望嶽 | |
杜甫 |
岱宗夫如何,
齊魯青未了。
造化鍾神秀,
陰陽割昏曉。
盪胸生曾雲,
決眥入歸鳥。
會當凌絶頂,
一覽衆山小。
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嶽を望む
岱宗 夫れ如何,
齊魯 未だ了らず。
造化は ~秀を鐘め,
陰陽は 昏曉を割つ。
胸を盪かせば 曾雲 生じ,
眥を決すれば 歸鳥 入る。
會ず當に 絶頂を凌ぎて,
一覽すべし 衆山の小なるを。
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◎ 私感註釈
※杜甫:盛唐の詩人。712年(先天元年)〜770年(大暦五年)。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県(現・河南省)の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の一生を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。なお、この作品は若い頃(二十五歳頃)の作品という。
※望嶽:高大な山・泰山を望む。また、四方の群小の山々を見下ろす泰山のようになりたいと願う。双方の意が込められている。後期の詩には見られない詩風。 ・嶽:高大な山。ここでは、五岳の長である泰山を指す。 ・望:ながめる。そうありたいと願う。第一義的には「(泰山を)ながめる」の意だが、「(四方の群小の山々を見下ろす泰山の)ようになりたいと願う」の意もあることが、作品全体を通して伝わってくる。
※岱宗夫如何:泰山(岱宗)とは、そもそも、どのような山なのか。 ・岱宗:〔たいそう;dai4zong1●○〕泰山。「宗」は五岳の長の意。現・山東省泰安市のすぐ北、済南の50キロメートル南にある大山。旧時、皇帝が封禅の儀式を行ったところでもある神聖な山。東岳。五岳の一つ。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社))44−45ページ「唐 キ畿道 河南道」にある。 ・夫:〔ふ;fu2○〕それ。いったい。そもそも。発語の言葉(助字)。 ・如何:どのようであるか。どのようにするか。ここは、前者の意。
※齊魯青未了:斉の国(現・山東省東部)から魯の国(現・山東省西部)の国にまたがり、山の青さは尽きることがない。 ・齊魯:〔せいろ;Qi2Lu3○●〕現・山東省東北部から西部。 ・青:ここでは、青々とした山の緑のこと。 ・未了:いまだ尽きることがない。まだ終わらない。
※造化鍾神秀:天地創造の造物主は、比類の無い霊妙を集め。 ・造化:〔ざうくゎ;zao4hua4●●〕万物を造り出して、育てるもの。造物主。宇宙。自然。天地間の万物を支配している法則。 ・鍾:〔しょう;zhong1○〕(抽象的なものを)あつめる。後世、日本の藤田東湖が『和文天正氣歌』で「天地正大氣,粹然鍾~州。秀爲不二嶽,巍巍聳千秋。注爲大瀛水,洋洋環八洲。發爲萬朶櫻,衆芳難與儔。」と使う。 ・神秀:〔しんしう;shen2xiu4○●〕不思議に気高くひいでる。何ともいえず神々しい。
※陰陽割昏曉:泰山の南(陽)と泰山の北(陰)とでは夕方と明け方を異にするほどである。 ・陰陽:ここでは、山の北側と南側のことになる。 ・割:〔かつ;ge1●〕切り分ける。 ・昏曉:〔こんげう;hun1xiao3○●〕夕方と明け方。
※盪胸生曾雲:我が胸を動かすのは、かさなりあった雲が湧き上がってくるさまで。 ・盪胸:〔たうきょう;dang4xiong1●○〕胸を突き動かす。 ・盪:〔たう;dang4●〕突く。動かす。 ・曾雲:〔そううん;ceng2yun2○○〕幾重にも重なった雲。層をなす雲。
※決眥入歸鳥:目を大きく見開けば、ねぐらに帰る鳥が山影に吸い込まれていく。 ・決眥:〔けつぜい;jue2zi4●〕目を大きく見ひらく。 ・眥:〔ぜい、し、ざいzi4●〕まなじり。 ・歸鳥:(日暮れになって)ねぐらに帰る鳥。
※會當凌絶頂:(いつの日か、)必ずやこの泰山の頂上をきわめて。(いずれの日にか、みんなの上に立って)。 ・會當:かならず。きっと。まさに…すべし。 ・凌:〔りょう;ling2○〕侵(おか)す。犯(おか)す。しのぐ。 ・絶頂:山の頂上。山のもっとも高いところ。
※一覽衆山小:周囲の群小の山々を、一望に見下ろしてやるのだ。(みんなをみおろしてやろのだ)。 ・衆山:もろもろの山。 ・小: ここでは、「(一覽)・衆山小」で「多くの山々が小さいことを…」の意。
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◎ 構成について
韻式は、「aaaa」。韻脚は「了曉鳥小」で、平水韻上声十七篠。この作品の平仄は、次の通り。
●○○○○,
○●○●●。(韻)
●●○○●,
○○●○●。(韻)
●○○○○,
●●●○●。(韻)
●○○●●,
●●●○●。(韻)
2008.9.20 9.21 9.22完 2013.6.11補 |
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