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紅版江橋青酒旗,
館娃宮暖日斜時。
可憐雨歇東風定,
萬樹千條各自垂。
楊柳枝
紅版の 江橋 青き 酒旗,
館娃宮 暖にして 日 斜なる時。
憐む可(べ)し 雨 歇(や)みて 東風 定まり,
萬樹 千條 各自に 垂る。
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◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。作者は、この『楊柳枝』シリーズや、『竹枝詞』、『新楽府』シリーズと詩歌、音楽上の実験に精力的に活動している。
※楊柳枝:これは其四。白居易が始めた歌曲様式。本来は漢の鐃歌鼓吹曲で、唐の教坊曲。白居易は古い曲名を借りて新たな曲を作った、そのことを宣言した詞。詩の形式は七言絶句体であるが、白居易が新たな曲調を附けたもの。柳を詠い込む唐の都・洛陽の民歌として作っている。やがて、詞牌として数えられる。七言絶句の形式をした例外的な填詞。七言絶句形式や七言四句体をした填詞には他に『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』などがある。それぞれ七言絶句体と平仄や押韻が異なる。また、曲調も当然ながら異なりあっている。これら『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』の平仄上の差異についてはこちら。七言絶句体で、七言絶句とされないものに『竹枝詞』があるが、それも特別にページを設けている。本サイトでは、基本的に填詞(宋詞)を採りあげている。七言絶句体の填詞は、填詞の発展といった系統樹でみれば幾つかある根の一になる。填詞についての詳しい説明はこちら。
『楊柳枝』と前出『竹枝詞』との違いを強調してみれば、前者『楊柳枝』は、都・洛陽の民歌となるだけに優雅である。それに対して『竹枝詞』は、表現が直截である。巴渝(現・四川東部)の人情、風土を歌ったもので、鄙びた風情とともに露骨な情愛を謡っていることである。相似点は、どちらも典故や格調を気にせず、近体七言絶句よりも気楽に作られていることである。
◎紅い橋、青い旗、黄金色の夕陽、柳の新緑といった、色彩の対比の妙が特徴になっている詞である。館娃宮を言うことで、西施を暗示している。
※紅版江橋青酒旗:朱塗りの板の江橋に、青い色をした酒屋の旗。 ・紅版:朱塗りの板。版=板。 ・江橋:川に架かっている橋。洛水に架かっている橋。 ・青酒旗:青い色をした酒屋の看板代わりの旗。杜牧に『江南春絶句』「千里鶯啼拷f紅,水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺,多少樓臺烟雨中。」 や、宋の王安石『桂枝香』「金陵懷古」「登臨送目,正故國晩秋,天氣初肅。千里澄江似練,翠峰如簇。歸帆去棹殘陽裡,背西風酒旗斜矗。彩舟雲淡,星河鷺起,畫圖難足。」また辛棄疾の『鷓鴣天』「陌上柔桑破嫩芽,東鄰蠶種已生些。平岡細草鳴黄犢,斜日寒林點暮鴉。 山遠近,路斜,旗沽酒有人家。城中桃李愁風雨,春在溪頭薺菜花。」などしばしば詩詞に詠い込まれている。
※館娃宮暖日斜時:美人西施のいた館娃宮は暖かそうで、夕陽がさしかかる時。 ・館娃宮:館娃宮:〔くゎんあ(い)きゅう;guan3wa2gong1●○○〕呉王夫差の宮殿。美人西施のために建てた。「娃」は呉の方言で美人をいう。白居易に『靈巖寺』「館娃宮畔千年寺,水闊雲多客到稀。聞説春來更惆悵,百花深處一僧歸。」がある。 ・暖:暖かい。日射しが暖かい。 ・日斜時:夕陽の時。夕焼け時分。
※可憐雨歇東風定:すばらしいものだ、雨がやんで、春風がおさまって。 ・可憐:愛すべきである。愛おしく感じられる。心が動かされてくる。「可憐」は、「雨歇東風定,萬樹千條各自垂」までかかる。 ・歇:〔けつ;xie1●〕やすむ。やめる。つきる。やむ。 ・東風:春風。 ・定:やむ。おさまる。さだまる。
※萬樹千條各自垂:(柳の)多くの木々の枝が、それぞれに垂れ下がっているさまは。 ・萬樹千條:多くの木々の枝枝。 ・各自:それぞれに。 ・垂:垂れ下がっている。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「旗時垂」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
○●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2005.1.15 |
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