良寛還郷作　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


還鄕作
	良寛
出家離國訪知識，一衣一鉢凡幾春。今日還鄕問舊侶，多是北邙山下人。

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鄕くにに還かへりての作

家を出いで　國くにを離れて　　知識ちしきを訪たづね，
一衣いちえ　一鉢いっぱつ　　凡およそ幾春いくしゅんぞ。
今日　鄕くにに還かへりて　　舊侶きうりょを問とはば，
多くは是これ　北邙ほくばう山下さんかの人。

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◎　私感註釈

※良寛：江戸後期の禅僧。寶暦八年（１７５８年）～天保二年（１８３１年）。漢詩人。歌人。越後国（現・新潟県）出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山（くがみやま）の国上寺（こくじょうじ）に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々として、類例を見ないほど暗いものである。

※還鄕作：故郷に帰っての作。　・還鄕：故郷に帰る。≒帰郷。

※出家離國訪知識：家を出て仏門に入って、郷里を離れて徳の高い僧を訪問して（修行をし）。　・出家：仏教用語で、家を出て仏門にはいる。　・離國：生国を離れ旅立つ。郷里を旅立つ。　・訪：おとずれる。行ってたずねる。訪問する。　・知識：仏教語で、仏道の先輩。善知識。徳の高い僧。

※一衣一鉢凡幾春：一つだけの袈裟（けさ）と、一つだけ鉢（はち）（という托鉢（たくはつ）姿で、およそ何度の春（＝何年）を送ったことだろうか。　・一衣一鉢：一つだけの袈裟（けさ）と、一つだけ鉢（はち）（＝托鉢（たくはつ）。「衣鉢」の「一つだけ」を強調したもの。また、「衣鉢」の意の語調を整えるための表現。（定型詩として「字足らず」を補うための表現）。　・衣鉢：〔いはつ、えはつ、えはち；yi1bo1○●〕仏教用語で、師の僧から伝える袈裟（けさ）と鉢（はち）（＝托鉢（たくはつ））。また、三衣一鉢（さんえいっぱつ）の略で、僧の着用する三種の法衣（袈裟）と食器（鉄鉢）。　・凡：全部で。およそ。おおよそ。　・幾春：何年。幾度の春を迎えたことか。

※今日還鄕問舊侶：今日、故郷に帰ってきて、昔の仲間のことを尋ねたら。　・問：尋ねる。とう。　・舊侶：むかしなじみ。昔の仲間。昔のとも。

※多是北邙山下人：多くは（すでに）・北邙山（ほくぼうさん）（と同じような墓山）に葬られた人（＝泉下の人）となっていた。　・多是：多くは…だ。同様の感懐を詠うものに、中唐・白居易の『商山路有感』「萬里路長在，六年身始歸。所經多舊館，大半主人非。」、また、同・白居易の『商山路有感』「憶昨徴還日，三人歸路同。此生都是夢，前事旋成空。杓直泉埋玉，虞平燭過風。唯殘樂天在，頭白向江東。」などがある。　・北邙山：〔ほくばうさん（ほくぼうさん）；Bei3mang2shan1●○○〕洛陽の北にある山名で、墓地が設けられている山。邙嶺、芒山ともいう。洛陽のすぐ北にある。嘗て洛陽の貴人が亡くなった時、ここに葬った。魏・阮籍の『詠懷詩』其十に「昔年十四五，志尚好書詩。被褐懷珠玉，顏閔相與期。開軒臨四野，登高望所思。丘墓蔽山岡，萬代同一時。千秋萬歳後，榮名安所之。乃悟羨門子，今自嗤。」とあり、後漢・梁鴻の『五噫歌』「陟彼北芒兮，噫！顧覽帝京兮，噫！宮室崔嵬兮，噫！民之劬勞兮，噫！遼遼未央兮，噫！」とあり、東晉・陶潛の『擬古・九首』其四に「迢迢百尺樓，分明望四荒。暮作歸雲宅，朝爲飛鳥堂。山河滿目中，平原獨茫茫。古時功名士，慷慨爭此場。一旦百歳後，相與還北邙。松柏爲人伐，高墳互低昂。頽基無遺主，遊魂在何方。榮華誠足貴，亦復可憐傷。」とあり、唐・沈佺期の『邙山』に「北邙山上列墳塋，萬古千秋對洛城。城中日夕歌鐘起，山上唯聞松柏聲。」とあり、唐・劉希夷（劉廷芝）『公子行』に「天津橋下陽春水，天津橋上繁華子。馬聲迴合青雲外，人影動搖綠波裏。綠波蕩漾玉爲砂，青雲離披錦作霞。可憐楊柳傷心樹，可憐桃李斷腸花。此日遨遊邀美女，此時歌舞入娼家。娼家美女鬱金香，飛去飛來公子傍。的的珠簾白日映，娥娥玉顏紅粉妝。花際裴回雙蝶，池邊顧歩兩鴛鴦。傾國傾城漢武帝，爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨，況復今日遙相見。願作輕羅著細腰，願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親，與君雙棲共一身。願作貞松千歳古，誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日，千秋萬古北邙塵。」と歌われている。　・北邙山下人：泉下の人のこと。墓に埋葬されてしまった人のこと。亡くなってしまった人のこと。

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◎　構成について

韻式は、「AA」。韻脚は「春人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。

●○○●●○●，
●○●●○●○。（韻）
○●○○●●●，
○●●○○●○。（韻）