マンションに戻ったら、ヒーセと英昭があろうことか、俺たちのビデオを流して見ていた。
「この中で誰が一番かっこいい?」
っていう質問に、「この人!」と指差した、そこには、身を反らせて絶叫する吉井。
英昭は、帰ってきた俺が、昨夜も落ち込んでいたのを覚えているのか、明らかに俺を元気付けようとする笑顔を見せた。
えらいね。英昭。
俺、ちっちゃい頃は、確かにそういうことできたんだね。
だったらこれからできないってコト無いよね。
その、オマエが「一番かっこいい」って言った男のためにさ。

その日は3人で遅くまで騒いだ。

ここにいる小さな英昭は、確かに現在の俺の過去の姿なんだけど、それでも明日には別れるのが、少し辛かった。
いい加減夜も更けて、それでも眠ろうとしない英昭に、俺は子守歌を聞かせてやった。
ビデオを見て、将来の自分に感化されたらしい英昭がねだるので、ギターで弾いて。
・・・ずっとジョー・ペリーにあこがれてギタリストになったと思ってたけど、本当は根底にはこのときの記憶があったのかもしれないな。
だとしたらなんてナルシストなんだろう、俺ってば。あはは。






朝方、俺は再び夢で目覚めた。
頬に涙が流れていた。

夢の中、俺はひとりぼっちでこのベッドに横たわっていた。
そこには既に、英昭もヒーセもいない。
俺は本来のこのベッドの主が帰ってくるのをずっと待っていた。

けれど、何度太陽が昇っても沈んでも、誰も帰ってこない。
動けないまま、俺は絶望に哭く。

名前を呼べばいいのは判っていた。
なのにその名前が凍り付いて、喉から出てこない。
遠くで、電話越しに、サラの勝ち誇ったような笑い声が聞こえる。

やめて。
やめて。

あいつの名前を呼ぶのはあんたじゃない。

判ったから。
俺がどうしたいのか、判ったから。

だから返して。
あの人を俺に返して。

つけっぱなしのTVの中で、俺と絡み合うあいつが笑った。


俺に残されたのは、この記憶だけ。
与えられることだけを欲していた俺に残されたのは、あいつに愛されたことがある記録だけ。

壁の向こう、隣の部屋で英昭が泣いてる。
「ぼくのことはもう、いらないんだ」って泣いてる。

俺はあの頃のまま。
ずっと成長しないまま。









「―――――――――――――――――・・・・・・っ!」



酷い寝汗をかいて飛び起きた。

・・・・・・・・・夢。




馬鹿だな、俺。

何だよ。
ちょっと吉井に冷たくされただけで、連日こんなにうなされるほど、気持ちは決まってんじゃん。
何がプライドだよ。
何が認めたくないだよ。

こっちのが、よっぽどカッコ悪いよ・・・。

だから、吉井。
もしまだ間に合うなら、今度は、俺のほうから好きだって言ってみたい。

だから。

ねぇ。

お願いだから、もう一度、俺のところに帰ってきて。
さっきの不愉快な夢を、正夢にしないで。


殆ど何も考えることなく、俺はまた携帯に手を伸ばした。
でも吉井の携帯は、やっぱり圏外のままだった。

「吉井・・・・・・・・・」

思わずもれた俺の声は、情けないほど震えていた。





「エマ、どこか痛いの?」

「え?」

いつの間に目を覚ましていたのか、英昭が俺の顔を覗きこんでる。
俺はその小さな身体にすがるように、思いっきり抱きしめた。

「うん・・・痛いんだよ」

「おなか痛いの?」

「・・・・・・・・違うよ」

俺は・・・・・・俺は。

「大好きな人に会いたいんだよ。会って、謝りたいんだ」

俺の曖昧な態度で、きっと吉井は随分傷ついてきたんだろうということ、それを気にもしなかった俺。
そんな自分を、謝ってしまいたいんだよ。

小さい英昭には、まだ俺がそう言って泣く意味は判らないらしく、ただじっと俺が泣くのを見つめているばかりだった。

next