四十年來家國, 三千里地山河。 鳳閣龍樓連霄漢, 玉樹瓊枝作姻蘿。 幾曾識干戈。 一旦歸爲臣虜, 沈腰潘鬢消磨。 最是蒼惶辭廟日, 敎坊猶奏別離歌, 垂涙對宮娥。 ![]() |
四十年來の 家國,
三千里地の 山河。
鳳閣 龍樓 霄漢に連なり,
玉樹 瓊枝 姻蘿を作す。
幾ぞ曾て 干戈を識る。
一旦 歸して 臣虜と爲り,
沈腰 潘鬢 消磨す。
最も是れ 蒼惶として 廟を辭するの日,
敎坊 猶も奏す 別離の歌,
涙を垂らして 宮娥に對す。
**********
◎ 私感注釈
※破陣子:詞牌の一。双調。平声韻。一韻到底。対句にするところが多い。詳しくは下記「構成について」を参照。 *これも李煜が京に連れて行かれた時の作。亡国の歎。
※四十年來家國:(建国以来の)四十年来の国家よ。 ・四十年來:南唐建国(937年)から滅亡(975年の)までの三十九年間を指す。また、李煜が京に連れてこられたとき、奇しくもちょうど四十歳の時である。李煜が生まれ、国が亡ぶまでの年数でもある。いずれにしても、南唐時代の年をいう。 ・家國:家と国。故郷と国。国家。ただ、国家よりも郷里、郷土の雰囲気が強い。もっとも「國家」は●○で、韻式の○○のところで使い、「家國」は○●で、韻式の●●のところで使う、という見方も否定できない。
※三千里地山河:三千里に亘る地の山河よ。 *南唐の領土をいう。「三千」は ○○ で、他の数字には換えられない。
「一二四五六七八九十百萬億」は、皆
●。 三千の数字は声調(平仄)と発音の滑らかさから来ている。
実数の数値の意味は、あまり考える必要はない。
「 京から金陵までの距離」ではない。 三千は厖大なことを表している。「三千里地山河」は「祖国の広大で遙かな山河」の意味。後世、北宋・徽宗は『在北題壁』で「
徹夜西風撼破扉,蕭條孤館一燈微。家山回首三千里,目斷天南無雁飛。」
と使う。
※鳳閣龍樓連霄漢:宮殿の高殿は、天に向かって聳え立ち。 ・鳳閣龍樓:龍や鳳の彫り物等の飾りのある樓閣、つまり天子の居所。龍は天子に関わることに使う場合がある。鳳閣は●●で、龍樓は○○になる。もしも、表現するところが○○●●の所ならば、「龍樓鳳閣」とする。「龍~鳳~」は、よく見るが、韻律上、龍の後は○、鳳の後は●としなければならない。それゆえ「龍閣鳳樓」や「鳳樓龍閣」等は好ましくない形になる。なお、一書に鳳閣を鳳闕とする。 ・霄漢:大空と天の川。つまり、天。
※玉樹瓊枝作姻蘿:玉(ぎょく)のようにすばらしい樹と、瓊(けい)でできたようなきれいな枝が霞がかかったように繁っている。 ・玉樹瓊枝:玉(ぎょく=宝石)のようにすばらしい樹と瓊(けい:精緻に細工されたぎょく=宝石)でできたようなきれいな枝。「玉~瓊~」で、よく使われる。ただし「玉枝瓊樹」とは、できない。これだと●○○●となって、極めて不安定。「玉樹瓊枝」として●●○○、または「瓊枝玉樹」として○○●● という具合に使う。なお、金も瓊と同じくな○ので、「玉~金~」「金~玉~」としてもよく使う。 ・姻蘿:霞がかかったように繁っているさま。=烟(煙)蘿。煙樹、煙草(えんさう)煙景などと同じで、つたに霞がかかったように繁っていることをいい、「煙柳」等と、植物が繁っていることの形容。蘿はつたやかずらなどの蔓状の植物を指す。
※幾曾識干戈:戦争は、知らなかった(が)。 ・幾曾:(古・現代語)なんぞかつて。反語。=何嘗。 ・識:しる。知識として知っている。 ・干戈:たてとほこ等の武器で、戦争を意味する。
※一旦歸爲臣虜:ひとたび帰服し、捕虜になって、家来となった。 ・一旦:ひとたび。 ・歸:帰服、帰順すること。南唐が宋に破れ、李煜が降伏したことを指す。 ・臣虜:捕虜になって、家来となること。
※沈腰潘鬢消磨:やつれ痩せ、髪は白髪混じりとなり、すりへった。 ・沈腰:(しんやう):やつれ、痩せたこと。「梁書・沈約傳」に「老病百日數旬,革帯常應移孔」とあり、沈(しん)約が長患いで痩せ、ベルトの孔を一つ、きつく締め直したことから出た。なお、姓の「沈」の読みは「しん:shen3」であって、「ちん:chen2」ではない。 ・潘鬢:(中年になって、)髪が白髪混じりになり始めること。晋の潘岳の「秋興賦」に「斑鬢発以承弁兮」とあり(斑鬢:黒髪と白髪とが混ざった髪)、その序文に「余春秋三十有二,始見二毛」(二毛:黒髪と白髪)。 ・消磨:すりへる。
※最是蒼惶辭廟日:とりわけあわただしかったのは、南唐の宮廷や祖廟を去る日のことだった。 ・最是:とりわけ。 ・蒼惶:あわただしく。 ・辭廟日:南唐の宮廷や祖廟を去る日。
※敎坊猶奏別離歌:伎楽所では、猶も別離の歌を奏でており。 ・教坊:伎楽所。宮中で音楽を司るところ。 ・猶:なおも。 ・奏:かなでる。
※垂涙對宮娥:涙を流しながら宮女に対したのだった。 ・宮娥:宮女。
◎ 構成について
破陣子は対句にするところが多い。作者によって、その場所が多少移動する場合がある。
┏┓
四十年來家國,┓
┃ ┃ ┃ ┃
三千里地山河。┛
┗┛
┏━┓
鳳閣龍樓連霄漢,┓
┃ ┃ ┃ ┃ ┃
玉樹瓊枝作姻蘿。┛
┗━┛
一旦歸爲臣虜,┓
┗┛ ┃(辛棄疾の破陣子は、この句の所が対
┏━┓ ┃ になっている)
沈腰潘鬢消磨。┛
最是蒼惶辭廟日,
(ここも対句みたいだが他の作品では違う)
教坊猶奏別離歌,
双調。六十二字。平声韻一韻到底。韻式は「AAA AAA」
●
○
●,
○
●○○。(A平韻)
●
○○●●,
●○○
●○。(A平韻)
○
●○。(A平韻)
●
○
●,
○
●○○。(A平韻)
●
○○●●,
●○○
●○。(A平韻)
○
●○。(A平韻)
韻脚:「河蘿戈磨歌娥」は「第九部平声」。この作品も極めて正確に作られている。
2000. 5. 2 5. 3 5. 6 5. 7完 10.23補 11.16 2007.10. 5 2012. 6. 7 |
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