落花斜日恨無窮, 自愧殘骸泣晩風。 休怪移家華表下, 暮朝欲拂廟前紅。 |
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櫻山七絶
落花 斜日 恨み 窮(きは)まり 無し,
自(みづか)ら 愧(は)づ 殘骸 晩風を 泣くを。
怪むを 休(や)めよ 家を 華表(くゎへう)の下に 移すを,
暮朝 廟前の紅を 拂はんと 欲す。
◎ 私感註釈 *****************
※高杉晋作:天保十年(1839)〜慶應三年(1867)。幕末の尊皇攘夷運動の志士。長州藩士。病歿する。
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※櫻山七絶:現・下関市にある桜山神社の招魂場のことで、長州藩の外船砲撃において戦死した奇兵隊士の霊を弔うもの。ここでの「櫻山」の義は、後出「華表上」「廟前」と同じい。序文に「時移予家于櫻山下」とある。なお、この構文では「時に 予が家を 櫻山の下に移す」と読むべきところ。「予」は主格ではないので、「時に 予、家を櫻山の下に移す」と読むのは不適切。後世、明治二十三年に伊藤博文は『櫻山招魂場志感』「櫻山枕碧海,四面羣巒圍。氣象萬千變,朝嵐兮夕霏。囘憶當年事,涕泗暗沾衣。外寇犯邊海,内訌迫禁闈。天下如亂麻,王道歎式微。長防彈丸地,率先揚義旂。破敵於四境,掃賊于京畿。劍光如電閃、砲彈如雨飛。民傾産不顧,士視死如歸。邦君王佐器,精忠排羣譏。勤王循祖訓,正氣爲發揮。一朝遭國難,上下識所依。斷行鬼神避,先天天不違。皇政終復古,赫赫仰天威。草木欣榮色,日月生光輝。嗚呼忠義士,功烈何巍巍。英靈聚此土,衆目倶瞻睎。芳名萬萬古,長與櫻花馡。」を詠んだ。
※落花斜日恨無窮:散りゆく花も(沈みゆく)夕陽も、恨みや未練は窮まりない。 ・落花:散る花びら。散りゆく花。 ・斜日:夕日。夕陽。斜陽。「落花」「斜日」と凋落を傷み、我が身の衰弱の様を「殘骸」というのを強めている。 ・恨:〔こん;hen4●〕残念がる。くやむ。うらめしい。うらむ。 ・無窮:〔むきゅう;wu2qiong2○○〕きわまりない。尽きることがない。果てしない。限りがない。白居易の『長恨歌』にも「恨」は「此恨綿綿無絶期」この思いは、いつまでもいつまでも尽きる時がない。
※自愧殘骸泣晩風:(しかしながら)病み衰えた体(ということ)で衰えを歎くのは、自分でとがめている。 ・自愧:〔じき;zi4kui4●●〕自分ではじる。自分でとがめる。 *病魔のために回天の大業を志しながらも進退がとれない自分の体、そのことに悩み、つい流されてしまいがちになる。しかし、そのことに拘泥することがないように、自らを励まし、自分を律していきたい気持ち、それでいて如何ともし難い屈折した感情を、「自愧」で表している。 ・殘骸:〔ざんがい;can2hai2○○〕病気で窶れ果てた肉体。病残の体。すたれたむくろ。 ・泣晩風:構文からみれば、「晩風に泣く」(夕風の中で泣いている≒「(在)晩風泣」)とするよりも、「晩風を泣く」(衰勢を歎く)と読んだ方がよい。ただ、国語(日本語)としては「晩風に泣く」というのが穏やかで美しい。 ・晩風:(人生の)夕暮れ時に吹く風。晩方にふく風。夕風。
※休怪移家華表下:家を神社の鳥居の近くに引っ越したことを不思議に思わないでほしい。 ・休:やめる。やめよ。 ・怪:あやしむ。不思議に思う。 ・移家:引越をする。 ・華表:〔くゎへう;hua2biao3○●〕ここでは、神社の鳥居。本来は、柱の上に十字形の横木を附けたもので、大路が交わるところに立てられた道路標識。道路や宮殿、墓所前の標識。 ・下:(桜山神社の鳥居の)下方に。
※暮朝欲拂廟前紅:朝な夕なに祠(ほこら)の前の花びらを掃き清めたいためである。 ・暮朝:朝夕(に)。朝な夕なに。 ・欲:…しようとする。…したい。(…んと)ほっす。 ・拂:はらう。 ・廟前:〔べうぜんmiao4qian2●○〕死者の霊を安置する堂。神社。 ・紅:花びら。(赤い)花。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「窮風紅」で、平水韻上平一東。次の平仄は、この作品のもの。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成17.9.15 9.16完 平成25.5. 3補 |
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