杜牧　江南春絶句　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩dumu

　　
杜牧
　　　江南春絶句 DuMu　dumu　Du Mu　du mu

千里鶯啼綠映紅，
水村山郭酒旗風。
南朝四百八十寺，
多少樓臺煙雨中。

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江南の春　絶句

千里　鶯　啼きて　　綠　紅(くれなゐ)に　映ず，
水村(すゐそん)　山郭(さんくゎく)　　酒旗の風。
南朝　　四百八十寺(しひゃくはっしんじ)，
多少の　樓臺(ろうだい)　　煙雨の中(うち)

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◎　私感註釈

※杜牧：晩唐の詩人、八○三年（貞元十九年）～八五二年（大中六年）。字は牧之。京兆萬年（現・陝西省西安）の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。

※江南春絶句：『江南春絶句』と「絶句」が附いているが（詩題に『○○絶句』がしばしばある）、この作品は詞ともされ、『江南春』という詞牌（？）でも呼ば

れている。厳密な絶句と謂うには、（下記の「構成について」にもあるとおり、）平仄上、やや問題がある。

※千里鴬啼緑映紅：（江南の）地方一帯の広さに鶯が啼き、若葉の緑が紅い花に照り映えている。　・千里鶯啼：遥かに広がる（江南）に、（春の）ウグイスの鳴き声が聞こえ。南北朝の南朝梁・丘遲の駢文『與陳伯之書』中の「…暮春三月，江南草長，雜花生樹，羣鶯亂飛。…」（『魏晋南北朝散文』曹明綱編著上海書店出版社２３７ページ『與陳伯之書』）の影響があろうか。　・千里：遥かに離れた距離を表す。実数ではない。なお、「百里」は一邑（村、一地方）で人が一日程度で移動できるできる距離になる。「千里」は遠い距離で、風俗が異なる。邦国が単位となろう。「萬里」は遙か遠くはなれたところ。人間業としては到達し難（がた）い距離。　・鶯啼：ウグイスが啼く。ウグイスで春を暗示している。「千里の春」のこと。　・綠映紅：若葉の緑が、紅い花に照り映えている。若葉の緑が紅い花を引き立たせている。　・綠：草木の葉の色。　・紅：（赤やピンクの）花。両宋・李清照は『如夢令』で「昨夜雨疏風驟，濃睡不消殘酒。試問卷簾人，却道海棠依舊。知否？知否？應是綠肥紅痩。」

と使う。

※水村山郭酒旗：水辺の村や山辺の村里では酒屋の旗印に吹く風が（のどかである）。　・水村：水辺の村。水郷。　・山郭：山沿いの聚落の外周の建物。山沿いの村。山に囲まれた村。　・酒旗風：酒屋の看板になっている旗・酒簾に吹く風。

※南朝四百八十寺：南朝時代に、（江南には）四百八十寺といわれるほど多くの寺が建てられたが。　*ここは聯「南朝四百八十寺，多少樓臺烟雨中」で見ると「南朝の四百八十寺の、多くの樓臺は烟雨の中だ」とわかりよい。　・南朝：四二〇年～五八九年の間に、江南の地に興った六朝（呉、東晉、宋、斉、梁、陳）の中の宋、斉、梁、陳の四王朝で、建康

を首都とした。ここでは、同義に使われている。なお、北朝が異民族の王朝が主なことに対して、南朝は漢民族の王朝が続いたので、漢人にしてみれば、南朝が主流になる。　・四百八十寺：首都建康を始めとする江南各地にあった寺院数。「四百八十寺」を伝統的に「しひゃくはっしんじ」と読む（写真：右二段めの振り仮名「シン」と、朱筆での強調）。また、「十作忱音江南方言在其地所作故用之耳（写真：右三段め」「しひゃくはちじふじ」と読まないのは、音韻変化のためで、「十」の促音の語がｍに転じた場合は「しん」になるというが、ここはそうでもないところ。ここは下記の「構成について」でも分かるとおり、「十」の部分の平仄は本来○になるべきところだが「十」は●で、些か不都合。それゆえ、こんな読み方をしている。陸游の『老學筆記』に○平声「諶」と読む、とあるというが、原典では未確認。なお、この「十」の読み方にについて、２００４年初夏に、伊勢丘人先生よりご教示をいただいた。その内容は：「『十』字の現代中国語（北方語）では、『針』字〔zhen1〕（陰平）の音で読む」とのことである。「十」を平韻字としているともいえる作品は杜牧では、『張好好詩』「君爲豫章

，十三纔有餘。」

、『冬至日寄小姪阿宜詩』「一日讀十紙，一月讀一箱。」「一醉六十日，古來聞阮生。」『出宮人』「十年一夢歸人世，絳縷猶封繋臂紗。」李白の『去婦詞』「十五許嫁君，二十移所天。自從結髮日未幾，離君緬山川。家家盡歡喜，孤妾長自憐。幽閨多怨思，盛色無十年。」などがあるともいえるが…。当然の事ながら、圧倒的に仄韻字で占められている。

※多少楼台煙雨中：（四百八十寺の）多くの建物が、霧雨の中（で、霞んでいる）。　・多少：多くの。また、どれほどの。　・樓臺：〔ろうだい；lou2tai2○○〕高い建物。たかどの。御殿。また、物見台。ここは、前者の意。後世、北宋・蘇軾は『春夜』で「春宵一刻値千金，花有淸香月有陰。歌管樓臺聲細細，鞦韆院落夜沈沈。」

と使う。　・煙雨中：霧雨のなかにある。中唐・韋應物の『登樓寄王卿』に「踏閣攀林恨不同，楚雲滄海思無窮。數家砧杵秋山下，一郡荊榛寒雨中。」

とあり、後世、北宋・蘇軾は『廬山煙雨』で「廬山煙雨浙江潮，未到千般恨不消。到得還來別無事，廬山煙雨浙江潮。」

と使う。
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◎　構成について

　七言絶句。詞ともされる。平韻一韻到底。仄起式。韻式は「ＡＡＡ」。韻脚は「紅風中」で上平一東。この作品の平仄は次の通り。「南朝四百八十寺」の十のところは平声字とする。

　　　○●○○●●○（韻），
　　　●○○●●○○（韻）。
　　　○○●●●●●，
　　　○●○○○●○（韻）。

２００１．　７．２３完
　　　　　　７．２８補
　　　　　１２．　１
２００２．　８．　７
２００３．１０．　４
２００４．　３．２４
　　　　　　８．３０
２００５．　５．　３
　　　　　　７．２４
　　　　　１２．　４
２００７．　４．２５
２０１０．　５．１１
２０１０．１０．　３
２０１１．　２．１９
２０１２．　３．　１
２０１３．　５．１１
２０２０．　６．１７