zhuzhici


  
xinqiji XinQiji xin qiji Xin Qiji Shici Shijie shicishijie

   木蘭花慢
    席上呈張仲固帥興元

漢中開漢業,
問此地、是耶非。
想劍指三秦,
君王得意,
一戰東歸。
追亡事、今不見,
但山川滿目涙沾衣。
落日胡塵未斷,
西風塞馬空肥。


一編書是帝王師。
小試去征西。
更草草離筵,
怱怱去路,
愁滿旌旗。
君思我、回首處,
正江涵秋影雁初飛。
安得車輪四角,
不堪帶減腰圍。





******

木蘭花慢
       席上 張仲固の興元を 帥するに 呈す       

漢中は  漢業を開く,
問ふ  此の地、是
(ぜ)なり 耶(や) 非(いな)や。
想ふに  劍は 三秦を 指し,
君王  意を得,
一戰すれば  東のかたは 歸
(くだ)る。
(にぐ)るを 追ふ事、 今は見えず,
但だ 山川 滿目 涙は 衣を沾
(うるほ)す。
落日の 胡塵は 未だ斷
(た)たざるも,
西風に 塞馬は  空しく肥ゆ。


一編の書は  是
(こ)れ 帝王の師。
(いささ)か 試みに  西に征(と)りに 去(ゆ)け。
更に  草草たる 離筵,
怱怱たる 去路,
愁ひは 旌旗に 滿つ。
君の 我を 思ひ、 首
(かうべ)を回(めぐ)らさん處(とき)
(まさ)に  江は 秋影を涵(ひた)して 雁 初めて飛ばん。
(いづく)んぞ 得ん  車輪の 四角なるを,
帶の 腰 圍
(まは)りを 減ずるに  堪へず。


      **********

私感註釈

※木蘭花慢:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。
※席上呈張仲固帥興元:(送別の)席で、張仲固が(漢王朝の創業の地)興元(漢中)に(赴任し、そこを)帥(ひき)いるようになるので、この詞を呈上する。  ・呈:さしあげる。送別の宴席で、送別の詞を贈ったこと。「呈」を「送」とするのも多い。「送」は、「見送る」「贈る」の意があり、「席上」の語がある限り「贈る」の意になろう。 ・張仲固:人名。張堅。仲固は字。 ・帥:一軍の長。統帥する。ここは、動詞。 ・興元:地名。宋の興元府(現・漢中市)。この詩の主題の漢王朝の創業の地の漢中である。
※漢中:地名。陝西省西南部にある。項羽が西楚覇王となったとき、劉邦は、南鄭(現・漢中市)を都とする巴、蜀、漢中の三郡を封土とする漢王となった。
※開漢業:劉邦が漢の国を興した。劉邦が南鄭を都とする巴、蜀、漢中の三郡を封土とする漢王となったことを以て漢王朝の元年(前206年)とする。漢の創業をいう。
※漢中開漢業:漢中は漢王朝の創業の地である。漢中は漢王朝の業を開いた。
※問此地:問うが、その地が(そうなのか)。この句は、「
● ○○」とすべきところで、「漢 中開漢業」とはならない。「漢中」は重要な語彙なので譲れなかったのだろう。
※是耶非:そうなのか、そうでないのか。 ・是:そうである。・耶:や。疑問の助辞。・非:そうではない。「是」と「非」を重ねて疑問文にし、更に、疑問の終助詞「耶」を付けて、疑問を強調している。
※問此地、是耶非:お訊ねするが、その地(そこ)が(漢王朝の創業の地)なのか(、違うのか)。
※劍指:武力でもって(三秦を滅ぼしたことしたこと)。
※三秦:関中(現・陝西省全域。函谷関、隴関、武関、蕭関に囲まれたその中にあるからこういう。前出の漢中は、その中の一都市。)の三つの(王)国。項羽が劉邦を抑えるため、関中を三分して旧秦国の三名(章邯、司馬欣、董翳)をそれぞれの王とした。それらを呼ぶ。
※想劍指三秦:武力でもって三秦を滅ぼし、関中を統一したことをいう。
※君王:漢の高祖。劉邦。
※君王得意:劉邦が関中を平定して、思い通りになっている。
※一戰東歸:劉邦が三秦の中、章邯(雍王)を滅ぼしたところ、他の二王が降伏したことを謂う。「史記・高祖本紀」「史記・項羽本紀」にある。
※追亡事:劉邦の軍営から多くの将兵が逃亡したとき、劉邦の部下・丞相の蕭何は、逃げた韓信の才を惜しみ、追いかけて連れ戻し、大将軍としたこと。後日、蕭何が行政を、韓信が戦闘を、張良が戦略をめぐらして、劉邦の天下をを創り出したという故実が「史記・淮陰公侯列伝」「漢書・高帝紀」にある。 ・東歸:東部の国々が帰伏する。ここは、東の方へ帰る、ではない。
※今不見:蕭何のような(他人の才能を見抜く)人物は、今は見あたらない。
※追亡事、今不見:(蕭何が逃げた韓信の才能を惜しんで、)追いかけて連れ戻し、(大将軍とした、その蕭何のような、人の才能を見抜ける人物は、)今は見あたらない。
※山川:山河。
※滿目:見渡す限り。
※涙沾衣:涙が衣をぬらす。
※但山川滿目涙沾衣:山河は見渡す限り、涙で衣をぬらす状況である。ここは李の「汾陰行」「山川滿目涙沾衣,富貴榮華能幾時」から来ており、単に「山川滿目涙沾衣」だけを言いたいのではなくて「富貴榮華能幾時」の方も暗に言いたい。
※落日:夕日。勢いが衰えた、という意もある。
※胡塵:西方(北方)の異民族が(中原進出の)戦塵を起こす。ここは、金軍の動向をいう。
※未斷:まだ止まっていない。
※落日胡塵未斷:夕日の下で異民族が(中原進出の)戦塵を起こすことを止められないでいる(のに)。
※西風:秋風。北方異民族が「天高馬肥」として、中原進出の機会でもある。
※塞馬:辺塞を守る軍馬。
※空肥:(軍馬が戦闘に従事することなく)むなしく肥えるに任せている。
※西風塞馬空肥:秋風(が吹く時期は異民族が中原侵出の機会でもあるにもかかわらず、わが南宋の)辺疆守備の軍馬は、(戦闘に従事することなく)むなしく肥え太るに任せている。金に対して無為無策である南宋朝廷を諷している。
※一編書:一編の書。一部の文書。「太公兵法」を指す。
※是:…は…である。これ。「A是B」「Aは、Bである。」上片第二句の「是耶非」の「是」とは、異なる。
※帝王師:帝王の師となれる。前出の漢の建国を助けた元勲の一である張良が、老人より「太公兵法」を授けられた。その時、老人が「讀此,則爲王者師矣。」(「史記・留侯世家」)と言われ、その通りにして、漢業を輔弼した。ここでは、張仲固の送別の宴であるので、同姓の張良に触れている。張良を出すことで、張仲固を讃えるだけでなく、赴任先の漢中(興元府)に行くこととも張良によって関聯付けられ、更に、漢民族の南宋王朝の姿勢をも問いただすことを図っている。
※一編書是帝王師:一編の書は帝王の師となることができるものである。前出、「有一父老,出一編書,曰:『讀此,則爲王者師矣。』旦日視其書,乃『太公兵法』也。」
※小試:(張仲固に対して)いささか(その持っている優れた才能を)試せ。ちょっとためしては。
※去:行く。
※征西:西へ出立する。赴任先の興元府(漢中)に行くこと。
※小試去征西:赴任先の興元府に行って、(その持っている優れた才能を)いささか試されては(いかがか)。
※草草:そそくさと。簡単に。
※離筵:別れのパーティ。
※更草草離筵:その上に、そそくさとした別れのうたげには。
※怱怱:あわただしく。そこそこに。
※去路:行く道筋。往路。 ・去:いく。でかける。
怱怱去路:あわただしい出立。
※愁滿:別れの哀しみが満ちている。
※旌旗:はた。赴任する張仲固の官僚としての儀仗のはた。
※愁滿旌旗:別れの哀しみが(張仲固の)旗に満ちている(ようだ)。
※君思我、:あなた(張仲固)がわたしを思って。ここでは、思い出す、という意味。
※回首處:振り返る折り。
※君思我、回首處:あなたがわたしを思い出して振り返る時は。
※正:ちょうど。
※江涵:江は涵(ひた)す。杜牧の「九日齊山登高」「江涵秋影雁初飛,與客攜壺上翠微。」
※秋影:秋の気配。秋の影。
※雁初飛:冬鳥の雁が初めて飛来した。
※正江涵秋影雁初飛:ちょうど杜牧の「九日齊山登高」の詩句のように秋になった。
※安得:どのようにして手に入れられようか。いずくんぞ得ん。
※車輪四角:四角い車輪。陸亀蒙の「古意」の「君心莫淡薄,妾意正棲託。願得雙車輪,一夜生四角。」に因む。四角い車輪で、去り行く友が別れても進めないように。惜別の情の深いことを表す。
※安得車輪四角:なんとか(行くことができない)四角い車輪が手に入らないものだろうか。(往かないでほしい)
※不堪:たえない。
※帶減:ベルトの留める位置が減る。痩せること。
※腰圍:ウェスト。腰回り。
※不堪帶減腰圍:(去り行った友を思って)痩せることには、堪えられない(から)。



◎ 構成について
  
 この作品の木蘭花慢は程垓体無単韻。標準体ではない。以下の詞調も程垓体無単韻のもの。双調。101字。平韻一韻到底。韻式は「AAAA AAAAA」。韻脚は「非歸衣肥 師西旗飛圍」で、第三部平声四支、五微、八齊で通用。「四支:師旗」「五微:非歸衣肥飛圍」「八齊:西」
              

    ● ○○●,
    ●、●○○。(韻)
    ● ●○○,
    ●,
    ●○○。(韻)
    ●,
    ● ●●○○(韻)
    ●,
    ●○○。(韻)


    ●●○○。(韻)
    ●○○。(韻)
    ● ●○○,
    ●,
    ●○○。(韻)
    ○○●,
    ● ○○●●○○。(韻)
    ●,
    ●○○。(韻)
    


***********************
2002.4.11
     4.12
     4.13
     4.14完

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