「鉄道模型趣味」No.321 1975年3月号 P.61に作り方が紹介されていたもので、アンカプラーを使わずに好きな位置でアーノルドカプラーを解放する仕掛けです。50年前の製品ですが、シンプルな構造の中に工夫が詰まっています。
元の製品は、当時のアーノルト ラピードのカタログNo.0780「入換カプラー」です。国内での取り扱いが少なく(私は見たことがありません)、TMS誌が実物の原寸図をメーカーの手引書から転載し、自作方法を紹介していました。
通常のアーノルドカプラーの横に透明な板をピンで留めたもので、切り離したい位置で少しバックすると、板が枕木に引っかかって立ち上がり、解放できる仕掛けでした。
これを知ってからも、透明板を機関車でひきずって走ることに何となく抵抗があり、今までやったことがありませんでした。やってみると、どうも食わず嫌いだったようで、なかなか楽しいです。ちょっと練習が要ります。
今更作ってみました。取り付けは機関車だけでよく、連結相手の客車や貨車は未加工のアーノルドカプラーで構いません。
誌面に転載された図をそのまま載せにくいので(権利的なことを置いても、小さいので結構ボケボケになりまして)、自分で画いた図を載せました。細かいところは不正確かと思いますので、本誌をお持ちの方はそちらを参考にされたほうがよいです。
高さはだいたい10.5mmですが、もう少々下に長く作っておいて、長すぎたらカットして調整するのがよさそうです。短いとカプラーが十分上がらず、私は0.5mmほど継ぎ足しました。
3箇所、大切な斜めの部分があります。水色の補助線が引かれていますが目安です。厳密でなくても働きはします。
材料については「透明なセルロイド板(作った板が少しペコペコする0.1mm厚位がよい。厚いと時に脱線する)」とあります。
私は手持ちのインクジェット用OHPフィルムを使いました。紅茶のティーバッグの入っていた透明な包装容器なども使えそうです。
デザインナイフやカッターを使い、内側のカギ形の細い穴を先に切り抜き、それから外周を切りました。けっこう細かいので、細い部分に切り込んでしまわないよう注意です。
切り抜いた透明板です。斜め下から撮っているので横に広く見えますが、実際途中でズレているようで元の外形と何か違います(笑)。その程度の作り方でもそこそこ作動します。水性ボールペンでケガキした跡がちょっと汚いです。
もうひとつ、これをカプラーの脇に留めるピンが必要です。
ピンは太さ0.5mm径、頭の大きさ3mm径ぐらいです。私は金属板に穴を開け、真鍮線をハンダ付けして作りました。多少頭に厚みがあっても構わないので、プラ板と真鍮線で作っても十分だと思います。板が引っかからないように作ります。
カプラー側にはピンを固定する小穴を開けました。
位置についてはカプラーの側面中央やや下よりとありますが、よくわかりません。写真の程度で作動はしました。
自作したピンで、透明板をカプラーの小穴に留めました。ピンはカプラーの内側に飛び出さないようにカットしました。飛び出していると、相手のカプラーが引っかかります。
透明板が軽く溝に沿って上下すればOKです。持ち上げるとぶらぶらしている感じです。
KATOの現在のC11にこのカプラーを装着し、トミックスの国鉄急行貨物列車セットを連結してテストしました。
今のKATOのアーノルドカプラーは、解放ピンが省略されているものがあり、昔の機械式アンカプラーでは解放できませんが、この仕掛けなら効きます。
機関車が貨車を牽いて、右から左に前進してきました。解放したいあたりで止めます。
板の動きを見ながら、ゆっくり微妙にバックします。
板が最寄りの枕木に引っかかって少しずつ起き上がり、それにつれてカプラーが持ち上がります。どの程度まで持ち上がればよいかは、少し練習して知る必要があります。
高さが足りないようなら、板の継ぎ足しや、寸法を変えての作り直しが要るかもしれません。
カプラーが十分上がったら、機関車を前進させると、解放します。
バックする距離は結構微妙で、昔のスローの効かない車両や普及品のパワーパックでは難しかったのではないかと思います。少しでもバックしすぎると、板が反転して再度カプラーが下がってしまい、やり直すしかなくなります。
ともかく、最初は少し練習がいりますが、じきに結構よく解放できるようになります。相手のカプラーが引っかかって一緒に上がったりという不幸はあるかもですが、機械式アンカプラーと同程度の確からしさ(印象)では使えます。枕木のある直線区間で、カプラーの動きを目で確認できる場所でなら、どこでも解放できます。
解放状態からバックして連結し、そのまま押していくこともできます。
バックして貨車に接近します。
板が進行方向に投げ出されている状態では、最寄りの枕木に引っかかり、もう一度カプラーが持ち上がりますが構わずバックします。
連結します。板の角度は反転しています。そのまま押して走行を続けることができます。
板は走行中、このようにずっとぶら下がっています。これを許容できるかが活用の分かれ目もしれませんね。ポイントなどもそのまま通過はできます。板がフニャフニャですし、後ろになびきますし、適当にガイドレールなども避けているようです。
バックで連結したあと、向きを変えて牽引しようとすると、もう一度カプラーが持ち上がって解放してしまうのでは?と思えますが、そこがよくできています。ちゃんと牽けます。
まずはバックして連結したところです。
方向を逆転して出発します。
前進すると、透明板が最寄りの枕木に引っかかり、板が起き始めます。
板は起き上がりますが、留めピンが板の中央のスリットを逃げるので、カプラーは持ち上がりません。
(たまにどこかに引っかかって持ち上がることはありますが)
カプラーは持ち上がらないまま、板は反転を続けます。
そのまま走っていけます。
また、どこか直線区間で少しバックすれば、板とともにカプラーが持ち上がって、解放することができます。
このように板の形状だけでいくつものアクションが工夫されており、感心するばかりです。
今は当時と異なり、カプラーが台車マウントではなくボディマウントになっている製品も増え、カプラーまわりのディテールに凝った製品もありますから、車両側に透明板が反転すると具合が悪いものがあるかもしれません。
C11と客車での動作の様子です。うまくダウンロード・再生できなかったら申し訳ありません。
リモコンで解放できるカプラーを作ったこともありますけども(→リモコン電動カプラー)、テンダーの中が作動機構でいっぱいでした。
この入換カプラーはそんな機構がないのに、場所を選ばない切り離しをやってのけます。