岸闊檣稀波渺茫,
獨憑危檻思何長。
蕭蕭遠樹疏林外,
一半秋山帶夕陽。
******
河上亭の壁に書く
岸 闊(ひろ)く 檣(しゃう) 稀(まれ)にして 波 渺茫(べうばう)たり,
獨り 危檻(きかん)に 憑(よ)りて 思ひ 何ぞ 長き。
蕭蕭(せうせう)たる 遠樹(ゑんじゅ) 疏林(そりん)の外,
一半の秋山 夕陽を 帶ぶ。
◎ 私感註釈 *****************
※寇準:北宋の大臣、宰相。剛直な人となりで直言する。淵の盟を結び、和議を成立させた功労者。字は平仲。諡は忠愍。961年(建隆二年)〜1023年(天聖元年)。華州下の人。1004年(景徳元年)宰相の時、契丹(遼)が軍を南下させた。宋の宮中が色を喪い、南渡西遷を退け、寇準は真宗に親征を強く促した。州に至って遼軍に打撃を与えた。淵の盟で歳幣絹二十万疋、銀十万両で和議を成立させた。後、讒言されて、宰相を追われ、陝州を治めた。晩年、宰相に復し、莱国公に封ぜられる。やがてまた、排斥されて雷州の司戸参軍に左遷されて、任地で没した。
※書河上亭壁:河上亭で詩を書く。 *夕陽の詩では、唐・李商隱の『登樂遊原』「向晩意不適,驅車登古原。夕陽無限好,只是近黄昏。」 がある。 ・書:ここでは、(詩を)書く。「書…壁」「題…壁」。 ・河上亭:河の畔(ほとり)の亭(柱だけのあずまや)。固有名詞かどうかは不明。 ・河上:河の畔(ほとり)。 ・壁:かべ。
※岸闊檣稀波渺茫:岸辺までは幅が広く、舟は少なく、波が遠く広くはてしない。 ・闊:〔くゎつ;kuo4●〕ひろい。両方に限りがあり見わたして幅ひろ。 ・檣:〔しゃう;chang2○〕帆柱。ここでは、船を指している。 ・稀:〔き;xi1○〕まれ。まばら。少ない。 ・渺茫:〔べうばう;miao3mang2●○〕(水面などが)広くはてしないこと。遠くかすかなこと。
※獨憑危檻思何長:一人で高い所の手すりに寄りかかって、物思いに耽ったが、何と長かったことよ。 ・獨:ひとりで。 ・憑:〔ひょう;ping2○〕よりかかる。よる。凭(もた)れる。物思いに耽るときの仕草。 ・危檻:〔きかん;wei1jian4○●〕高い(ところにある窓の)手すり。 ・何:なんと。 ・思:〔し;si4●〕心。思い。名詞。 *「思」字は、「おもう」という動詞の意では〔し;si1○〕が普通。この句は「○○●●●○○」となるべきところで「○○●●○○○」は、極めて不都合。故、「思」は名詞。
※蕭蕭遠樹疏林外:風がもの寂しく、遠くの木や疎(まば)らな林の外の方から(吹いてくる)。 ・蕭蕭:〔せうせう:xiao1xiao1○○〕風がもの寂しく吹くさま。本来は、深く静かなことになるが、屡々風の形容として使われる。燕・荊軻『易水歌』「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」とあり、漢・無名氏の『古歌』には「秋風蕭蕭愁殺人,出亦愁,入亦愁。座中何人,誰不懷憂。令我白頭。胡地多飆風,樹木何修修。離家日趨遠,衣帶日趨緩。心思不能言,腸中車輪轉。」、『古詩十九首之十四』「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」とある。東晋・陶淵明の『挽歌詩』其三に「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。四面無人居,高墳正嶢。馬爲仰天鳴,風爲自蕭條。幽室一已閉,千年不復朝。千年不復朝,賢達無奈何。向來相送人,各自還其家。親戚或餘悲,他人亦已歌。死去何所道,託體同山阿。」とあり、杜甫の『登高』「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」を踏ま ・遠樹:遠くに見える木。南斉・謝脁の『遊東田』に「戚戚苦無悰,攜手共行樂。尋雲陟累榭,隨山望菌閣。遠樹曖仟仟,生煙紛漠漠。魚戲新荷動,鳥散餘花落。不對芳春酒,還望山郭。」とある。 ・疏林:〔そりん;〕まばらで薄い林。
※一半秋山帶夕陽:半ば紅葉した秋の山が、夕日に染まっている。 ・一半:半分。また、「一箇半箇」の意で、些か。 ・秋山:秋の紅葉した山。 ・帶:帯びる。 ・帶夕陽:夕日に染まっている。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「茫長陽」で、平水韻下平七陽。平仄はこの作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2007.6.24 |
次の詩へ 前の詩へ 宋碧血の詩篇メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |