商鞅 | |
北宋・王安石 |
自古驅民在信誠,
一言爲重百金輕。
今人未可非商鞅,
商鞅能令政必行。
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商鞅
古 へより民 を驅 るは信誠 に在 り,
一言 重きと爲 して 百金輕 し。
今人 未 だ商鞅 を非 とす可 からざるは,
商鞅 能 く 政をして 必ず行はれ令 めたり。
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◎ 私感註釈
※王安石:北宋の政治家、改革者。文学者。1021年(天禧五年)〜1086年(元祐元年)。字は介甫。号は半山。撫州臨川(現・江西省臨川)の人。神宗のとき宰相となり、変法(制度改革)を倡え強行したが、司馬光らの反対に遭い、やがて失脚して引退する。散文に優れる。唐宋八大家の一人。
※商鞅:戦国時代の政治家。法家の代表的な人物。紀元前390年?〜紀元前338年。衛の公子。秦の孝公に仕え、変法(≒新法)を断行し、旧来の貴族層の特権を廃して、君主による中央集権の政治体制をつくり、富国強兵を実現した。しかし、強制的な改革は旧貴族層の反発を買い、孝公の死後、処刑された。作者は、商鞅を自分に擬えて、変法にたずさわる決意を述べている。
※自古駆民在信誠:昔から、人民を追いたてて統治する(要諦は)まことにある。≒昔より、国家統治の理念は人民の信頼を得ることにある。 ・自古:昔から。昔より。 ・駆:人を追いたてて使う。追いたてる。統治する。 ・信誠:まこと。
※一言為重百金軽:一言(の政治的断行)を重んじて、多くの金(きん)(や利益)を軽いものとしている。≒一旦決断したことは、必ず実行し、“議論”しあって妥協することなく、利益誘導があってもそのようなことは、軽いものであるとして見向きもしない。*「一言爲重百金輕」の句は句中の対でとなっている。 ・一言為重:唐・魏徴の『述懷』に「中原初逐鹿,投筆事戎軒。縱計不就,慷慨志猶存。杖策謁天子,驅馬出關門。請纓繋南越,憑軾下東藩。鬱紆陟高岫,出沒望平原。古木鳴寒鳥,空山啼夜猿。既傷千里目,還驚九折魂。豈不憚艱險,深懷國士恩。季布無二諾,侯嬴重一言。人生感意氣,功名誰復論。 」とある。この「侯嬴重一言」の侯嬴とは、魏の信陵君の客となった侯嬴を指す。戦国時代の魏の隠士の名。自分の一言を重んじ、その信義のため、自ら言ったとおりに命を絶った故事による。侯嬴は、七十歳で夷門(東門)の監者となり、後、信陵君の客となる。信陵君が出陣するとき、侯嬴は、献策するとともに、老齢ゆえ従軍不能のため、従軍を辞退した。しかし、「(信陵君が目的地に着到すると思われる日に、)自刎して公子(信陵君)を送ろう」と言い、その言の如く自殺した故事に拠る。『史記・魏公子列傳』に「魏有隱士曰侯嬴年七十,家貧,爲大梁夷門監者。公子聞之,往請,欲厚遺之。不肯受,曰:“臣嬴身藉行數十年,終不以監門困故而受公子財。”公子於是乃置酒大會賓客。…於是公子請仇亥。仇亥笑曰:“臣乃市井鼓刀屠者,而公子親數存之,所以不報謝者,以爲小禮無所用。今公子有急,此乃臣效命之秋也。”遂與公子倶。…侯生曰:“臣宜從,老不能。請數公子行日,以至晉鄙軍之日,北向自剄,以送公子。”公子遂行。」という壮烈な場面がある。 ・百金:多くの量/重さの金。 ・-金:貨幣の単位。1金≒銀1両。1金≒銅20両。現代・楊啓宇は『祭彭コ懷』で「鐵馬金戈百戰餘,蒼涼晩節月同孤。恟纛゚深三宿草,人間始重萬言書。」とする ・軽:かろんじる。かろんず。「爲重」の対で、動詞として使われる。
一言爲重 百金輕
※今人未可非商鞅:現代人が商鞅のことをあまり非難してはいないのは。 ・未可:まだ…すべきでない。成語に「未可厚非」がある。あまり非難してはいけない。過度に非難すべきほどでもない。 ・非-:(…を)非難する。(…を)批判する。(…を)誹謗する。
※商鞅能令政必行:商鞅が政治を必ず実行させていた(からなのだ)。(=決められる政治をしていたからなのだ)。 ・能:よく。…ことができる。 ・令:〔れい;ling2(口頭ではling4)○〕(…に…を)させる。(…をして)…しむ。使役表現の助字。 ・政:政令。 ・必:かならず。 ・行:おこなう。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「誠輕行」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)「令」は使役の助字の場合は○
2012.8.12 8.13 |
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