xinqiji XinQiji xin qiji Xin Qiji Shici Shijie shicishijie
漢中開漢業, 問此地、是耶非。 想劍指三秦, 君王得意, 一戰東歸。 追亡事、今不見, 但山川滿目涙沾衣。 落日胡塵未斷, 西風塞馬空肥。 一編書是帝王師。 小試去征西。 更草草離筵, 怱怱去路, 愁滿旌旗。 君思我、回首處, 正江涵秋影雁初飛。 安得車輪四角, 不堪帶減腰圍。 |
漢中は 漢業を開く,
問ふ 此の地、是(ぜ)なり 耶(や) 非(いな)や。
想ふに 劍は 三秦を 指し,
君王 意を得,
一戰すれば 東のかたは 歸(くだ)る。
亡(にぐ)るを 追ふ事、 今は見えず,
但だ 山川 滿目 涙は 衣を沾(うるほ)す。
落日の 胡塵は 未だ斷(た)たざるも,
西風に 塞馬は 空しく肥ゆ。
一編の書は 是(こ)れ 帝王の師。
小(いささ)か 試みに 西に征(と)りに 去(ゆ)け。
更に 草草たる 離筵,
怱怱たる 去路,
愁ひは 旌旗に 滿つ。
君の 我を 思ひ、 首(かうべ)を回(めぐ)らさん處(とき),
正(まさ)に 江は 秋影を涵(ひた)して 雁 初めて飛ばん。
安(いづく)んぞ 得ん 車輪の 四角なるを,
帶の 腰 圍(まは)りを 減ずるに 堪へず。
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◎私感註釈
※木蘭花慢:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。
※席上呈張仲固帥興元:(送別の)席で、張仲固が(漢王朝の創業の地)興元(漢中)に(赴任し、そこを)帥(ひき)いるようになるので、この詞を呈上する。 ・呈:さしあげる。送別の宴席で、送別の詞を贈ったこと。「呈」を「送」とするのも多い。「送」は、「見送る」「贈る」の意があり、「席上」の語がある限り「贈る」の意になろう。 ・張仲固:人名。張堅。仲固は字。 ・帥:一軍の長。統帥する。ここは、動詞。 ・興元:地名。宋の興元府(現・漢中市)。この詩の主題の漢王朝の創業の地の漢中である。
※漢中:地名。陝西省西南部にある。項羽が西楚覇王となったとき、劉邦は、南鄭(現・漢中市)を都とする巴、蜀、漢中の三郡を封土とする漢王となった。
※開漢業:劉邦が漢の国を興した。劉邦が南鄭を都とする巴、蜀、漢中の三郡を封土とする漢王となったことを以て漢王朝の元年(前206年)とする。漢の創業をいう。
※漢中開漢業:漢中は漢王朝の創業の地である。漢中は漢王朝の業を開いた。
※問此地:問うが、その地が(そうなのか)。この句は、「● ○○●」とすべきところで、「漢 中開漢業」とはならない。「漢中」は重要な語彙なので譲れなかったのだろう。
※是耶非:そうなのか、そうでないのか。 ・是:そうである。・耶:や。疑問の助辞。・非:そうではない。「是」と「非」を重ねて疑問文にし、更に、疑問の終助詞「耶」を付けて、疑問を強調している。
※問此地、是耶非:お訊ねするが、その地(そこ)が(漢王朝の創業の地)なのか(、違うのか)。
※劍指:武力でもって(三秦を滅ぼしたことしたこと)。
※三秦:関中(現・陝西省全域。函谷関、隴関、武関、蕭関に囲まれたその中にあるからこういう。前出の漢中は、その中の一都市。)の三つの(王)国。項羽が劉邦を抑えるため、関中を三分して旧秦国の三名(章邯、司馬欣、董翳)をそれぞれの王とした。それらを呼ぶ。
※想劍指三秦:武力でもって三秦を滅ぼし、関中を統一したことをいう。
※君王:漢の高祖。劉邦。
※君王得意:劉邦が関中を平定して、思い通りになっている。
※一戰東歸:劉邦が三秦の中、章邯(雍王)を滅ぼしたところ、他の二王が降伏したことを謂う。「史記・高祖本紀」「史記・項羽本紀」にある。
※追亡事:劉邦の軍営から多くの将兵が逃亡したとき、劉邦の部下・丞相の蕭何は、逃げた韓信の才を惜しみ、追いかけて連れ戻し、大将軍としたこと。後日、蕭何が行政を、韓信が戦闘を、張良が戦略をめぐらして、劉邦の天下をを創り出したという故実が「史記・淮陰公侯列伝」「漢書・高帝紀」にある。 ・東歸:東部の国々が帰伏する。ここは、東の方へ帰る、ではない。
※今不見:蕭何のような(他人の才能を見抜く)人物は、今は見あたらない。
※追亡事、今不見:(蕭何が逃げた韓信の才能を惜しんで、)追いかけて連れ戻し、(大将軍とした、その蕭何のような、人の才能を見抜ける人物は、)今は見あたらない。
※山川:山河。
※滿目:見渡す限り。
※涙沾衣:涙が衣をぬらす。
※但山川滿目涙沾衣:山河は見渡す限り、涙で衣をぬらす状況である。ここは李の「汾陰行」「山川滿目涙沾衣,富貴榮華能幾時」から来ており、単に「山川滿目涙沾衣」だけを言いたいのではなくて「富貴榮華能幾時」の方も暗に言いたい。
※落日:夕日。勢いが衰えた、という意もある。
※胡塵:西方(北方)の異民族が(中原進出の)戦塵を起こす。ここは、金軍の動向をいう。
※未斷:まだ止まっていない。
※落日胡塵未斷:夕日の下で異民族が(中原進出の)戦塵を起こすことを止められないでいる(のに)。
※西風:秋風。北方異民族が「天高馬肥」として、中原進出の機会でもある。
※塞馬:辺塞を守る軍馬。
※空肥:(軍馬が戦闘に従事することなく)むなしく肥えるに任せている。
※西風塞馬空肥:秋風(が吹く時期は異民族が中原侵出の機会でもあるにもかかわらず、わが南宋の)辺疆守備の軍馬は、(戦闘に従事することなく)むなしく肥え太るに任せている。金に対して無為無策である南宋朝廷を諷している。
※一編書:一編の書。一部の文書。「太公兵法」を指す。
※是:…は…である。これ。「A是B」「Aは、Bである。」上片第二句の「是耶非」の「是」とは、異なる。
※帝王師:帝王の師となれる。前出の漢の建国を助けた元勲の一である張良が、老人より「太公兵法」を授けられた。その時、老人が「讀此,則爲王者師矣。」(「史記・留侯世家」)と言われ、その通りにして、漢業を輔弼した。ここでは、張仲固の送別の宴であるので、同姓の張良に触れている。張良を出すことで、張仲固を讃えるだけでなく、赴任先の漢中(興元府)に行くこととも張良によって関聯付けられ、更に、漢民族の南宋王朝の姿勢をも問いただすことを図っている。
※一編書是帝王師:一編の書は帝王の師となることができるものである。前出、「有一父老,出一編書,曰:『讀此,則爲王者師矣。』旦日視其書,乃『太公兵法』也。」
※小試:(張仲固に対して)いささか(その持っている優れた才能を)試せ。ちょっとためしては。
※去:行く。
※征西:西へ出立する。赴任先の興元府(漢中)に行くこと。
※小試去征西:赴任先の興元府に行って、(その持っている優れた才能を)いささか試されては(いかがか)。
※草草:そそくさと。簡単に。
※離筵:別れのパーティ。
※更草草離筵:その上に、そそくさとした別れのうたげには。
※怱怱:あわただしく。そこそこに。
※去路:行く道筋。往路。 ・去:いく。でかける。
怱怱去路:あわただしい出立。
※愁滿:別れの哀しみが満ちている。
※旌旗:はた。赴任する張仲固の官僚としての儀仗のはた。
※愁滿旌旗:別れの哀しみが(張仲固の)旗に満ちている(ようだ)。
※君思我、:あなた(張仲固)がわたしを思って。ここでは、思い出す、という意味。
※回首處:振り返る折り。
※君思我、回首處:あなたがわたしを思い出して振り返る時は。
※正:ちょうど。
※江涵:江は涵(ひた)す。杜牧の「九日齊山登高」「江涵秋影雁初飛,與客攜壺上翠微。」
※秋影:秋の気配。秋の影。
※雁初飛:冬鳥の雁が初めて飛来した。
※正江涵秋影雁初飛:ちょうど杜牧の「九日齊山登高」の詩句のように秋になった。
※安得:どのようにして手に入れられようか。いずくんぞ得ん。
※車輪四角:四角い車輪。陸亀蒙の「古意」の「君心莫淡薄,妾意正棲託。願得雙車輪,一夜生四角。」に因む。四角い車輪で、去り行く友が別れても進めないように。惜別の情の深いことを表す。
※安得車輪四角:なんとか(行くことができない)四角い車輪が手に入らないものだろうか。(往かないでほしい)
※不堪:たえない。
※帶減:ベルトの留める位置が減る。痩せること。
※腰圍:ウェスト。腰回り。
※不堪帶減腰圍:(去り行った友を思って)痩せることには、堪えられない(から)。
◎ 構成について
この作品の木蘭花慢は程垓体無単韻。標準体ではない。以下の詞調も程垓体無単韻のもの。双調。101字。平韻一韻到底。韻式は「AAAA AAAAA」。韻脚は「非歸衣肥 師西旗飛圍」で、第三部平声四支、五微、八齊で通用。「四支:師旗」「五微:非歸衣肥飛圍」「八齊:西」
● ○○●,
●、●○○。(韻)
● ●○○,
○●,
●○○。(韻)
○●,
● ○●●○○(韻)
●○●,
○●○○。(韻)
○●●○○。(韻)
●○○。(韻)
● ●○○,
○●,
●○○。(韻)
○○●,
● ○○●●○○。(韻)
●○●,
○●○○。(韻)
2002.4.11 4.12 4.13 4.14完 |
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