千葉県市川市大門通りの万葉パネル
千葉県市川市には万葉集にちなむ歴史遺産が多数あり、万葉歌碑がいくつか建てられています。さらに、JR市川駅近くから北に弘法寺に至る大門通りに、26枚もの万葉パネルがあります。これら万葉パネルは、以前から通りに沿った壁に設置されていたものを、平成20年に改修したのだそうです。揮毫者は市川にゆかりの方々とのことです。
万葉パネルを、市川市のHPに記載された順番に、以下に載せます。大門通りの入口側(JR市川駅側)からの順になっているものと思われます。なお、一部見落としたパネルもあり、数枚欠けています。ところで、反射しやすい素材でカバーしてあるパネルもあったため、自分の姿が写り込まないよう工夫が必要でした(2010/7)。
(1)
葛飾(かづしか)の 真間(まま)の浦廻(うらま)を 漕ぐ舟の 舟人(ふなびと)騒(さわ)く 波立つらしも (巻14-3349) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 葛飾の真間の浦を漕いでいる舟の船頭達が大きな声を出して動いている。波が立っているらしい。
(揮毫者)中野花舟
(2)
葛飾(かつしか)の 真間(まま)の入江(いりえ)に うち靡(なび)く 玉藻(たまも)刈りけむ 手児名(てこな)し思ほゆ (巻3-433) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) 葛飾の真間の入江になびいている美しい藻を刈ったという手児名のことが思われる。
(揮毫者)和爾啓水
(3)
勝鹿(かつしか)の 真間(まま)の井(ゐ)を見れば 立(た)ち平(なら)し 水汲(く)ましけむ 手児奈(てこな)し思ほゆ (巻9-1808) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 高橋虫麻呂
(大意) 葛飾の真間の井戸を見ると、頻繁に通って水を汲んだ手児奈のことが思われる。
(揮毫者)大貫水聲
(4)
尋常(よのつね)に 聞くは苦しき 呼子鳥(よぶこどり) 声なつかしき 時にはなりぬ(巻8-1447) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴坂上郎女
(大意) 世の常として聞くのは苦しい呼子鳥であるが、その声に心ひかれる季節になった。
(揮毫者)和爾渓珠
(5)
験(しるし)なき 物(もの)を思はずは 一坏(ひとつき)の 濁(にご)れる酒(さけ)を 飲むべくあるらし (巻3-338) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴旅人
(大意) かいのないことに思いなどせずに、一杯の濁った酒を飲むべきであるらしい。
(揮毫者)桜井映乙子
(6)
わがやどの 冬木(ふゆき)の上に 降る雪を 梅の花かと うち見つるかも (巻8-1645) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 巨勢宿奈麻呂
(大意) わが家の冬枯れの木の上に降る雪を、梅の花かとはっと見てしまったなあ。
(揮毫者)福島暎花
(7)
写真なし
田子(たご)の浦(うら)ゆ うち出(い)でて見れば 真白(ましろ)にそ 不尽(ふじ)の高嶺(たかね)に 雪は降りける (巻3-318) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) 田子の浦を通って広いところに出てみると、真白に富士の高嶺に雪が降っているなあ。
(揮毫者)吉澤桃舟
(8)
鳰鳥(にほどり)の 葛飾(かづしか)早稲(わせ)を 饗(にへ)すとも その愛(かな)しきを 外(と)に立てめやも (巻14-3386) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 葛飾の早稲を神様に供える夜は身を慎まなければならないのだけれども、あのいとしい人が来たら外に立たせたままにすることができるでしょうか。とてもできません。
(揮毫者)松田青艸
(9)
われも見つ 人にも告げむ 勝鹿(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てこな)が 奥つ城(おくつき)ところ (巻3-432) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) 私も見た。人にも伝えていこう。勝鹿の真間の手児名の奥つ城(墓)どころを。
(揮毫者)嶋田桃翠
(10)
石(いは)ばしる 垂水(たるみ)の上の さ蕨(わらび)の 萌え出(い)づる春に なりにけるかも (巻8-1418) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 志貴皇子
(大意) 岩の上を激しく流れる滝のほとりのさ蕨が萌え出る春になったなあ。
(揮毫者)宇田川流芳
(11)
熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと 月待てば 潮(しほ)もかなひぬ 今は漕(こ)ぎ出(い)でな (巻1-8) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 額田王
(大意) 熟田津で船出をしようと月を待っていると、潮の流れがよくなってきた。さあ、今こそ漕ぎ出そう。
(揮毫者)那須大卿
(12)
あをによし 寧楽(なら)の京師(みやこ)は 咲く花の 薫(にほ)ふがごとく 今盛りなり (巻3-328) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 小野老朝臣
(大意) 美しい奈良の都は、咲く花が照り輝くようにいま盛りである。
(揮毫者)中野花舟
(13)
若の浦に 潮満ち来れば 潟(かた)を無み 葦辺(あしへ)をさして 鶴(たづ)鳴き渡る (巻6-919) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) 和歌の浦に潮が満ちてくると潟がなくなるので、葦辺に向かって鶴が鳴き渡っていくなあ。
(揮毫者)平井万寿
(14)
君待つと 我が恋ひをれば わがやどの すだれ動かし 秋の風吹く(巻4-488) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 額田王
(大意) わが君を待って恋しく思っていると、私の家のすだれ動かして秋の風が吹いています。
(揮毫者)小澤潮園
(15)
なつきにし 奈良の都の 荒れゆけば 出で立つごとに 嘆きしまさる (巻6-1049) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 慣れ親しんだ奈良の都が荒れていくので、外に出てみるたびに嘆きが更につのる。
(揮毫者)国井久美子
(16)
銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も 何せむに 勝(まさ)れる宝 子に及(し)かめやも (巻5-803) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山上憶良
(大意) 銀も金も玉もなんの役に立とう。優れた宝も、子供に及ぶことなどあろうか。
(揮毫者)岩田荷渓
(17)
写真なし
淡海(あふみ)の海(うみ) 夕浪(ゆふなみ)千鳥(ちどり) 汝(な)が鳴けば 情(こころ)もしのに 古(いにしへ)思ほゆ (巻3-266) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 柿本人麻呂
(大意) 近江の海の夕浪を飛ぶ千鳥よ。おまえが鳴くと、心もしおれて昔のことが思われるなあ。
(揮毫者)小林松篁
(18)
霞立つ 野の上(へ)の方(かた)に 行きしかば うぐひす鳴きつ 春になるらし (巻8-1443) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 丹比真人乙麻呂
(大意) 霞立つ野辺の方に行ってみると、うぐひすが鳴いた。春になるらしい。
(揮毫者)川渕如水
(19)
春の野に すみれ摘(つ)みにと 来(こ)しわれそ 野をなつかしみ 一夜(ひとよ)寝にける (巻8-1424) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) 春の野にすみれを摘もうと来た私は、野に心をひかれたので一夜寝てしまった。
(揮毫者)樋口晶子
(20)
霜雪(しもゆき)も いまだ過ぎねば 思はぬに 春日(かすが)の里に 梅の花見つ (巻8-1434) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴宿禰三林
(大意) 霜も雪もいまだ残っているので思ってもみなかったのだが、春日の里に梅の花を見た。
(揮毫者)道口和羊
(21)
ぬばたまの 夜(よ)の更(ふ)けぬれば 久木(ひさき)生(お)ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く (巻6-925) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 山部赤人
(大意) ぬばたまの夜が更けてしまうと、久木の生える清き川原に千鳥がしきりに鳴くなあ。
(揮毫者)豊住美枝
(22)
(揮毫者)小林松篁
葛飾(かづしか)の 真間(まま)の浦廻(うらま)を 漕ぐ舟の 舟人(ふなびと)騒(さわ)く 波立つらしも (巻14-3349) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 葛飾の真間の浦を漕いでいる舟の船頭達が大きな声を出して動いている。波が立っているらしい。
葛飾(かづしか)の 真間(まま)の手児奈(てこな)を まことかも われに寄すとふ 真間の手児奈を (巻14-3384) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 葛飾の真間の手児奈と、本当だろうか、私がいい仲だと噂しているという。真間の手児奈と。
葛飾(かづしか)の 真間(まま)の手児奈(てこな)が ありしばか 真間の磯辺(おすひ)に 波もとどろに (巻14-3385) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 葛飾の真間の手児奈がもしいたならば、真間の磯辺に波もとどろくように人々は騒ぎだてただろうか。
足(あ)の音(おと)せず 行かむ駒(こま)もが 葛飾(かづしか)の 真間(まま)の継橋(つぎはし) やまず通(かよ)はむ (巻14-3387) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 足音せずに進む馬が欲しい。葛飾の真間の継橋をとおり、いつも通いたいものだ。
(23)
恋しくは 形見にせよと 我が背子が 植ゑし秋萩(あきはぎ) 花咲きにけり (巻10-2119) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 私が恋しくなったら形見にしなさい、と私の夫が植えた秋萩に花が咲きました。
(揮毫者)松坂久子
(24)
葦辺(あしへ)行く 鴨(かも)の羽(は)がひに 霜降りて 寒き夕へは 大和(やまと)し思ほゆ (巻1-64) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 志貴皇子
(大意) 葦辺を行く鴨の背中に霜が降って寒い夕べは、ことのほか大和のことが思われる。
(揮毫者)宇田川芳舟
(25)
君待つと 我が恋ひをれば わがやどの すだれ動かし 秋の風吹く (巻4-488) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 額田王
(大意) わが君を待って恋しく思っていると、私の家のすだれ動かして秋の風が吹いています。
(揮毫者)国井久美子
(26)
苦しくも 降り来(く)る雨か 神(みわ)の崎(さき) 狭野(さの)の渡りに 家もあらなくに (巻3-265) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 長忌寸奥麻呂
(大意) 困ったことに降って来る雨だ。神の崎の狭野の渡りには家もないのになあ。
(揮毫者)今井澄水
所在地
千葉県市川市大門通り
行き方
JR総武線市川駅から北へ150m程で国道14号線に出ます。国道を東京方面(西)に100m程進むと右(北)へ向かう大門通りがあります。弘法寺に至るまでの1kmほどの間の民家の壁にパネルが取り付けられています。