石持浅海 30 | ||
届け物はまだ手の中に |
石持浅海さんの新刊は独立した作品だが、傑作『見えない復讐』と密接な関係がある。未読でも支障はないが、『見えない復讐』を先に読んでおくべきだと断言したい。本作の真の価値は、『見えない復讐』とセットで読んでこそわかるのだ。
学生時代にある誓いを立てた楡井と設楽は、現在は袂を分かっていた。設楽はITベンチャーの経営者として成功。楡井は県の農業試験場に勤務する公務員。楡井は、かつての親友を訪ねようとしていた。裏切者に見せつけるために。
設楽の家に着くと、そこには設楽の妻、妹、秘書がいた。一対一で会いたい楡井としては、実に都合が悪い。息子の誕生日パーティーだというのに、設楽は緊急の仕事で書斎にこもっていた。すぐ終わりますからと、歓待される楡井。
この先は得意の堂々巡りが展開される。すぐ終わると言っていた割にはなかなか会えない。楡井じゃなくても3人の女性たちの言動には不自然さを感じるだろう。どうやら設楽に会わせたくないらしい。一方、楡井を叩き出すつもりもないらしい…。女性陣の意図を慎重に探る楡井。彼にも出直そうにも出直せない理由があった。
届け物の正体は中盤で明かされる。石持作品ならこの程度では驚くまい。気が気でない楡井の焦りが手に取るように伝わってきて、苦笑を禁じえない。女性陣の連携に手を焼いた楡井は、設楽の息子を懐柔しようとする。あの手この手を繰り出す両者。
果たして書斎で何が起きているのかっ! 予想は大外れであった。一応石持作品に精通しているつもりだったが、石持浅海は我々の想像のはるか上を行っていたのだっ! わはははは、これだっ! これだよっ!! 石持浅海はこうでなくてはっ!!!
200pに満たない長さに、石持浅海の真骨頂が詰まっている。石持ファンなら大満足間違いなし。ただし、一般読者が満足するかは保証の限りではない。それにしても、『見えない復讐』といい本作といい、優秀すぎる学生の思考は共通しているのだろうか…。