館娃宮外鄴城西,
遠映征帆近拂堤。
繋得王孫歸意切,
不關春草綠萋萋。
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楊柳枝
館娃宮(くゎんあ(い)きゅう)外 鄴城(げふじゃう)の西,
遠くは 征帆に 映じ 近くは 堤を 拂ふ。
繋ぎ得たり 王孫 歸意 切なるを,
關せず 春草の 綠萋萋(りょくせいせい)たるに。
◎ 私感註釈 *****************
※温庭:晩唐の詩人。元和七年(812年)~咸通十三年(872年)。音楽に詳しく、艶麗優美な詩詞
を作る。本名は岐。字は飛卿。太原の人。李商隠と共に「温李」と称される。
※楊柳枝:柳を詠う。連作八首のうちこれは第五首。白居易は『楊柳枝』で、柳を詠いながら女性の麗しさをうたう。白居易の『楊柳枝』の連作は、次の通り。『楊柳枝』其一(六水調家家唱)
、『楊柳枝』其二(陶令門前四五樹)
、『楊柳枝』其三(依依嫋嫋復青青)
、『楊柳枝』其四(紅版江橋青酒旗)
、『楊柳枝』其五(蘇州楊柳任君誇)
、『楊柳枝』其六(蘇家小女舊知名)
、『楊柳枝』其七(葉含濃露如啼眼)
、『楊柳枝』其八(人言柳葉似愁眉)
。
※館娃宮外城西:呉王夫差の築いた館娃宮の外や、魏の曹操の都である
城の西では。 ・館娃宮:〔くゎんあ(い)きゅう;Guan3wa2gong1●○○〕呉王夫差が西施を住まわせた宮殿。蘇州の西、硯石山(霊巌山)上に築かれた。 ・
城:〔げふじゃう;Ye4cheng2●○〕魏の曹操の都で、現・河南省臨
。館娃宮、
城ともに、曾ての栄華の地。 ・西:「西」という語感には、凋落、没落、衰頽といった感じが蔵されている。「『詩詞世界』サイト内検索」で「西」字を見れば、その用例が多い。 ※遠映征帆近拂堤:(柳は)遠くの方を行く旅の舟に映え、近くでは、(柳の枝が風に靡いて)つつみを払うかのように動いている。 *「遠映征帆 近拂堤」となっており、句中の対。 ・遠映:遠くにはえて見えている。遠くに映じている。「近拂」の対。「遠映」「近拂」といった単語は無い。 ・映:はえる。うつる。うつす。 ・征帆:遠くへ行く舟。旅の舟。 ・拂堤:ヤナギの枝が(風に靡いて)つつみを払うかのように動いている。 ・拂:はらう。ヤナギの枝が風に靡き動くさまを表現していう。楊貴妃の『阿那曲』に「羅袖動香香不已,紅嫋嫋秋煙裏。輕雲嶺上乍揺風,嫩柳池塘初拂水」
とある。李煜の『柳枝詞』「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」
に影響を与えていよう。
※繋得王孫歸意切:(楊柳の枝は)王孫のひたすらな帰心を繋ぎとめている。王孫が帰郷したがっているのを引き留めている。 *この句の意は後出『楚辞・招隱士』に基づく。 ・繋得:繋ぎとめて…。 ・-得:動詞の後に附いて、(動作や状態の)結果、程度、方法、傾向を表す。 ・王孫:愛しい男性。本来は、貴人の子弟。王族の孫。貴公子。(女性の許を離れて旅立っている)男性を指す。もと、貴人の子弟の意で、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」を指す。そこでの王孫とは、隠士である楚の王族の屈原のこと。ただ、詩詞で使われる王孫とは、女性の容色の衰え等のために、女性の許を離れて旅立っていった男性のことでもある。詩題や詞牌に『王孫歸』
『憶王孫』
『王孫遊』(南齊・謝
)「綠草蔓如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」
としてよく使われる。劉希夷『白頭吟』(代悲白頭翁)「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」
や、王維の『送別』「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年綠,王孫歸不歸。」
や、韋荘の『淸平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」
や、王維の『山居秋暝』で「空山新雨後,天氣晩來秋。明月松間照,清泉石上流。竹喧歸浣女,蓮動下漁舟。隨意春芳歇,王孫自可留。」
がある。 ・歸意:帰郷したいという気持ち。≒帰心。「歸意」は○●で、本来「●●」とすべきところで用い、「歸心」は○○で、詩句中「○○」とすべきところで用いる。 ・歸:(本来いるべきところ(自宅、故郷、墓所など)に)帰って行く。もどる。 ・切:しきりに。ふかく。程度の深刻さを示す。ひたすらなさま。それを思うことがしきりで強いさま。
※不關春草綠萋萋:(月日が流れ、季節が変わり)春の草花が繁りだしたのにもかかわらずに。(『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。」)を踏まえている。 *「春草綠萋萋」で「月日が流れ、季節が変わって春になったのに」の意になる。 ・不關:…に関わらずに。かかわらない。関係ない。 ・春草:春の草。春に咲く草花。 ・綠萋萋:青々と茂っている。「綠萋萋」で一つの〔ABB〕型の形容詞。 ・萋萋:〔せいせい;qi1qi1○○〕木や草の繁っているさま。王昭君の『昭君怨』(『怨詩』)「秋木萋萋,其葉萎黄。有鳥處山,集于苞桑。養育羽毛,形容生光。既得升雲,上遊曲房。離宮絶曠,身體摧藏。志念抑沈,不得頡頏。雖得委食,心有徊徨。我獨伊何,來往變常。翩翩之燕,遠集西羌。高山峨峨,河水泱泱。父兮母兮,道里悠長。嗚呼哀哉,憂心惻傷。」や、崔顥の『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮鄕關何處是,煙波江上使人愁。」
等がある。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「西堤萋」で、平水韻上平八齊。平仄はこの作品のもの。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2006.11.15 11.16 11.17 |
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