村田清風逸題　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


逸題
	村田淸風
何幸稟生日域生，勿忘造次一忠誠。回頭今古多親友，武内時宗林子平。

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逸題

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
何たる幸さいはひか　生を稟うけて　　日域に生まる，
忘るる勿なかれ　造次ざうじも　　一いつに忠誠。
頭かうべを回めぐらせば　今古　　親友　多し，
武内たけのうち　時宗ときむね　　林子平りん（はやし）しへい。

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◎　私感註釈

※村田清風：幕末の長州藩士で、藩政改革の中心人物として手腕を揮った。通称は亀之助、四郎左衛門、織部。名は順之、清風。号して松斎、梅堂。天明三年（１７８３年）～安政二年（１８５５年）。

※逸題：題が失われた詩。

※何幸稟生日域生：なんという幸福であろうか、生命を授かって日が出るところ､日本に生まれた（ことを）｡　・何幸：なんという幸福であろうか。　・何：何たる…か。感嘆を表す。　・稟：〔ひん；bin3●〕受ける。（下の者が上の者の命を）受ける。　・稟生：命を授かる。　・日域：日が出るところ。ここでは､日本を指す｡

※勿忘造次一忠誠：片時も忘れないで、もっぱら忠義（に励め）。　・勿：なかれ。禁止を表す。　・造次：あわただしい。あわただしい場合。とっさの場合。『論語・里仁』に「君子無終食之間違仁，造次必於是，巓沛必於是。」とある。　・一：ひとえに。もっぱら。いつに。　・忠誠：まこと。まごころ。忠義の心。

※回頭今古多親友：昔から今までの間をふり返って見れば、親密な友人が多くいる。　・回頭：ふり返る。こうべを廻らす。　・今古：昔と今。昔から今までの間。古今。「古今」とするか「今古」とするかは、平仄による。「古今」は●○で、詩句の○○（或いは●○）となるべきところで使い、「今古」は○●で、詩句の●●（或いは○●）となるべきところで使う。　・親友：親戚と友人。また、親密な友人。ここは､後者の意で使われる｡

※武内時宗林子平：（それは、新羅征伐を佐けた）武内宿禰に、（元寇を退けた）北条時宗に、（海防の重要性を説き、『海国兵談』『三国通覧』を表した）林子平である。　・武内：武内宿禰（たけのうちのすくね）のこと。大和朝廷の初期、景行・成務・仲哀・応神・仁徳の五代に亘り、（二百四十餘年間を）仕えたといわれる。神功皇后の新羅征伐を佐け、蝦夷地の視察をしたりして、外征で力を発揮した。　・時宗：北条時宗のこと。鎌倉幕府第八代執権。通称、相模太郎。十八歳で執権となる。たびたびの元（蒙古）の使者を追い返し、やがては打ち、文永の役と弘安の役では元軍を撃破した。その後も国防力の強化に努め、異国征伐令を発した。　・林子平：（はやししへい：姓の「林」を「りん」と読む場合は漢風のよびかた。）江戸時代中期の経世家。元文三年（１７３８年）～寛政五年（１７９３年）江戸の人。名は友直。字は子平。号は六無斎。海外事情に通暁し、海防の重要性を説き、『海国兵談』『三国通覧』を表す。ために罪に問われた。江戸、仙台で活躍する。

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◎　構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「生誠平」で、平水韻下平八庚。次の平仄はこの作品のもの。

○●●○●●○，（韻）
●◎●●●○○。（韻）
○○○●○○●，
●●○○○●○。（韻）