逢入京使 | |
岑參 |
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故園東望路漫漫,
雙袖龍鐘涙不乾。
馬上相逢無紙筆,
憑君傳語報平安。
京に入る使に逢ふ
故園 東に望めば 路 漫漫,
雙袖 龍鐘 涙 乾かず。
馬上 相ひ逢ひて 紙筆 無く,
君に憑りて 傳語して 平安を 報ぜん。
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◎ 私感註釈
※岑參:〔しんじん;Cen2Shen1〕盛唐の詩人。開元三年(715年)〜大暦五年(770年)南陽の人。安西節度使に仕え、当時、西の地の涯までいった。ために、辺塞詩をよくする。蛇足になるが、岑參の「參」字の音は〔さん;can1〕〔しん;cen1〕〔じん;shen1〕とあるが、彼の名は〔じん;shen1〕。(『中国大百科全書・中国文学 T』(中国大百科全書出版)。
※逢入京使:(中華の地を離れた西の方で)唐のみやこ・長安への使いに出逢った。この詩は、南宋・陳與義の『牡丹』「一自胡塵入漢關,十年伊洛路漫漫。墩溪畔龍鐘客,獨立東風看牡丹。」に影響を与えた。
※故園東望路漫漫:故郷の東の方を見れば、路が遥か限りなく長々と続いており。 ・故園:生まれ故郷。ふるさと。 ・東望:東の方を見る。西域に出征している者にとっては、東方が漢民族の故地・中原の方角。 ・(路)漫漫:〔まんまん;man2man2○○〕時間や空間の限りないさま。路が長々と続いているさまであり、時間が長々と経ったことも謂う。この「漫」:〔まん;man2○〕(ひろい。水の果てしなく広いこと。みなぎる。ひろがる。みだれる。ほしいまま≒慢)は両韻で〔まん;man4●〕(ひろい。水の果てしなく広いこと。みちる≒滿)もある。後漢/魏・蔡琰(蔡文姫)の『胡笳十八拍』の十七拍の「拍兮心鼻酸,關山阻修兮行路難。去時懷土兮心無緒,來時別兒兮思漫漫。塞上黄蒿兮枝枯葉干,沙場白骨兮刀痕箭瘢。風霜凜凜兮春夏寒,人馬飢豗兮筋力單。豈知重得兮入長安,歎息欲絶兮涙闌干。」や、前出・南宋・陳與義の『牡丹』「一自胡塵入漢關,十年伊洛路漫漫。墩溪畔龍鐘客,獨立東風看牡丹。」の例は平声での「漫漫」の用例。(『胡笳十八拍』は韻脚の韻の用い方から平韻と分かり、『逢入京使』は韻脚であることと、近体詩としての平仄の配列から分かる)。また、南宋・陸游の『小園』其三「村南村北鵓鴣聲,水刺新秧漫漫平。行遍天涯千萬里, 却從鄰父學春耕」とあるのは、仄韻としての用例。(前二者は平韻の押韻で当該字は韻脚であり、○○とみるべきところ。後者は「●●○○●●○」とすべき句の●●のところで使われている)。蛇足になるが、現代語では「漫」は〔まん;man4●〕のみ。
※雙袖龍鐘涙不乾:両方の袖は、失意で、涙の乾くことがない。 ・雙袖:両袖。 ・龍鐘:〔りょうしょう;long2zhong1○○〕年老いて疲れ病むさま。失意のさま。涙を流すさま。行き悩むさま。 ・涙不乾:涙が乾かない。涙の乾く閑がない意。
※馬上相逢無紙筆:馬に乗って(出かけている時に「入京使」に)出くわしたものの、筆記用具を持ち合わせていなかったので。 ・相逢:…に出逢う。…に(偶然に)出くわす。 ・紙筆:紙や筆といった筆記用具。
※憑君傳語報平安:あなた(=「入京使」)に「無事だ」との知らせの言伝(ことづて)をたのみたい。 ・憑:〔ひょう;ping2○〕たのむ。たよる。よる。また、もたれかかる。ここは、前者の意。後世、これと同じ用法に中唐・白居易の『杭州迴舫』「自別錢塘山水後,不多飲酒懶吟詩。欲將此意憑迴櫂,報與西湖風月知。」がある。 ・君:ここでは詩題に出てくる「入京使」(都への使い)のことになる。 ・傳語:伝言する。言伝(ことづて)する。 ・報:知らせる。報じる。前出・「報」の青字部分参照。 ・平安:無事。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「漫乾安」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。
●○○◎●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2008. 1.10完 2011. 6.23補 8.31 |
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