春宮曲 | |
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唐・王昌齡 |
昨夜風開露井桃,
未央前殿月輪高。
平陽歌舞新承寵,
簾外春寒賜錦袍。
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春宮曲
昨夜 風に開 く露井 の桃,
未央 の前殿 月輪 高し。
平陽 の歌舞 新たに寵 を承 け,
簾外 春 寒くして錦袍 を賜 ふ。
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◎ 私感註釈
※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。
※春宮曲:春の宮殿の歌。後宮で、新たな女性が寵を賜ることとなり、かわって、以前の女性が寵を失うという事態を詠ったもの。作者の時代から考えると、玄宗の楊貴妃の寵愛問題か。(詳しくは後出・『長恨歌』参照。) *『殿前曲』ともする。 ・春宮:春の気配が漂う宮殿の意。「春宮怨」の意。また、皇太子の住む宮殿。ここは、前者の意。
※昨夜風開露井桃:昨夜(新たな愛情関係が生じて、)覆いの屋根がない井戸端のモモの花(=美しい女性)が(李(すもも)の花にとってかわって)ひらいた。 ・開:ここでは、(花が)咲く。 ・露井:覆いの屋根がない井戸。後出、古楽府に『鶏鳴』に因る使用。 ・桃:モモ(の花)。古楽府に『鶏鳴』「桃生露井上,李樹生桃傍。蟲來齧桃根,李樹代桃僵。樹木身相代,兄弟還相忘。」(≒『宋書』巻二十一 樂志三)とある。蛇足になるが、これが基になって、「李代桃僵」(とってかわる。身代わりになる)という成語となった。
※未央前殿月輪高:(漢代、)未央宮の前殿に満月が高く(掛かった)。 ・未央:〔びあう;Wei4yang1●○〕未央宮。漢の宮殿名で、陝西省長安県の西北にあった。漢に藉(か)りて、唐朝を謂う。 ・前殿:(後宮に対して、)前方(=南側)にある殿舎。政務を執り行う表むきの御殿。 ・月輪:〔ぐゎち(/ぐゎつ/げつ)りん〕月。月の異称。輪のように丸い満月。
※平陽歌舞新承寵:平陽公主の家の(歌(うた)い女(め)の衛子夫)は、あらたに天子の恩寵を承(う)けて。 ・平陽:平陽公主のこと。漢・景帝の長女で、武帝の姉。 ・歌舞:歌と舞。歌ったり舞ったりすること。ここでは、「平陽歌舞」で、平陽公主の家の歌(うた)い女(め)の衛子夫のこと。時の帝は、平陽公主の家の歌い女である衛子夫の歌舞を見て気に入り、彼女を寵愛して、皇后にした故事に因る。 ・新承寵:あらたに天子の恩寵を承(う)ける。中唐・白居易の『長恨歌』に「漢皇重色思傾國,御宇多年求不得。楊家有女初長成,養在深閨人未識。天生麗質難自棄,一朝選在君王側。回眸一笑百媚生,六宮粉黛無顏色。春寒賜浴華C池,温泉水滑洗凝脂。侍兒扶起嬌無力,始是新承恩澤時。雲鬢花顏金歩搖,芙蓉帳暖度春宵。春宵苦短日高起,從此君王不早朝。承歡侍宴無閑暇,春從春遊夜專夜。後宮佳麗三千人,三千寵愛在一身。金屋妝成嬌侍夜,玉樓宴罷醉和春。姉妹弟兄皆列土,可憐光彩生門戸。遂令天下父母心,不重生男重生女。驪宮高處入雲,仙樂風飄處處聞。」とある。ここを「承新寵」ともする。
※簾外春寒賜錦袍:みすの外の春はまだ冷えるので、(最高級の織物である)にしきの上着を賜(たまわ)った(ということである)。 ・簾外:みすの外。すだれの外。「簾」が身分の上下を区分して隔てる働きをする。 春寒:立春になってからも、ぶりかえす寒さ。余寒。 ・賜:目上の人が目下の者に者を与える。たまう。たまわる。 ・錦袍:にしきの上着。にしきの陣羽織。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「桃高袍」で、平水韻下平四豪。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2013.5.29 5.30 |
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