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雨巷 | |
戴望舒 |
撐著油紙傘,
獨自彷徨在悠長,
悠長又寂寥的雨巷,
我希望逢著
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。
她是有
丁香一樣的顏色,
丁香一樣的芬芳,
丁香一樣的憂愁,
在雨中哀怨,
哀怨又彷徨;
她彷徨在這寂寥的雨巷,
撐著油紙傘
像我一樣,
像我一樣地 默默彳亍著
冷漠、淒清,又惆悵。
她默默地走近,
走近,又投出
太息一般的眼光
她飄過
像夢一般地,
像夢一般地淒婉迷茫。
像夢中飄過
一枝丁香地,
我身傍飄過這個女郞;
她默默地遠了,遠了,
到了頽圮的籬牆,
走盡這雨巷。
在雨的哀曲裏,
消了她的顏色,
散了她的芬芳,
消散了,甚至她的
太息般的眼光
丁香般的惆悵。
撐著油紙傘,
獨自彷徨在悠長,
悠長又寂寥的雨巷,
我希望飄過
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。
******
雨の横町
番傘をさしながら
一人で、長くさまよう
長くて寂しい雨の横町
わたしは出逢うのを望む それは
一つのライラックと同様な
愁いを凝結させた少女とをを
彼女には
ライラックと同様な色
ライラックと同様な香り
ライラックと同様な憂い
がある
雨の中で悲しみ憎む
悲しみ憎んでは、またしても、さまよう
彼女は、この寂しい雨の横町をさまよって
番傘をさして
わたしと同じ様に
わたしと同じ様に黙りこくって、少し進んではたたずんでいる
冷淡で、うら寂しく、恨み悲しんでいる
彼女は黙ったまま近づいてきて
近づいたかと思うと、またしても
溜め息のような眼差しを注いでくる
彼女はゆらめいて過ぎ去り
夢のように
夢のように、穏やかで悲しくて、気持ちがぼうっとしている
夢の中のようにゆらめいて過ぎ去った
一枝のライラックのように
わたしのそばをゆらめいて過ぎ去ったこの女性
彼女はだまったまま、遠ざかっていった
くずれた土塀に到るところまで。(/堕落した道義の限界まで)
この雨の横町を歩きつくした
雨の悲しい曲の中で…
彼女の色が消えてしまった
彼女の匂いがちりぢりになってしまった
散って消えてしまった、甚だしくは、彼女の…
ため息のようなまなざしを
ライラックのような恨み悲しみを
番傘をさしながら
一人で、長くさまよう
長くて寂しい雨の横町
わたしはゆらめいて過ぎ去ることを願う
一つのライラックと同様な
愁いを凝結させた少女を
****************
◎ 私感註釈
※戴望舒:浙江省の杭県の人。現代詩人。1905年~1950年。1925年、上海の震旦大学でフランス語を習い、フランス象徴派の影響を受ける。1926年に共産主義青年団に参加。雑誌の作家となり、現代派の詩歌を創作した。
※雨巷:雨の横町。 *作詩された1927年当時は、国民党の北伐の時期で、国民革命の帰趨について、 1.武漢国民政府に結集する汪精衛ら国民党左派と共産党は、国民党中央委員会で優位を確保する。 2.それに対して、蒋介石ら国民革命軍の主流は、武力による革命主導権奪回の挙にでていく。共産党系の上海総工会の武装行動隊を蒋介石・李宗仁らの軍隊が武装解除し、流血の惨事となった(所謂四・一二クーデタ、上海クーデタ)。各地で同様の事態が起こり、反共を掲げる新しい国民政府が南京に創設され、国民党内から、共産党員やそのシンパが排除され(国共分離)、逮捕されたり殺害されたりした「清党運動」が広がっていった。 3.更に五月、北伐軍からの日本の権益保護のため、第一次山東出兵があり、反日運動も最高潮に達していったという、国内外騒然とした時期のものであり、詩の表現もそれに比例して模糊としていったのではないか。この詩、繰り返すことで、表現や味わいを増している。押韻にしても韻脚以外にも同一韻目の韻字(-ang韻:平水韻でいえば平声唐韻・上声養・去声漾)を多用して、リズム感を出している。(但し、これは偶然のことかも知れないが…。本来、-ang韻は、極めて多く、事実として多用されている)。 ・巷:〔xiang4〕路地。横町。
※撐着油紙傘:番傘をさしながら。 ・撐着:〔cheng1○〕(傘を)さしながら。支えている。つっぱっている。 ・撐:〔たう;cheng1○〕ここでは、(傘を)さすのことをいう。支える。つっぱる。さおさす。さおをつっぱって、舟を進める。さおさして舟を動かす。中華民国・徐志摩の『再別康橋』に「輕輕的我走了,正如我輕輕的來;我輕輕的招手,作別西天的雲彩。那河畔的金柳,是夕陽中的新娘。波光裡的豔影,在我的心頭蕩漾。軟泥上的青荇,油油的在水底招搖;在康河的柔波裡,我甘心做一條水草。那楡蔭下的一潭,不是清泉,是天上虹;揉碎在浮藻間,沈澱著彩虹似的夢。尋夢?撑一支長篙,向靑草更靑處漫溯; 滿載一船星輝,在星輝斑斕裡放歌。但我不能放歌,悄悄是別離的笙簫;夏蟲也爲我沈默,沈默是今晩的康橋!悄悄的我走了,正如我悄悄的來;我揮一揮衣袖,不帶走一片雲彩。」とある。 ・-着:…しつつある。継続する動作を表す動詞に後置されて、継続・進行を表す。=「著」。 ・油紙傘:番傘。
※独自彷徨在悠長:一人で、長くさまよう。 ・独自:〔du2zi4〕独自に。一人(ひとり)で。 ・彷徨:〔pang2huang2○○〕さまよう。ぶらぶらする。ためらって、てきぱきしない。 ・悠長:〔you1chang2〕長い。長く久しい。
※悠長又寂寥的雨巷:長くて寂しい雨の横町。 ・又:…であり…である。…で、その上…である。 ・寂寥:〔ji4liao2〕ひとりぼっちで寂しい。退屈でさびしい。 ・的:形容詞のあとに附ける。
※我希望逢着:わたしは(一人のライラックと同様な愁(うれ)いを凝結させた少女)に出逢うのを望む。 ・我:わたし。 ・希望-:…を希望している。…を望む。 ・逢:(偶然に)出逢う。
※一個丁香一様地:(それは)一つのライラックと同様な。 ・一個:ひとつ(の)。 ・丁香:〔ていかう(ちゃうかう);ding1xiang1〕ライラック。=リラ。また、チョウジ。ライラック(=リラ)と、チョウジとは別の種類。 ・一様地:同様に。同じに。 ・一様:同様。同じ。 ・地:「的」と同じで、形容詞の語尾に附いて動詞などにかかっていく。
※結着愁怨的姑娘:愁(うれ)いを凝結させた少女(を)。 ・結:むすぶ。凝結する。なおm「丁香結」は丁香のつぼみ。 ・愁怨:〔しうゑん;chou2yuan4○●〕愁(うれ)え怨(うら)む。=愁恨。 ・姑娘:むすめ。少女。
※她是有:彼女には(次のようなもの)がある。 ・她:〔ta1〕彼女(かのじょ)。蛇足になるが、「かれ」は〔ta1〕“他”で、「そのもの、それ」は〔ta1〕“它”である。つまり、男性・女性・もの、すべて同じ発音の〔ta1〕であるが、文字表記上はこの三者を書き分けている。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・有:持っている。…がある。
※丁香一様的顔色:ライラックと同様な色。 ・顔色:色。ライラックの色は、明るい紫色。
※丁香一様的芬芳:ライラックと同様な香り。 ・芬芳:〔fen1fang1○○〕芳(かぐわ)しい。
※丁香一様的憂愁:ライラックと同様な憂(うれ)い。 ・憂愁:〔you1chou2〕憂愁。憂い。心配する。憂える。
※在雨中哀怨:雨の中で悲しみ憎む。 ・在:…で。 ・哀怨:〔ai1yuan4〕悲しみ憎む。怨む。
※哀怨又彷徨:悲しみ憎んでは、またしても、さまよう。
※她彷徨在這寂寥的雨巷:彼女は、この寂しい雨の横町をさまよって。 ・這:この。文語の「此」に似た働きをする。
※撐着油紙傘:番傘をさして。
※像我一様:わたしと同じ様に。 ・像:…のような。文語の「如」に似た働きをする。
※像我一様地黙黙彳亍着:わたしと同じ様に黙りこくって、少し進んではたたずんでいる。 ・黙黙:〔mo4mo4〕黙りこくる。志を得ないさま。 ・彳亍:〔chi4chu4〕少し進んではたたずむ。ゆっくり歩く。そぞろ歩く。
※冷漠淒清又惆悵:冷淡で、うら寂しく、恨み悲しんでいる。 ・冷漠:〔leng3mo4〕人や物に対し冷淡で。関心を持たない。 ・淒清:〔qi1qing1〕うら寂しい。薄ら寒い。 ・惆悵:〔chou2chang4〕失望する。恨み悲しむ。
※她黙黙地走近:彼女は黙ったまま近づいてきて。 ・走近:歩いて近づく意か。 ・走:〔zou3〕歩く。歩む。また、出かける。また。逃げる。ここは、前者の意。
※走近又投出:近づいたかと思うと、またしても(溜め息のような眼差し)を注いでくる。 ・投出:投げかける意。
※太息一般的眼光:溜め息のような眼差し(を)。 ・太息:〔tai4xi1〕歎息(する)。 一般的:同じの。同じような。 ・一般:〔yi4ban1〕同じ。一様。また、普通(である)。ここは、前者の意。 ・眼光:まなざし。視線。また、眼力。考え方。ここは、前者の意。
※她飄過:彼女は(風に)ゆらめいて過ぎ(去った)。 ・飄:〔piao1〕(風に)ひるがえる。はためく。ゆらめく。
※像夢一般地:夢のように。 ・像夢:夢のよう。
※像夢一般地淒婉迷茫:夢のように、穏やかで悲しくて、気持ちがぼうっとしている。 ・淒婉:〔qi1wan3〕(音が)穏やかで悲しい。 ・迷茫:〔mi1mang2〕気持ちがぼうっとしている。ここは、前者の意。広々として見極めがつかない。
※像夢中飄過:夢の中のように(風に)ゆらめいて過ぎ(去った)。
※一枝丁香地:一枝のライラックのように。 ・一枝:ひとえだ(の)。 ・-地:の「地」は、前出・「像夢一般地」の「地」と呼応している。
※我身傍飄過這個女郎:わたしのそばをゆらめいて過ぎ(去った)この女性。 ・身傍:〔shen1pang2〕身辺(に)。身の回り(に)。 ・這個:この(もの)。 ・女郎:年頃の娘。可愛い女性。
※她黙黙地遠了遠了:彼女はだまったまま、遠ざかっていった。 ・遠了:遠くなってしまった。遠ざかっていった意。 ・-了:動詞の後に附いて、動作や状態の完成を表す。…した。…なった。動詞の後に附いて、断定・決定を表す。…である。…のだ。ここは、後者の意。
※到了頽圮的籬牆:くずれた土塀に到るところまで。(/堕落した道義の限界まで)。 ・到了:…に到った。…に辿り着いた。 ・頽圮:〔tui2pi3〕道徳が廃れる。堕落する。 ・籬牆:〔りしゃう;li2qiang2〕まがきや土塀。
※走尽這雨巷:この雨の横町を歩きつくした。 ・走尽:歩きつくす。
※在雨的哀曲裏:雨の悲しい曲の中で…。 ・在…裏:…の中で。 ・哀曲:悲しみの曲。悲しい曲。
※消了她的顔色:彼女の色が消えてしまった。 ・消:きえる。
※散了她的芬芳:彼女の匂いがちりぢりになってしまった。 ・散:〔san4●〕分散する。ちりぢりになる。
※消散了甚至她的:散って消えてしまった、甚だしくは、彼女の…。 ・消散:散って消える。また、病気を散らす。ここは、前者の意。 ・甚至:〔shen4zhi4〕ひどいのになると。甚だしきに至っては。
※太息般的眼光:ため息のようなまなざし(を)。 ・般:種類。たぐい。同じ。 ・-般的:…と同じ。
※丁香般的惆悵:ライラックのような恨み悲しみ(を)。
※撐著油紙傘:番傘をさしながら。 *ここから終わりまでは、詩のはじめ部分のリフレイン。
※独自彷徨在悠長:一人で、長くさまよう。
※悠長又寂寥的雨巷:長くて寂しい雨の横町。
※我希望飄過:わたしは(風に)ゆらめいて過ぎ去ることを願う。
※一個丁香一様地:一人のライラックと同様な。
※結着愁怨的姑娘:愁(うれ)いを凝結させた少女(を)。
***********
撐著油紙傘,
獨自彷徨在悠長,
悠長又寂寥的雨巷,
我希望逢著
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。
她是有
丁香一樣的顏色,
丁香一樣的芬芳,
丁香一樣的憂愁,
在雨中哀怨, 哀怨又彷徨;
她彷徨在這寂寥的雨巷,
撐著油紙傘 像我一樣,
像我一樣地 默默彳亍著
冷漠、淒清,又惆悵。
她默默地走近,
走近,又投出
太息一般的眼光
她飄過
像夢一般地,
像夢一般地淒婉迷茫。
像夢中飄過
一枝丁香地,
我身傍飄過這個女郞;
她默默地遠了,遠了,
到了頽圮的籬牆,
走盡這雨巷。
在雨的哀曲裏,
消了她的顏色,
散了她的芬芳,
消散了,
甚至她的
太息般的眼光
丁香般的惆悵。
撐著油紙傘,
獨自彷徨在悠長,
悠長又寂寥的雨巷,
我希望飄過
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。
◎ 構成について
韻式を明示することが難しいが、-ang系の押韻が基本的に三句ごとにある。韻脚は平韻、仄韻字が混じり、確定的なことがいえないが、句末の赤色とやや濃い赤色の部分で、平水韻や新韻の外。この作品の平仄は、次の通り。
○●○●●,
●●○○●○○。(韻)
○○●●○●●●,(韻)
●○●○●,
●●○○●●●,
●●○●●○○。(韻)
○●●
○○●●●○●
○○●●●○○(韻)
○○●●●○○
●●○○●
○●●○○(韻)
○○○●●●○●●●(韻)
○●○●●
●●●●
●●●●●●●●●●
●●○○●○●(韻)
○●●●●●
●●●○●
●●●○●●○(韻)
(後段 省略)
2011.8.18 8.19 8.20 8.24 |
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