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モラルハラスメント
9.被害者の回復
1.回復
1)回復のために
被害者の回復は、その本人ひとりで進むものではなく、まわりの助けが
必要です。
被害者の体験をまともに取り上げて聞いてくれ、人を支配コントロール
しようとしない安全な人とつながることがまず必要であり、そのような人と
話すことで少しずつ回復していくのです。
とくに、虐待のメカニズムを理解している人の中で話すと、より伝わりやすく、
話を整理しやすいようです。
回復の途中で、加害者と接触する可能性もあるでしょう。
そのとき、加害者はいつまでもコントロールしようとしてくるかもしれません。
そのようなときには、いかにコントロールされないようにするかが大切です。
つまり、リモートコントロールをかけてこようとする加害者に対して、
電波の届かない圏外にいるという立場をとるのです。
また、そのようにすることによって激怒した加害者本人から第三者へ、
その暴力行為が露呈することがありますが、それが被害者の回復の
助けにもなります。
2)回復の過程
被害者は、自分が体験したことを安全な場所で話したり、文字にしたり、
テープに録音したりして、それを他の人と分かち合いながら、自分の身に
起きたことがモラルハラスメントという暴力であり、自分はその被害を
受けたのだということを認め、受け入れることが必要です。
その過程で、罪悪感から抜け出し、加害者への怒りの感情を認め、
表現していきます。
そしてその怒りの感情の奥にある悲しみや苦しみ、喪失感などに
向き合い、その感情を認め、充分に味わい、表現していくことによって、
被害を受けたというできごとを、文字通り過去のものにしていくのです。
また、今までは保障されていなかった、自分のことを自分で決められる
状況が被害者には必要です。
モラルハラスメントの場で言われてきた常識や理論を鵜呑みにせず、
まわりの人のとらえ方を聞いたり、自分の正直な気持ちと照らし
合わせたりしながら、少しずつ、自分なりの感覚や価値観を取り戻して
いきます。
そして、加害者の言葉や態度、自分のあり方に対する意味を、
加害者から押しつけられた物語ではなく、新しい自分自身の物語へと
書き換えていくのです。
そうして被害者は、モラルハラスメントによってばらばらにされた
自分の心や感覚をひとつにし、つながりを取り戻していきます。
そして、自尊心や自己肯定感を思い出し、自分自身を許し、他者との
新たな、対等な関係を作っていくのです。
また、それらの作業を通して、モラルハラスメントという虐待のメカニズムを
理解することは、今まで起きてきたできごとを整理する助けになりますし、
これからの人生において、新たな虐待を回避する助けにもなるでしょう。
そしてあるとき、今まで加害者に感じていた、自分が破壊され尽くして
しまうような超人的な力を、今や加害者が持ってはいないことに
気がつくのです。
ただし、この回復への作業は、コントロールが難しいくらいに感情が
高ぶってきたときには休憩をとることが必要です。
決してひとりではなく、誰か援助してくれる人と一緒に、少しずつ、
自分の感情や感覚を確かめながら、回復への作業を進めていってください。
2.援助者
1)基本的な考え方
人には、安全や安心の欲求が満たされる必要があります。
たとえうっかりしていても愚かでも、今いる場所で安心して安全に暮らす
権利が誰にでもあるのです。
また、社会には、安全に暮らせる環境を作る義務があります。
そういう意味で、モラルハラスメントは、基本的な人権を脅かす
暴力なのです。
ときに被害者は、その人自身に何か問題があるかのように見えるときも
あります。
しかしそれは、暴力による被害者の葛藤や混乱がひどいためで、
被害を受けると誰でもそうなるのだということを知っておいてください。
2)援助者として
今まで加害者によって不当に抑圧されていた被害者の回復のためには、
今までとは逆、つまり、誠実で対等な関わり方をされることが必要です。
援助者は、情報提供をしながらも、具体的な選択においては被害者自身の
意志を尊重することが大切です。
その中には、被害者が特別何もしないということも含まれます。
それも選択肢のひとつだと認めてください。
被害者のいたらないと見えるところを取り上げて、説教などをしたり、
援助者の正義感を押しつけて、プレッシャーをかけたりしないようにすることが
大切なのです。
また、被害者が自分自身情けないとか恥ずかしいとか言ったときには、
援助者は変に共感するのではなく、「情けなくて恥ずかしいのは、
あなたではなく加害者よ」とはっきり言う方が、真のサポートになるようです。
3.次世代への連鎖
被害者が次の加害者になるという、いわゆる次世代への連鎖が
心配されますが、それを断つためには、まず被害者自身が、自分の身に
起きたことが暴力であったと認識することが必要です。
それを認めず、あれは自分のためだったとか、教育や愛情があっての
ことだったとしか認識できないとき、同じ理由でその暴力を、教育や
愛情という名の下に伝えてしまう危険性があるのだと思います。
暴力を受けたと認めることはつらいことですが、それを認め、怒り、嘆き、
そして未来へ向けて進むことができれば、次の世代を虐待する理由など
なくなるのです。
そのような回復の過程の中で、自分の弱さを認めることができ、その弱さを
ダメなものだと評価しないでいられる強さを自分の中に感じ取れることこそが、
次世代への連鎖を断つ鍵なのだと思います。
次回は、「暴力のない社会をつくるために」についてまとめます。
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