漢詩
杞人憂
幽燕烽火幾時收,
聞道中洋戰未休。
漆室空懷憂國恨,
難將巾幗易兜
。
******
人憂
幽燕の 烽火 幾時か 收り,
聞く道
(なら)
く 中洋 戰ひ 未だ休
(や)
まず。
漆室の 空懷 憂國の 恨,
巾幗を 將
(も)
って 兜
に易ふこと 難からん。
**********
◎私感注釈
※
人憂:杞人の憂。“杞人憂天”日本に伝わっている「杞憂」。「杞の国の人に天が落ちてこないかと取り越し苦労をした」故事による。秋瑾は杞の国の人ともなり、魯の漆室邑の女の人ともなって憂えたのがこの作品。『列子・天瑞』に、「
杞國有人憂天地崩墜
,身亡所寄,廢寢食者,又有憂彼之所憂者,因往曉之曰:『天積氣爾,亡處亡氣,若屈伸呼吸,終日在天中行止,奈何憂崩墜乎?』其人曰:『天果積氣,日月星宿不當墜耶?』」とある有名な故事。この作品では「杞」は
の字が使われている。「杞」「
」字は、同義。
※幽燕:古地名。河北省北部、遼寧省南部一帯。唐山、秦皇島などのある辺り。
※烽火:のろし火。戦乱の兆し。戦乱。
※幾時:いつ。
※收:収まる。収拾する。
※聞道:聞くところに拠れば。聞くならく。伝聞の表現。
※中洋:中国と外国。中外。内国と外国。
※戰:ここは義和団事件(庚子事変:1900年)
の乱を指す。
※未休:まだ終熄しない。
※漆室:魯の漆室邑の女性のことで、憂国の女性。国を憂え、人を傷み、慨然として縊死した節婦のことをいう。この作品と同じ憂国の思いを持った女性が二千年前の漆室邑にもいて、その嘆きが『後漢書・卷六十四の列傳の数か所の註釈に、同じ文意で出ている。 「列女傳曰:」として、「魯漆室邑之女,過時未適人。當穆公之時,君老,太子幼,女倚柱而啼。傍人聞之,心莫不慘慘者。鄰婦從之遊。謂曰:『何哭之悲?子欲嫁乎?吾爲子求偶。』漆室女曰:『嗟乎,始吾以子爲知,今反無識也。豈爲嫁之故不樂而悲哉,
吾憂魯君老而太子少也
。』」とある。また、『列女傳・卷三』の「仁智傳」の項の『魯漆室女』からきているとも謂える。『列女傳・卷三』の「仁智傳」の項に『魯漆室女』として「
漆室女者,魯漆室邑之女也。
過時未適人。當穆公時,君老,太子幼。女倚柱而嘯,旁人聞之,莫不爲之慘者。其鄰人婦從之遊,謂曰:「何嘯之悲也?子欲嫁耶?吾爲子求偶。」漆室女曰:「嗟乎!始吾以子爲有知,今無識也。吾豈爲不嫁不樂而悲哉!
吾憂魯君老,太子幼。
」鄰婦笑曰:「此乃魯大夫之憂,婦人何與焉!」漆室女曰:「不然,非子所知也。
昔晉客舍吾家,繋馬園中。馬佚馳走,踐吾葵,使我終歳不食葵。鄰人女奔隨人亡,其家倩吾兄行追之。逢霖水出,溺流而死。令吾終身無兄。吾聞河潤九里,漸洳三百歩。今魯君老悖,太子少愚,愚偽日起。夫魯國有患者,君臣父子皆被其辱,禍及衆庶,婦人獨安所避乎!吾甚憂之。
子乃曰婦人無與者,何哉!」鄰婦謝曰:「子之所慮,非妾所及。」三年,
魯果亂,齊楚攻之,魯連有寇。男子戰鬥,婦人轉輸不得休息。君子曰:「遠矣漆室女之思也!
」詩云:「知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。」此之謂也。 頌曰:
漆室之女,計慮甚妙,維魯且亂,倚柱而嘯,君老嗣幼,愚悖姦生,魯果擾亂,齊伐其城。
」
※空懷:むなしい 思い。魯の漆室邑の女の憂国の情念。
※憂國恨:国を思う強い志と、恨み。
※難:…がむつかしい。
※將:…を。…をもって。“將”のすぐ後に目的語(名詞)をとる。「まさに…んとす」とは別の用法。
※巾幗:女性の髪飾り。女性の頭に被る布。転じて、女性のことを指す。
※易:かえる。交換する。
※兜
:〔とうぼう;dou1mou2〕(古代の)かぶと。
※難將巾幗易兜
:女性の髪飾りをかぶととかえることは、なしがたいことだ。女性が従軍することはなかなか難しいことだ。
◎ 構成について
七言絶句。一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「收休
」で平水韻下平十一尤。以下の平仄はこの作品のもの。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
2002.11.25
11.26
11.27完
漢詩 詩詞 宋詞
次の詩へ
前の詩へ
秋瑾詩詞メニュー
*******
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
詩詞概説
唐詩格律之一
詩韻
詞牌異名
詞史
詩詞用語解説
現代漢語音韻
辛棄疾詞
李U詞
李清照詞
秋瑾詩詞
碧血の詩編
花間集
婉約詞集
歴代抒情詩集
毛主席詩詞
天安門革命詩抄
碇豊長自作詩詞
参考文献(総目録)
参考文献(宋詞)
参考文献(詩詞格律)
参考文献(唐詩)
参考文献(韻書)
参考文献(漢語音韻)
参考文献(漢語方言)
中国語ご挨拶
お便りのページ
本サイト全情報
わたしの主張
メール
トップ