南朝の遺跡は 山を覆ひて存し、
処として悲史の痕を 留めざる無し。
院は竜輿を止めて 宮府と作し、
巒は聖眼に遒りて 乾坤を限る。
銘扉の歌は 赤誠の志を尽くし、
按剣の心は帰る 紫禁の門。
正閏興亡は 竹帛に埋もるるも、
桜花は旧に依って 陵魂を弔す。
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・覆山: 吉野のいたるところの意。
・悲史: 哀史(国語)。
・院: 吉水院。
・龍輿: 天子のおかご。
・宮府: 皇宮と官府。
・限乾坤:京にくらべて吉野の天地がせまいこと。
・銘扉歌:楠木正行の詠んだ “かへらじと・・・・・” 。
・按剣: 後醍醐天皇は剣の柄を握って崩御された。
・紫禁: ここでは京の皇居をさす。
・正閏: 正統と 閏統(傍系)。
・依旧: 昔のままに。
『春餘拜塔尾陵』参照 。
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