慈母手中線,
遊子身上衣。
臨行密密縫,
意恐遲遲歸。
誰言寸草心,
報得三春暉。
******
遊子の吟
慈母 手中の線(いと),
遊子 身上の衣(ころも)。
行くに臨みて 密密に 縫ふは,
意に恐る 遲遲として 歸らんことを。
誰(たれ)か言ふ 寸草の心の,
三春の暉(き)に 報い得(え)んとは。
*****************
◎ 私感註釈
※孟郊:中唐の詩人。字は東野。諡は貞曜先生。湖州武康(現・浙江省湖州)の人。不遇な一生を送った。751年(天寶十年)〜814年(元和九年)。
※遊子吟:旅立つ息子の詩。 *母の子に対する慈愛の深さと、それに感謝する心を詠う。この作品は、全て対句となっているが、読み下しはそのようにできなかったのが残念。 ・遊子:旅人。家を離れて他郷にいる人。旅行者。ここでは、この母親の息子のことになる。 ・吟:詩体の一。
『古文眞寶』
※慈母手中線:母の手の中の糸で。(母が手ずから)。 ・慈母:慈(いつく)しみ深い母親。 ・手中:手の中。 ・線:糸。
※遊子身上衣:旅立つ息子の上着(を縫っている)。 ・身上:身の上に(羽織る)。 ・衣:衣裳。
※臨行密密縫:出発に臨んで、しっかりと密に縫い込んでいる(のは)。 ・臨行:出発に際して。 ・密密:しっかりと。密に。ここでは縫い目が密であるさまをいう。 ・縫:縫う。
※意恐遲遲歸:(密に縫う母の)思いは、(息子が)帰ってくるのは、長い旅路でずっと遅くなることを心配してのことだからだ。 ・意:思い。意図するところ。 ・恐:おそらく。 ・遲遲:のろのろとして。ぐずぐずとして。時間がかかるさま。速度、進度が滞りがちなさまを謂う。 ・歸:旅先から自宅に戻る。「歸」は本来の居場所(自宅、故郷、墓所)にもどることをいう。
※誰言寸草心:小さな草(=こども)の思いで(大きな包み込む春の陽光(母の慈愛)に応えられるとは)、だれも思ってはいない。 ・誰言:…とだれが言おうか。だれも言わない。だれも思わない。 ・寸草心:小さな草の思い。子ども側の母親の厚恩慈祥に対する心。「草」は後出の「暉」=暖かい陽光、に対して使われている。 ・寸草:小さな草。
※報得三春暉:春の三ヶ月の暖かさ(母親の慈愛)に報いられる(とは、誰も思っていない)。 ・報得:…に応える。…に報(むく)いる。 ・三春暉:母親の慈愛のあたたかさや大きさ。 ・三春:春の三ヶ月。陰暦一月、二月、三月のこと。春季。 ・暉:輝き。
***********
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「衣歸暉」で、平水韻上平五微。次の平仄はこの作品のもの。
○●●○●,
○●○●○。(韻)
○○●●○,
●●○○○。(韻)
○○●●○,
●●○○○。(韻)
2007.8.19 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |