黄中堅蚊　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩沈紹姫 Huang Zhongjian

蚊
	清・黄中堅

斗室何來豹脚蚊，
殷如雷鼓聚如雲。
無多一點英雄血，
閑到衰年忍付君。

                                         　　　　　　　　　　  　
       　　
　　　　　　　
　　　　　
      　    　　
　　　   　　
　　

******

蚊(か)

斗室( としつ)　何(いづ)くよりか來(きた)る　　豹(へう)脚(きゃく)の蚊(か)，
殷(いん)として雷鼓(らいこ )の如く　　聚(あつ)まりて雲の如し。
多(た) 無(な)し　一點(いってん)　　英雄の血，
閑(かん)に　衰年(すゐねん)に到りて　　君に付(ふ)するに忍(しの)びんや。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　****************

◎　私感註釈

※黄中堅：不詳。この詩の作者を沈紹姫ともする。ここでは､『清詩佳絶』（明治十二年）第十二葉による。

『清詩佳絶』十二葉

※蚊：蚊（か）。群がり寄る蚊（か）を詩に詠んだ。『清詩佳絶』（明治十二年）第十二葉より。俗語（口語、現代語）を自然な形で取り込み、日常生活の一コマを軽妙洒脱に活写したもの。蛇足になるが、蚊で有名なのは、清・王漁陽の『再過露筋祠』「翠羽明璫尚儼然，湖雲祠樹碧于烟。行人繋纜月初墮，門外野風開白蓮。」の「露筋祠」などがある。

※斗室何來豹脚蚊：狭い部屋のどこから来たのだろうか、縞模様（しまもよう）の脚（あし）の蚊（か）は。　・斗室：〔としつ；dou3shi4●●〕極めて小さい部屋。一斗桝（ます）ほどの部屋。　・何來：どこからきたのか、の意。“从何处来”。　・豹脚蚊：縞模様（しまもよう）の脚（あし）の蚊（か）。ハマダラカ（？）。後世、中華民国・聞一多は『死水』で「這是一溝絶望的死水，清風吹不起半點漪淪。不如多仍些破銅爛鐵，爽性潑你的賸菜殘羹。也許銅的要綠成翡翠，鐵罐上銹出幾瓣桃花。再讓油膩織一層羅綺，黴菌給他蒸出些雲霞。讓死水酵成一溝綠酒，飄滿了珍珠似的白沫；小珠們笑聲變成大珠，又被偸酒的花蚊咬破。那麼一溝絶望的死水，也就誇得上幾分鮮明。如果青蛙耐不住寂寞，又算死水叫出了歌聲。這是一溝絶望的死水，這裏斷不是美的所在，不如讓給醜惡來開墾，看他造出個什麼世界。」と使う。

※殷如雷鼓聚如雲：（蚊の羽音は）殷々（いんいん）と轟（とどろ）いて、雲のようにたくさん集まってくる。　・殷：〔いん；yin3●〕雷の音。殷々（いんいん）と。「殷殷其雷」ごろごろと雷が鳴る。殷々と雷が轟（とどろ）く。　・雷鼓：〔らいこ；lei2gu3◎●〕ばちで太鼓をたたく。「雷」字は「擂」字に通じ、（現代語）＝“擂鼓”（太鼓をたたく）。　・擂：〔らい；lei2,lei4◎〕たたく。うつ。　・聚：〔しゅう（しゅ）；ju4●〕集まる。一族が寄り集まる。かたまるように寄り合わせる。蛇足になるが、「あつまる」意には「聚」〔しゅう（しゅ）；ju4●〕の外に、「集」〔しふ；ji2●〕がある。現代語では、一般的な動詞の「あつまる」は“聚”であって、“集”は主として文章語的で名詞化した用法や、詩歌・文章を編集した書物（名詞）として使う。　・如雲：（蚊の群がり集まるさまが）雲のようにたくさんである。

※無多一點英雄血：余分な英雄の血なども無くて。　・無多：…も…ないのに。否定詞の後に用いて漠然とある程度を表す。（現代語の用法）＝“没有多…”。　・多一點：多いめ。余分な。余った。（現代語）＝“多一点儿”。　・一點：少し。ほんの少し。…ぽっち。不定量を表す。（現代語）＝“一点儿”。

※閑到衰年忍付君：平穏裏に衰え老いた身になってしまったので、心を鬼にして、あなた（＝蚊）には（血を）あげられないよ。　・閑：平穏である。また、ひまである。ここは、前者の意。（現代語）。　・到：…になる。…に到る。　・衰年：老年。体力の衰える年齢。　・忍：心を鬼にする。無慈悲になる。耐える。我慢する。こらえる。辛抱する。（現代語）＝“忍”。　・付：与える。渡す。　・君：きみ。あなた。ここでは､蚊のことになる｡

　　　　　　　　　　　　　　***********

◎　構成について

韻式は、韻式は、「AAA」。韻脚は「蚊雲君」で、平水韻。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
●○◎●●○○。（韻）
○○●●○○●，
○●○○●●○。（韻）