Xin Qiji ci


   辛棄疾詞
xinqiji XinQiji xin qiji Xin Qiji Shici Shijie shicishijie

     西江月

遣興

醉裡且貪歡笑,
要愁那得功夫。
近來始覺古人書,
信著全無是處。


昨夜松邊醉倒,
問松我醉何如。
只疑松動要來扶,
以手推松曰去!






******

西江月

 遣興
     

醉裡 且(しば)し 歡笑を 貪らんも,
愁ひを要す  那(なん)ぞ  功夫(ひま)を 得んや。
近來 始めて覺る  古人の書,
著はせしを信ぜしも 是とする處  全て無し。


昨夜  松の邊に 醉ひ倒れ,
松に問ふ  我が醉ひ  何如ぞ?
只だ疑がふ  松の 動きて  來り扶けんとす,
手を以って 松を推して 曰く: 「去れ!」



      **********

私感註釈

※西江月:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。
※遣興:興趣を述べる。酔いの中にしばしの憩いを見つけ、手を差し掛ける「松」を拒絶する、含蓄のある作品である。
※醉裡:酔いの中に。酔っぱらうことで。
※且:しばし。短い時間でいいから、その中に歓びを見いだしたいという願い。
※貪歡笑:楽しみをむさぼる。酔いの中で、愉しみに逢おう。
※要:…ようとする。
※愁:かなしむ。うれうる。
※那:どこに。なんぞ。反語。
※得:得る。手に入れる。
※功夫:(白話)時間。ひま。
※要愁那得功夫:残念だなあ、一体どこに(そんな)時間があるというのだ。
※近來:近頃。近頃になって。
※始覺:はじめてわかった。やっとわかってきた。
※信著:著したものを信じ込む。「孟子・第十四巻・盡心下」「孟子曰:『
信書,則不如無書。吾於『(尚書)武成』,取二三策而已矣。』 」に基づいて作られた。著:あらわす。など多くの動詞の意味の外に、動詞に付く助辞の働きもあり、「信じてきた」ともとれる。
※全無:全て…ない。
※是處:是とする処。
※信著全無是處:全く是とするところがない。使い物にならない。これは、この通りに受け取るのではなく、酒の中にしか辛棄疾の居所が無く、古人、聖賢の忠孝の教えを守らず、祖先からの地、中原を回復しようとしない、時の政府の行為と、古人聖賢の教えを軽んじることと重ねてはいまいか。
※昨夜松邊醉倒:昨夜は松の樹の邊りで醉いつぶれた。
※問松:松の樹に問うが。ねえ、松よ。
※我醉:わたしの酔い加減は。
※何如:どんな風か。どんなか。いかん。状態や性質を問う。
※問松我醉何如:ねえ、松よ、わたしの酔いっぷりはどんなものかね。
※只疑:ただ、(ちょっと)疑わしいのは…のようだ。
※要…をしようと(しかけてくる)。
來:(支え)よう。(支えて)あげる。ここの場合、他の単語との接続状況から見て、「くる、やってくる」の意味はない。
※扶:(体を手で)支える。ここでは、松の木が作者を支えようとすること。
※只疑松動要來扶:どうも松の木が動いて、わたしの体を支えようとしてきたようだが。
※推松:松をおす。推:前方や外側に向かっておすこと。
※以手推松曰去:手で松を押し(のけ)ながら、「(あちらへ)行け」と言った。  ・去:ある決まった場所へいく。さる。


◎ 構成について:

  西江月  五十字。双調。 平と仄の換韻だが、同一韻部内での換韻。例えば、第十三部を使うとすれば、平韻は二十一侵を使い、仄韻は、上声は、四十七寝を、去声は五十二沁を使用するという具合にする。 韻式は「AAa AAa」。韻脚は平韻は、「夫書 如扶」で第四部平声。仄韻は「處 去」で第四部去声。なお、上片、下片の第一句と第二句は対句にする必要があるが、下片は対になっていない。

●,
●○○。(A平韻)
●●○○,(A平韻)
●。(a仄韻)


●,
●○○。(A平韻)
●●○○,(A平韻)
●。(a仄韻)


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2001.10.25
     10.26完
     10.28補

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