アールズフォークのメリット アールズフォークは英国のアールズ氏が考案した物でサイドカーとの相性が良く、サイドカーの装着が多かった旧型BMW (1955〜1969年のR50からR69S、インチダウン参照) ではアールズフォークが標準仕様でした。 |
1.ホッピングの防止 |
2.ハンドルを軽くする |
3.ハンドルシミーを抑える |
4.理想的なサス強化を実現する |
5.制動時のノーズダイブを抑える |
ブレーキキャリパーは FJ1200の物 (ホンダのハンガーピン ブレーキは使えない) フォーク下部で連結して |
車種 | トレール(mm) | キャスター (deg) |
CBX | 120 | 27.5 |
CBX750F | 93 | 27 |
ST1100 | 101 | 27.5 |
CBR1000F | 117 | 28 |
VFR750F | 96 | 28.2 |
GPX750R | 97 | 27 |
FZ750 | 94 | 25.5 |
GSX-R750 | 107 | 26 |
CB450 | 80 | 26 |
セロー | 102 | 26.5 |
中小型車ならいざ知らずナナハン以上のサイドカーでテレスコのままではハンドルがかなり重く、私も以前のCBX750FBサイドカーでは乗り始めの頃に箱根の山中を走り回った翌日、朝起きたら腕が上がらなくなっていたと言う事もあります。 このCBX750FBサイドカーを雑誌で売りに出したときには若い女性からも「買いたい」と連絡がありましたが、私はその女性に売りたい気持ちは山々でしたがアールズフォークが付いていないので女性には無理でした。 よくせっかく作ったサイドカーを「こりゃーとっても手に負えない」と言ってすぐに売りに出すと言う人が昔からいますが、このハンドルの重さが一番の原因ではないかと思います。 アールズフォークはかなり値の張るアイテムですがサイドカーには大きな効果をもたらす物ですから側輪ブレーキの次に価値のある物だと思います。 ケンテック・ロイヤル、ハーレー、ドニエプル、長江、R51(旧々型BMW)などではスラントキャスターを採用してトレールを小さくしています。 インチダウンによるトレールの減少量=外径の減少量×tanθ/2 キャスターを27度とするとtanθ/2は0.25ですからこれはそこそこの効果があると言えるでしょう。(外径3インチ減少でトレール19mm減少) <ハンドルシミーを抑える> ハンドルシミーとはステアリングハンドルの振れの事です。 CBX750FBサイドカーの時にシミーとは如何なるものかを知りたくてステアリングダンパーを外して走って見た事があります。 シミーはかつてオート3輪でも問題となったもので、上で述べた自己復元力による一種の自励振動です。 自己復元力の強さ、つまりハンドルの戻りの強さ(速さ)は速度にほぼ比例しますから、低速でのシミーは周期の大きい(振動数の低い)もので、高速でのシミーは周期の小さいものとなるはずです。 CBX750FBサイドカーでの低速でのシミーは2Hz(1秒間に2回)程度の振動数でした。 低速での2Hz程度のシミーは車体の左右の振れとなりますが、この時車体の横方向の曲げや捩りの固有振動数と一致してシミーが増幅されるのではないかと思います。高速ではシミーの振動数が車体の固有振動数より高くなるためにシミーが増幅されないものと考えられます。(これは私の私見です) この考えからすると車体の固有振動数が高いドマニなどはトレールを大きくすると高速でシミーが出ることとなります。 シミーの起こる原因はハンドルの切れ角がさほど大きくないソロのオートバイ用に設定された大きなトレールがもたらす大きすぎる自己復元力ですから、(自己復元力と、側車の取り付けによる車体全体の剛性の低下もありますが) アールズフォークの採用でトレールを小さくすればシミー防止に大きな効果があります。 かつてオート3輪ではシミー防止のために負のトレールを付けていたとも言われていますが(「中村良夫自伝」三樹書房161P)負のトレールで大丈夫なのか詳しい事は不明です。 シミ―の出易いサイドカーではシミーが出てからこれを手で抑えこむという事は難しく、シミーの出始めのところで抑え込むようにするのが得策で、このためステアリングダンパーを装着します。 ステアリングダンパーが走行中に突然外れるという事はかなり危険な状態となる事が予想できますから、常日頃から取り付け部分の強度に問題がないかチェックする必要があります。 疲労破壊というものは、その寿命の大半は金属内部のマイクロクラックの成長に費やされ、この段階では外部から識別する事は出来ません。 それまで何事もなく作動していた物が実はその間にマイクロクラックが成長していて、ある日突然壊れると言うのが疲労破壊の恐さです。 従がって疲労破壊による事故を防ぐには簡便な方法としては日頃から亀裂探傷剤を用いて目に見える亀裂が出てきた瞬間を見つけると言うのが有効な方法ですが、私はさらに簡便な方法として時々わざと大荷重を掛けてやり(ハンドルを強く左右に振る)壊れるはずの物であれば早めに壊してしまおうと言う方法を採っています。 <その他> テレスコでのサス強化にはバネを強化してオイル流動口の変更、高粘度オイルへの変更などの方法がありますが、この方法では減衰性能の強化は十分とは言えません。 さらにアールズフォークの採用により制動時のノーズダイブを小さくする事ができます。 制動時には制動により前部荷重が増大しますが、テレスコではこの他にキャスターをθ、制動力をFとするとFsinθの軸荷重がテレスコに発生し、これによりノーズダイブを増幅します。 コーナーへのアプローチでノーズダイブを殆ど起こさず、しかも全くロールもせずにミズスマシのようにコーナーを回っていく、というのが典型的なサイドカーのコーナリングです。 SC9サス強化でバネ定数を20〜50%高くすると述べましたが、これはサス形式を変えないときの話です(テレスコのままで強化するなど)。 前輪に掛かる鉛直上方向荷重をFとした時、キャンバーをθとすると、 |
テレスコに掛かる軸荷重 = Fcosθ |
アールズフォークに掛かる軸荷重 = F/cosθ |
よって |
アールズフォークのサスの硬さ/テレスコのサスの硬さ = cos2θ |
(同じバネ定数の場合、サス形式の違いによる分) |
キャンバーを27度とすると cos2(27)=0.892=0.79 となり、サスは21%も柔らかくなります。 さらにアールズフォークではショックアブソーバーの下部取り付け位置が車軸より後方にありますからレバー比の関係でさらにサスは柔らかくなります。 |
アールズフォークのサスの硬さ/テレスコのサスの硬さ=0.95cos2θ |
(同じバネ定数の場合、サス形式の違いとレバー比を考慮) |
上の式からアールズフォークに変更してサスの硬さを30%高くする時には、キャンバーを27度としてバネ定数は |
1.3/0.95cos2(27)=1.3/(0.95X0.79)=1.73 |
となりバネ定数を73%大きくする必要があります。 なおここで言うバネ定数とは厳密には空気バネの効果を含んだものです。 |