李煜　相見歓（烏夜啼）　詩詞世界　碇豊長の詩詞

相見歡

　

林花謝了春紅，
太匆匆。
無奈朝來寒雨晩來風。

臙脂涙，
留人醉，
幾時重。
自是人生長恨　水長東。

******

相見歡
　　　　　　　　　　　　　

　　　　　
林花は　謝り了くす　　春の紅ひ，
太にも　匆匆たり。
奈（いかん）ともする無し　　朝來の寒雨　晩來の風。

臙脂の　涙，
人を留めて醉はしむるは，
幾（いづれ）の時か　重ならん。
自ら是れ　人生は　長への恨みにて　　水は長へに東す。

　　　　　　**********

私感注釈

◎　これも李煜が京に囚われていた時の作。
※相見歡：詞牌の一。『烏夜啼』ともするが、両者は詞調の字数、平仄の配列、格律という外形だけは同じだが、詞に充てられていた音楽が異なっているもので、本来は、同一の詞とは見なさないもの・異調同形である。ここは、やはり『相見歡』になる。なお、『烏夜啼』には異体があり、四十七字のものもある。これは錦堂春、聖無憂ともいう。双調。換韻。詳しくは下記「構成について」を参照。
※謝：（古・現代語）しぼむ。散る
※了：おえる。つくす。その動作が完了してしまったことを表す。/liao3/と読むべきところ。
※春紅：はるの紅。紅は花を指す。
※太：（古・現代語）あまりにも。
※匆匆：あわただしいこと。
※無奈：＝無可奈何。どうしようもない。いかんともするなし。
※朝來寒雨晩來風：朝方から降っていた寒い雨に、晩方から吹き始めた風。ここでは寒雨や風は、試練の意味で使われている。
※臙脂涙：女性の化粧の頬紅、口紅など、顔に塗るべにが混ざった涙。つまり、女性の涙。
※留人：＝使人。人をして…しむ、の意。ひとをとどめて…しむ。
※醉：陶酔する。
※留人醉：ひとをとどめて酔わしむ。
※幾時：いずれのときか。
※重：かさねて、再びの意味。いつ再びあのすばらしいときが戻ってくるのだろうか。再会できるのか。「重」字の「重い」の意味の場合は去声で、ここでは全く適合しない。
※自是：おのずから　これ。自然と、昔から。是は、「これ」と読んでいるが、指示詞ではない。
※人生長恨：人生とは　とこしえの恨みのみで。
※水長東：長江等の川の水は、とこしえに東に向かって流れる。恰もそれが「真理」であるかの如く。

◎　構成について
双調。三十六字。換韻。韻式は「AAA　bbAA」
　
九字句は六字と三字等にけること。（異体有り）

○●○○，（A平韻）
●○○。（A平韻）
●○●・●○○。（A平韻）

●，（b仄韻）
○●。（b仄韻）
●○○。（A平韻）
●○●・●○○。（A平韻）

韻脚：「紅匆風」は「第一部平声」。「涙醉」は「第三部去声」。「重東」は「第部平声」。
　　　この作品も極めて正確に作られている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　