眼中華屋記生存, 舊時無人可共論。 老樹婆娑三百尺, 衫還見讀書孫。 |
初めて家を挈げて 讀書山に還る 雜詩
眼中の 華屋 生存を記するも,
舊時 人の 共に論ず可き無し。
老樹 婆娑たり 三百尺,
衫 還た 書を讀む孫を 見ん。
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◎ 私感訳註:
※元好問:金の文学者。字は裕之。号して遺山。1190年〜1257年。北魏の拓跋氏の家系。なお、当時の金は、満洲、華北、華中をおさえていた。
※初挈家還讀書山雜詩:初めて家族を連れて(郷里の)読書山に還(かえ)った時の詩。 ・挈:〔けつ;qie4●〕引き連れる。ひっさげる。取る。ととのえる。 ・家:ここでは、一家、家族を指す。 ・還:かえる。行き先から、くるりと向きを変えてかえる。もどる。Uターンして元にもどる。 ・讀書山:繋舟山のこと。故郷の忻州(現・山西省忻県)の南10キロメートル、太原の北50キロメートルのところにある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)の46−47ページ「唐 河東道」にある。
※眼中華屋記生存:目のなかには、りっぱな家の様子が焼き付いており、(そこの住人が)生きていたとき(の様子)を覚えている(ものの)。 ・眼中:目のなか。常に意にかけていること。関心、意識の範囲内。 ・華屋:りっぱな家。 ・記:覚えている。記憶している。 ・生存:生きながらえること。
※舊時無人可共論:(もはや)過ぎ去った昔を一緒に論じ合うべき人も、いない。 *「舊時無人可共論」は押韻のため、「無人可共論舊時」と倒置(「舊時」を挿入)した。 ・舊時:過ぎ去った昔。「時」字は○(平声)なので、近体詩とすれば●(仄)字の方が好ましい。 ・無人-:…する人もいない。 ・可:…することがげきる。…べき…。 ・共論:一緒に論じ合う。動詞。
※老樹婆娑三百尺:老木の(枝葉の影が)92メートルの高さでゆらゆらと揺れ動くようになったおり(=将来)には。 ・老樹:年数の経った木。古木。老木。馬致遠の元曲〔越調〕『天淨沙』秋思「枯藤老樹昏鴉,小橋流水人家,古道西風痩馬。夕陽西下,斷腸人在天涯。」がある。 ・婆娑:〔ばさ;po2suo1○○〕揺れ動くさま。(ここでは木の枝葉の影がゆらゆらと揺れ動くさま。)また、舞うさま。身をひるがえして舞うさま。あちらこちらとうろつくさま。徘徊。物事に未練を抱いて立ち去りがたいさま。安んじて落ち着くさま。 ・三百尺:約92メートル。1尺≒30.72センチメートル(宋・元代)で、300尺≒92.16メートル。
※衫還見讀書孫:(成長して)青い色の着物を着た若者姿の孫の(経書の)勉学に勤しむ姿を、なおまた見ることがあろう。 *「衫還見讀書孫」の句は「還見衫讀書孫」としたほうが分かりよいか。 ・衫:青い色の着物の意で、若者、書生を指す。ここでは作者の孫が、やがて若者と成長した姿をいう。この「衫」を誰ととるかで、詩の意味ががらっと変わってくる。唐・白居易の『琵琶行』に「淒淒不似向前聲,滿座重聞皆掩泣。座中泣下誰最多,江州司馬青衫濕。」とあり、南宋・陸游『訴衷情』「青衫初入九重城,結友盡豪英。蝋封夜半傳檄,馳騎諭幽并。 時易失,志難成。鬢絲生。平章風月,彈壓江山,別是功名。」とある。 ・還:また。なおまた。 ・讀書:(経書の勉強のための)本を読む。
◎ 構成について
2008.2.13 2.14 2.15 |