バラ色の日々 《1》
− I want a Future −
音楽に対する監視と規制が厳しく、表現の自由なんて存在しないこの国。
それでも、俺達「THE YELLOW MONKEY」はNo.1のライブバンドとして、確乎たる地位を手に入れている。
でも、この国で音楽を続けていくには、もう限界だ・・・・
俺達の曲が規制の対象となる度に、俺の全てが否定されている思いになる。
このままじゃ俺は、いずれイエローモンキーを壊してしまうだろう。
それだけは嫌だ。絶対に・・・
ヒーセ「また、曲の発売がダメになったってよ」
ロビン「もういやだ! これで何回目だよ。いくら、いい曲作ったって、発売中止になったらライブでだって歌えないじゃん! もう、ここにいたら俺達、やりたい事何にも出来ないよ」
ヒーセ「だからって、どうするんだよ。俺達ずっと、ここで音楽やってきたんだぜ。ここ以外で何処でやるんだよ」
ロビン「亡命する」
アニー「亡命って!!!」
エ マ「アニー、声が大きい。ロビン、亡命するって言っても、簡単じゃないって事は分かってるよね。それに、たとえ俺達が無事できたとしても、この国に残った家族がどういう目に合わされるかということも考えたよね」
ロビン「分かってるよ。俺だって考えたよ。でも、このまま此処にいたんじゃ俺だめになっていく。一緒に来てくれるよね?」
アニー「俺には出来ないよ。親父とお袋を置いてこの国を出るなんて・・・・」
エ マ「ロビンがそんなこと考えてるなんては思わなかった。いつからそんな事考えてたの?」
ロビン「真剣に考え始めたのは今年に入ってからだよ。このままこの国で音楽を続けるのがいいのか、それとも、危険を冒しても自由を手に入れるのか。どうしたらいいのか、この4ヶ月ずっと考えてた」
ヒーセ「成功したとしても、その後の事なんて約束されてないんだろ? 待ってるのは厳しい現実かもしれないんだぜ」
ロビン「はっきり言って、俺にだって計画が成功したあとの事はどうなるかは分からないよ。それこそ、野垂れ死にするかもしれないし」
ヒーセ「時間をくれよ。すぐには答えなんか出せねーよ」
ロビン「うん。でも、もし実行するなら、すぐにでもしたいんだよ。金曜日までに答えを聞かせてほしいんだ」
ヒーセ「分かった」
アニー「・・・分かった・・」
エ マ「分かった」
そう言って俺たちはこの話を終わりにした。
エマとアニーが帰るのを見届けると、ヒーセが話し掛けてきた。
ヒーセ「おい、あんなこと言って、あてはあるのか?亡命って言ったって、そう簡単に出来るもんじゃねーんだからな。わかってんのか?」
ロビン「分かってるよ。俺だって、色々調べて、方法が見つかったから皆に話したんだよ」
ヒーセ「でも、情報が漏れてばれたら? 捕まるぜ」
ロビン「アニーもエマも、他人に漏らすようなことしないよ。ヒーセもだろ?」
ヒーセ「そんな事、しねーけどよ。でもよ、俺たちはいいぜ。一人暮らししてるから。でも、あいつら親と住んでるんだぜ。二人ともいなくなったら、事務所に電話来るだろ? で、事務所が何も知らないって言ったら、騒ぎになるかもしれねーじゃねーか」
ロビン「まぁ、問題があるとしたらそこなんだよなぁ。それより、ヒーセも人の事心配するより、自分の事考えろよ」
ヒーセ「そうだな」
家へ帰る車の中、二人は黙ったまま、エマは車の運転を、アニーはずっと窓の外を眺めていた。
相変わらず窓の外を見つめていたまま、アニーが話を切り出した。
アニー「ロビンがあんな事言うとは思わなかった。まさか、あそこまで考えてるとはね」
エ マ「そうだね」
アニー「言ってることも分かるけど、でも、やっぱり俺には出来ないよ。別に俺が、それこそ野垂れ死にしたって構わないけど。残された親父とお袋の事を考えると、やっぱ、この国を出るなんて事、俺には・・・・」
エ マ「でも、このままここにいたって、俺達したい事も出来ないんだよ。それに、あいつがあんな事考えちゃったのに実行出来なくて、ここでこのまま音楽続けていったら、イエローモンキーはいずれ壊れるよ。あいつは続けて行けないだろうから」
アニー「じゃ、兄貴は親父やお袋よりロビンを取るの?」
エ マ「・・・俺は、イエローモンキーを壊したくないだけだよ・・・・」
アニー「薄情だよ。兄貴が、そんなんだとは思わなかった」
沈黙は家に着くまで続いた。
俺があの話をした次の日、エマから「会いたい」との電話をもらった。
エマが俺のところに電話をかけてくるなんて、もしかして初めて?
俺は指定された場所へ行ってみると、既にエマは来ていた。
エ マ「ごめんね、こんな時間に呼び出して。どうしても、お前と話がしたかったから」
ロビン「遅刻が多いエマにしては珍しいね。もう来てるなんて」
エ マ「あー。ここから電話したからね」
ロビン「えっ?ここで俺が来るまでずっと待ってたの? 一時間近く?」
エ マ「いや、夕方からかなぁ。日が沈むの見てたから」
ロビン「風邪引くよ、エマ」
エ マ「大丈夫だって。車の中にいたから」
ロビン「話って?」
エ マ「アニーに「薄情者!」って言われた。「親よりロビンを取るの?」って聞かれて、「イエローモンキーを壊したくないから」って言ったら」
ロビン「・・・」
エ マ「俺もさ、もっと好きなことやりたいよ。誰にも邪魔されずに」
ロビン「だったら、賛成してくれるの?」
エ マ「でもね。親をこの国に残してまで行きたいかと言ったら、素直に「はい」とは言えないんだよね。やっぱり」
ロビン「ごめんね」
エ マ「なんで謝るんだよ」
ロビン「だって、俺の我儘だろ。結局。自分の求めてる音楽をやりたいから、皆を巻き込んで、ここから逃げ出そうとして。最低だよな。ごめん」
エ マ「ねぇ、誰も「行く」って言わなかったらどうする? 一人でも行くの?」
ロビン「そうなったら、行かない。悔しいけど諦める」
エ マ「じゃぁ、例えば、俺だけが行かないって言ったら」
ロビン「やっぱり嫌?」
エ マ「だから、例えばだって。俺じゃなくても、アニーでもいいよ」
ロビン「そうだな・・・話し合って、説得してみて、それでも駄目だったら、やっぱり諦めるよ。だって、ヒーセとアニーとエマだったから今までやってこれたし、これからも、この3人とじゃなきゃ音楽をやって行きたくない。だって、誰か一人でも欠けたら『THE YELLOW MONKEY』じゃないだろ? でも、俺はその場所がここじゃ駄目なんだよ。このままここで続けてたら、俺、いずれイエローモンキーを壊しちゃうかもしれない・・・」
エ マ「そっか」
ロビン「・・うん」
エ マ「わかったよ。金曜日には俺も答えを出すから」
ロビン「うん」