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劉十九同宿 | |
唐・白居易 |
紅旗破賊非吾事,
黄紙除書無我名。
唯共嵩陽劉處士,
圍棋賭酒到天明。
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劉十九 同じく宿す
紅旗 賊を破るは 吾が事に非ず,
黄紙の除書に 我が名 無し。
唯だ 嵩陽の 劉處士と共に,
棋を圍み 酒を賭けて 天明に到る。
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◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)~846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。
※劉十九同宿:劉十九と一緒に一夜を過ごした。 *自註に「時淮寇初破」とある。淮西で叛乱を起こした李希烈(のことか?)が鎮定された時のもので、作者の人生観を自然に歌いあげた佳作。伊勢丘人先生の御教示をいただいた。 ・劉十九:〔りうじふく;Liu2Shi2jiu3〕劉家の十九男(なん)。劉家の十九番目の男子。白居易の詩の仲間か飲み仲間か。白居易は『問劉十九』で「綠螘新醅酒,紅泥小火壚。晩來天欲雪,能飮一杯無。」と、酒を飲みに来い、と誘っている。 ・十九:排行。十九番目の男子。 ・同宿:同じ家(宿)に泊まりあわせる。ここでは劉十九が白居易の家に泊まった。
※紅旗破賊非吾事:紅旗を掲げて王事に竭(つ)くし、侵入者を撃ち破るという(晴れがましい武役は、もはや)わたしのつとめではなく(また、わたしの心の趨くところでもなく)。 *作者の信念でもある。この句に基づき日本・鎌倉時代の藤原定家の「紅旗征戎非吾事」が生まれた。なお、定家の「紅旗征戎非吾事」の平仄は「○○○○○○●」となり(近体詩でなくとも、『楚辭』などを除いて)極めて変則的なもの。但し、「紅旗征戎 吾が事に非ず」という読み下しは、日本語としては美しいものとなっている。 ・紅旗:赤い旗。王事の象徴。天子や宮廷を象徴するもの。 ・破賊:賊軍を撃ち破る。『唐書』では安禄山軍を「賊」と表している。 ・非吾事:わたしのつとめではない。
※黄紙除書無我名:(それ故、)詔(みことのり)を書いた黄紙の叙任の書には、わたしの名は載っていない。 *後出・劉処士を念頭に置いた句でもある。 ・黄紙:黄麻紙。詔(みことのり)を書くのに用いる紙。 ・除書:叙任の書。
※唯共嵩陽劉處士:ただ、嵩陽(すうよう)の(無位無冠の)劉さんと共にあって。 ・嵩陽:〔すうやう;Song1yang2○○〕嵩山の南。現・河南省登封市附近か。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44-45ページ「唐 都畿道 河南道」にある。洛陽の東南東50キロメートルのところ。 ・劉處士:〔りうしょし;Liu2chu3shi4●●〕劉さん。前出・劉十九のこと。 ・處士:〔しょし;chu3shi4●●〕仕えないで民間にある人物。在野の士。
※圍棋賭酒到天明:夜明けになるまで、酒を賭(か)けた碁を打っている(のが現在のわたしの心の趨くところの姿なのだ)。 ・圍棋:碁を打つ。囲碁をする。 ・賭酒:酒を賭(か)ける。囲碁の勝負で負けた方が(或いは勝った方)が、酒を飲むこと。 ・天明:夜明け。明けがた。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「名明」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○○●,
○●○○○●○。(韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2009.7.26 7.27 |
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