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庚申正月遊齊安
                                                  
                        北宋・王安石

水南水北重重柳,
山後山前處處梅。
未即此身隨物化,
年年長趁此時來。




                                      
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            庚申(かうしん)の正月に齊安(せいあん)に遊ぶ

水南(すゐなん) 水北(すゐほく)  重重(ちょうちょう)たる柳,
山後(さん ご ) 山前(さんぜん)  處處(しょしょ)の梅。
(いま)(ただ)ちに ()の身の  物化(ぶっくゎ)(したが)はずば,
年年(ねんねん) 長く  ()の時を()ひて(きた)らん。

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◎ 私感訳註:

※王安石:北宋の政治家、改革者。文学者。1021年(天禧五年)〜1086年(元祐元年)。字は介甫。号は半山。撫州臨川(現・江西省臨川)の人。神宗のとき宰相となり、変法(制度改革)を倡えて強行したが、司馬光らの反対に遭い、やがて失脚して引退する。散文に優れる。唐宋八大家の一人。

※庚申正月遊斉安:庚申(1080年・北宋・元豊三年)の正月に斉安で遊んだ。 *この詩は「水南水北」・「山後山前」、「重重」・「處處」、「此身」・「此時」、「年年」と、竹枝詞のような趣である。 ・庚申:〔かうしん;geng1shen1○○かのえさる〕。干支で表した年で、ここでは、1080年・北宋・元豊三年を指す。*干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」のことをいい、十二支とは「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順次、次のように組み合わせていく。 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目は)丙子、丁丑…となって、合計は(ページの)60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である。蛇足になるが、庚申年は元豊三年(1080年)だけに限らず、±60年(の倍数年)も丙寅年となる。(例えば:1140年、1200年…。また、1020年、960年…と)。 ・斉安:地名。現・湖北省黄岡市黄州区。また、寺院の名。江寧(現・南京市=作者の隠棲の地)の郊外にあると云う。黄岡、黄州は、『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)22−23ページ「北宋 淮南東路 淮南西路」にある。武昌の対岸。

※水南水北重重柳:(近景の)河や池の水の南側や北側には、幾重にも重なり合った(晩春〜初夏のように繁った)柳があり。 ・水南水北:(近景の)河(=長江)や池の水の南側や北側。 ・重重:〔ちょうちょう;chong2chong2○○〕かさなるさま。幾重にも重なり合うさま。=層層。なお、〔ぢゅうぢゅう;zhong4zhong4●●〕では、重いさま、(また、国語で、いくえにも、かさねがさね、)になるが、ここは、〔ちょうちょう;chong2chong2○○〕の意で、かさなるさま。幾重にも重なり合うさま。

※山後山前処処梅:(遠景の)山の前や後ろのいたるところに、(初春のさまの)梅の花が咲いている。 ・山後山前:(遠景の)山の前や後。 ・処処:〔しょしょ;chu4chu4●●〕いたるところ。

※未即此身随物化:この我が身が、物の変化にしたがう(=死に赴く)ことは、まだすぐにというわけではないので。 ・未即:まだ、すぐには…ではない、の意。「即」:すぐ。ただちに。とりもなおさず。すなわち。 ・随:したがう。 ・物化:〔ぶっくゎ;wu4hua4●●〕物の変化すること。万物の変化。転じて、人の死を謂う。『莊子・齊物論篇』に「昔者荘周夢爲胡蝶。栩栩然胡蝶也。自喩適志與。不知周也。俄然覺,則蘧蘧然周也。不知周之夢爲胡蝶與,胡蝶之夢爲周與。周與胡蝶,則必有分矣。此之謂
物化。」とある。

※年年長趁此時来:(生きているうちは)毎年、いつもこの(多彩な)時節のうちにやって来よう。 ・年年:毎年。年ごとに。 ・長:ひさしく。つねに。=常。 ・趁:〔ちん;chen4●〕…のうちに。…に乗じて。…を利用して。また、逐(お)う。乗じる。つけ込む。現代(中国)語でも「趁」をよく使い、“
熱喫”(熱いうちに食べる)、“機會”(機会に乗じて)等とよく使う。





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「梅來」で、平水韻上平十灰。次の平仄はこの作品のもの。

●○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2017.12.1
     12.2
     12.3
                               
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