SIADH(syndrome of inappropriate secretion
of ADH) 視床下部において合成され下垂体後葉より分泌される抗利尿ホルモン(ADH) の異常によって生じる病気です。 ADHは腎臓に作用して血液中の水分が尿中に排泄されるのを調節しています。腎臓の機能が正常でも、ADHの分泌が不足すると多尿に、ADHの分泌が過剰な状態では血液中に水分が蓄積される状態になります。 ADHの分泌は血中浸透圧によって調節されています。血中浸透圧に比較してADHの分泌が不足している状態は、尿崩症とよばれます。口渇、多飲、多尿が特徴です。 血中浸透圧に比較してADHの分泌が過剰な状態は、抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)とよばれます。自覚的には倦怠感や食欲低下などの症状があります。 抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)の主要な病因は中枢神経性疾患と胸部疾患です。頭蓋内の炎症、出血、腫瘍、外傷はいずれも原因となる可能性があります。胸部疾患としては肺炎、結核、肺癌などがあげられます。肺癌とくに未分化細胞癌では異所性ADH産生によるSIADHも認められます。その他に、クロールプロパミドやビンクリスチンなどの薬 剤の服用によって引き起こされることもあります。 抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)の症状は低ナトリウム血症の程度とその出現速度によって異なります。血清Naが120mEq/l以下になると、全身倦怠感、食欲不振、傾眠や筋肉のけいれんが出現します。血清Naがさらに低下し110mEq/l以下になると、全身のけいれんや昏睡を伴います。原因となった疾患に基づく身体症状がこれに加わります。しかしながら、皮膚や粘膜の乾燥や血圧低下などの脱水症状は認められません。 抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)においては水摂取量を制限することが大切です。改善しない場合には1日10g以上の食塩を摂取させることがあります。その他の薬剤としてデメクロサリンを1日600mg経口投与します。高度の低ナトリウム血症を示し、けいれんや意識障害などの神経症状を示す症例においては利尿作用を有するフロセマイドと高張食塩水を静脈内投与します。 |