやましく思う。 ※春來：春になったら来る。 ※雙燕：つがいのツバメ。 ※羨春來雙燕：春になったら来るつがいのツバメが…のをやましく思う。 ※飛到玉樓：美しい高殿に飛んで来るのを。 ※朝暮：朝夕に。朝晩に。 ※相見：逢う。あいまみゆ。 ※朝暮相見：朝夕に出逢っている。 ◎　構成について 　　双調　六十一字。仄韻一韻到底。韻式は「ａａａ　ａａａａ」。韻脚:「面臉綫　院綣燕見」は主として第七部十七霰（面見院燕）。ただし、綣は、同第七部十三阮。臉は第十四部二十八儉。下の詞調はこの作品のもの。 　　　●●○○●●●，（韻） 　　　○●●○○●。（韻） 　　　○●●○○●， 　　　●○○○●●， 　　　○○○●○●。（韻） 　　　●○○●○○●。（韻） 　　　○●●， 　　　●○○●○●●，（韻） 　　　●○○○●。（韻） 　　　○●●○， 　　　○●○●。（韻） となる。

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