讀張魏公傳有感曲端 | |
明・江盈科 |
子聖焉能蓋父凶,
曲端冤與岳飛同。
何人爲立將軍廟,
也把烏金鑄魏公。
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張 魏公 傳を讀みて曲端 に感有り
子 聖 なれども焉 んぞ能 く 父の凶 なるを蓋 はん,
曲端 の冤 は岳飛 と同じ。
何人 か 將軍の廟 を 立て,
也 た烏金 を把 ちて魏公 を鑄 るを爲 さん。
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◎ 私感註釈
※江盈科:明代の人。1553年〜1605年。字は進之。号して緑蘿山人。桃源県(現・湖南省)の人。万暦二十年(1592年)の進士で、長洲知県、吏部員主事、四川提学副使等に任じられる。袁宏道と交わり、「公安派」の一員と見なされる。
※読張魏公伝有感曲端:(『宋史』の)張魏公伝を読んで曲端について感じるところがあり(作った詩)。 ・張魏公:両宋の張浚のこと。政治家。1097年(四年北宋・哲宗・紹聖四年)〜1164年(南宋・孝宗・隆興二年)。字は徳遠。張栻(この詩では「子」と表現される)の父。漢州綿竹(現・四川省)の出身。(『宋史』卷第三百六十一列傳第一百二十(中華書局版2880ページ〜2884ページ)にある。(蛇足になるが、『宋史』卷第三百六十九列傳第一百二十八中華書局版2923ページ〜2930ページの張俊は別人)。抗金(金国に抗戦する政策)を主張した。ただし、この詩の作者・江盈科は、張浚が抗金の武将・曲端を殺した点に眼を附け、秦檜と岳飛との関係(張浚=秦檜、曲端=岳飛)とのようにとらえ、この詩を作った。 ・張魏公伝:『宋史』卷第三百六十一列傳第一百二十「張浚子栻」伝(中華書局版2880ページ〜2884ページ)のこと。 ・有感:感じるところがある。 ・曲端:南宋初期の抗金の武將。1090年〜1131年。名は端。字は正甫。鎮戎軍(現・寧夏・固原)の人。曲端は曾て「不向關中興事業,却來江上泛漁舟。」(関中(=中央)で、事業に成功したいとは思わない。それよりも、川に小舟を浮かべて漁業をしたい」と謂う詩を詠み、それがため、王庶は、張浚に曲端を告発した。張浚も、才に恃んだ曲端をこころよく思っていなかったので、康隨のいる投獄した。最期は恨みを持っていた康隨のために牢獄で殺される。殺され方は『宋史』卷第三百六十九列傳第一百二十八「張俊/…曲端」(中華書局版2928ページ〜2929ページ)に「隨令獄吏縶之,糊其口,熁之火。端乾渇求飮,予(=あたえる)之酒,九竅流血而死,年四十一。」と強烈である。
※子聖焉能蓋父凶:子(=張栻:ちょうしょく)が立派だからといって、父親(=張魏公・張浚)が悪いことに蓋(ふた)をして隠蔽することがどうしてできようか。 ・子:ここでは張魏公・張浚の子である張栻〔ちゃうしょく;Zhang1 Shi4〕のことをいう。(『宋史』卷第三百六十一列傳第一百二十「張浚子栻」(中華書局版2880ページ〜2884ページ)にある。 ・聖:かしこい。さとい。張浚の子の張栻は、朱熹、呂祖謙とともに「東南三賢」と称されていた。「父凶の「凶」に対応させて使う(「子聖」:「父凶」)。 ・焉能:どうして…でいいだろうか。いづくんぞよく…。 ・蓋:蓋(ふた)をする。おおう。ここでは、覆い隠す意で使われる。 ・父凶:父親(の張浚)が悪い。 ・凶:〔きょう;xiong1○〕悪い。悪者。
岳飛を祀った岳王廟(平成18年9月) 岳王廟前に跪く秦檜とその妻(平成18年9月)
※曲端冤與岳飛同:曲端が無実の罪であるのは、岳飛と同じである。 ・冤:〔ゑん;yuan1○〕無実の罪である。ぬれぎぬである。冤罪(えんざい)である。 ・與…同:…と同じである。 ・岳飛:〔がくひ;Yue4Fei1●○〕南宋の武将。1103年(北宋・徽宗・崇寧二年)〜1142年(南宋・高宗・紹興十二年)。字は鵬挙。河南省湯陰の人,南宋の軍団の将軍であり、よく金と闘った主戦派。秦檜や高宗にとっては、対金媾和の邪魔者であり、結局、兵権を取り上げられ、殺された。後に名誉を回復した。今に至るも抗金闘争の英雄であり、傑出した(漢)民族の英雄。詩詞も『滿江紅』「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。 康耻,猶未雪。臣子憾,何時滅。駕長車踏破,賀蘭山缺。壯志饑餐胡虜肉,笑談渇飮匈奴血。待從頭、收拾舊山河,朝天闕。」とある。
※何人爲立將軍廟:誰か(曲端)将軍の廟を建てて。 ・何人:〔かじん(なんぴと、なんびと、なにびと);he2ren2○○〕ここでは誰かの意。また、いかなる人。どういう人。何者。 ・爲:「爲」は後半全てにかかる。「爲+〔立…〕+〔也(把…)鋳…〕」。 ・將軍廟:曲端を祀った廟。なお、岳飛を祀った廟は岳王廟として、杭州の西湖畔にある。なお、そこの門前には(漢民族の裏切り者として、)縛められて跪いている秦檜等の銅像があり、写真を撮った平成18年の秋でも“打死你!打死你!”と言って叩いていた者、唾を吐きかけていた者を目撃した(写真:右)。「民族の怨み」を表出するショッキングな場所。
※也把烏金鑄魏公:なおまた、赤銅(しゃくどう)で張魏公(=張浚)(の像を)を鋳(い)ることをしては(どうか)。 ・也:また。 ・把:…で。〔古白話〕。*客語(目的語)・方法・手段を表す。また、…を。ここは、前者の意。 ・烏金:〔うきん;wu1jin1○○〕赤銅(しゃくどう)。銅に金3〜4パーセント(/1〜10パーセント)を加えた銅合金で、紫がかった黒色を呈する。また、鉄の異称。 ・鑄:溶かした金属で鋳造する。 ・魏公:前出・張魏公(=張浚)のこと。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「凶同公」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2012.2.17 2.18 |
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