今野 敏 U-04 | ||
エチュード |
碓氷弘一シリーズ第4作。主人公のはずの碓氷の存在感が薄いこのシリーズ、文庫版解説によれば毎回のゲストが主役を努めるのが主旨だというが…。
なるほど、『ペトロ』ではアルトマン教授という強力なパートナーがいた。『アキハバラ』は多数の人物が交錯するが、ゲンさんがパートナーに当たるか。そして本作のパートナーは、警察庁からやって来た女性心理分析官、藤森紗英。
おい、文庫版の裏表紙はネタばれすぎるだろ…。3件の通り魔事件は、状況が非常に特異かつ酷似していた。紗英と組むことになった碓氷は、内心やっかいを押し付けられたと思っていた。ところが嫉妬する者が出てきたり…。
支障がない程度に述べると、いわゆる本格ではない警察小説で、トリックをフィーチャーしている点に、本作の大きな特徴があると言える。正直、にわかには信じがたい。現実主義者の刑事たちはなおさらである。もちろん碓氷も。
男社会で奮闘する紗英の意見を尊重し、美人が苦手なりに支える碓氷。他の刑事、例えば「彼」なら即座にさじを投げるだろう。上層部は碓氷の懐の深さをわかっていて、毎回特別ゲストのパートナーに指名するのだろう。彼自身が気づいていない資質である。
半信半疑ながら紗英の説に耳を傾けた上層部の柔軟性も大きいだろう。ある実験は、頭の固い刑事たちを翻させるのに十分だった。上が方針を決めたら、現場は迷わず動く、これが警察組織というもの。上を動かしたのは、紗英であり碓氷である。
プロファイリングという手法を有名にしたのは、映画『羊たちの沈黙』だろう。現代日本の捜査現場で、プロファイリングはどの程度活用されているのか。一世一代のプロファイリングに挑む紗英。真犯人にしてみれば相手が悪かった。
しかし、本当に可能かという疑問が拭えないのも確かである。ギリギリで作品として成立させている。今野敏さんの警察小説の中でも、懐が深いシリーズと言えるだろう。