薄粥猶難得飽嘗, 煮茶聊慰我飢腸。 不知兵禍何時止, 破屋頽欄倚夕陽。 |
薄粥 猶ほ 飽嘗を 得ること 難く,
茶を煮て 聊(いささ)か 我が飢腸を慰む。
知らず 兵禍 何(いづ)れの時にか止まん,
破屋の頽欄に 夕陽に倚(よ)る。
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◎ 私感註釈
※河上肇:明治十二年(1879年)〜昭和二十一年(1946年)。マルクス主義経済学者。山口県の人。東京帝国大学卒業後、大学教授となり、次第にマルクス主義に近づき、やがて、新労農党、共産党と活動して、治安維持法違反で検挙された。主義のため、信念を貫くために地位と名誉を捨てた。詩作は検挙後に始めたというが、その詩は、作者の専門外とはいうものの、見事なものである。詠物、叙景の詩が文人の作詩の主流となっている現代日本詩では異色で、興味をそそられる慨世の作品群を遺している。
※兵禍何時止:戦争の災禍はいつとどまるのだろうか。 *作者の『兵禍何時止』は、また「早曉厨下蟄蟲聲,獨抱C愁煮野羹。不知兵禍何時止,垂死閑人萬里情。」もある。 ・兵禍:戦争の災禍。戦乱。 ・何時:いつ。 ・止:終熄する。とどまる。「止」には、自動詞他動詞双方の意があり、ここでは、自動詞の意で使われている。後出李白の『戰城南』では「息」「已」を使っている。
※薄粥猶難得飽嘗:薄いかゆでは、満腹になることがなおも難しい(ので)。 ・薄粥:稀薄で水気の多いかゆ。うすいかゆ。稀粥。 ・猶:なおも。 ・難得:得ることが難しい。 ・飽嘗:充分に食べる。満腹する。
※煮茶聊慰我飢腸:熱く出したお茶で、しばらくわたしの空きっ腹を癒す。 ・煮茶:熱く出したお茶。茶を煮え立たす。 ・聊:いささか。かりそめ。しばらく。 ・慰:なぐさめる。空きっ腹を癒す。 ・飢腸:餓えたお腹。空きっ腹。
※不知兵禍何時止:戦争の災禍はいつとどまるのか分からない(ので)。 ・不知:わからない。李白の『戰城南』「去年戰桑乾源,今年戰葱河道。洗兵條支海上波,放馬天山雪中草。萬里長征戰,三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作,古來唯見白骨黄沙田。秦家築城備胡處,漢家還有烽火然。烽火然不息,征戰無已時。野戰格鬪死,敗馬號鳴向天悲。烏鳶啄人腸,銜飛上挂枯樹枝。士卒塗草莽,將軍空爾爲。乃知兵者是凶器,聖人不得已而用之。」と、表現内容では同じことになる。
※破屋頽欄倚夕陽:ボロ家の(窓辺の)朽ちかけた欄干から、夕日にたのみすがっている。或いは、壊れかけた家の(窓辺の)すたれた欄干によりかかれば、夕日が照らしてくる。 ・破屋:壊れかけた家。 ・頽欄:すたれた欄干。壊れかけた欄干。 ・倚:たのむ。たよる。すがる。 よる。よりかかる。或いは「倚欄」「凭欄」のこととして、物思いに耽りながら窓の外の景色を眺めやるやるせないさまをいう。婉約詞での用例が多い。その場合、「頽欄倚」のところは、「倚頽欄」となり、「破屋倚欄照夕陽」の意になる。 ・夕陽:夕日。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「嘗腸陽」で、平水韻下平七陽。次の平仄は、この作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
平成16. 6.12完 6.13補 9.10 平成24.11.15 |
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