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      江上漁者
              
                  范仲淹 

江上往來人,
但愛鱸魚美。
君看一葉舟,
出沒風波裏。


******

 江上の漁者   
江上  往來の人,
(た)だ愛す  鱸魚(ろぎょ)の美を。
君 看よ  一葉の舟の,
風波の裏
(うち)に 出沒するを。

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◎ 私感註釈

※范仲淹:宋の進士出身。989年〜1052年。字は希文。呉県(現・江蘇省蘇州)の人。

※江上漁者:川の上で漁をする者。 *川辺を行き来する旅人は、鱸(すずき)の美味しいことは知っており、それを好むが、その鱸(すずき)は、どのようにして手に入れられているかを知ることがない。鱸(すずき)は、漁民が危険を冒して苦労をして獲っているのを知るべきではないか、と詠う。唐・李紳の『憫農』「春種一粒粟,秋成萬顆子。四海無闢c,農夫猶餓死。鋤禾日當午,汗滴禾下土。誰知盤中餐,粒粒皆辛苦。」や、曹鄴の『官倉鼠』「官倉老鼠大如牛,見人開倉亦不走。健兒無糧百姓飢,誰遣朝朝入君口。」等の系列に入るか。或いは、 ・江上:川の上。河の畔(ほとり)。 ・漁者:釣り人。なお、詩詞では、漁父は半俗の雰囲気があり、俗世間との縁を絶った者として使われることが多いが、ここでは関係がない。後出の「鱸魚」も晋の張翰の故事とは関わりがなかろう。

※江上往來人:川のほとりを行き来する人(=旅人)は。 ・往來:行き来する。

※但愛鱸魚美:ただ、鱸
(すずき)の美味だけを愛している。 ・但:ただ…だけ。 ・愛:好きだ。愛する。 ・鱸魚:〔ろぎょ;lu2yu2○○〕すずき。魚の名。また、「鱸魚膾」の故事があり、「故郷の味覚」の意。『晋書・文苑・張翰』に「張翰は秋風が吹き出したのに逢って、故郷の呉中の菰菜と蓴羹と鱸魚の膾とを思い出して食べたいと思い、『人生は思いに従った生き方を尊ぶべきで、どうして故郷を数千里も離れたところで高官に就くべきだろうか』と言って、駕に乗って故郷に帰っていった。」(『晋書・文苑・張翰』「因見秋風起,乃思呉中菰菜、蓴羹、鱸魚膾,曰:『人生貴得適志,何能羈宦數千里以要名爵乎!』遂命駕而歸。」)。ただ、この部分だけを引用すると、張翰は隠棲を願う脱俗の士のように見えるが、そうではない。同書では引き続いて、「この後すぐに、主君は敗れた。人々は、張翰のことを機を見るに敏な人で、上手に身を引いた人だと思った」(「俄而敗,人皆謂之見機。」)と述べている「菰菜、蓴羮、鱸魚膾」での鱸魚(すずき)の膾(なます)をいう。菰菜(まこも)、蓴菜(じゅんさい)の羹(あつもの)とともに張翰の辞職の口実となった故郷の味。 ・美:すばらしい。おいしい。

※君看一葉舟:あなた、(あの)一艘
(そう)の小舟をご覧なされよ。 ・看:見る。 ・一葉舟:一艘(そう)の小舟。

※出没風波裏:(漁師も風波にもまれて)小舟が(波に揺られて)波間に見え隠れして(漁をして)いるのを。 ・出沒:(波に揺られた小舟が上下して波間に)見え隠れする。 ・風波:風と波。風が吹いて波が立つ。また、浮き世のわずらい。世の中の争いごと。ここは両者の意が共にある。 ・裏:…の中(に)。





◎ 構成について

 韻式は「aa」。韻脚は「美裏」で、平水韻上声四紙。平仄はこの作品のもの。
○●●○○,
●●○○●。(韻)
○◎●●○,
●●○○●。(韻)
2007.6.24完
2012.5.24補

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