夏夜病吟 | ||
石川丈山 |
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身衰齡將終, 心閑夜不寢。 蛙聲與鵑聲, 和雨碎病枕。 |
身衰 へ齡 將 に終 らんとし,
心は閑 かなれども 夜に寢 ねられず。
蛙聲 と鵑聲 とは,
雨に和 して病枕 に碎 く。
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◎ 私感註釈
※石川丈山:江戸時代初期の漢詩人、書家。天正十一年(1583年)〜寛文十二年(1672年)。通称は嘉右衛門。字は孫助。号は丈山。また、六六山人、四明山人、詩仙堂などとも号した。三河の人。徳川家康に従って大坂夏の陣で手柄を立てた。後、京都に住み、藤原惺窩に師事した。
※夏夜病吟:夏の夜に病床で詩を詠む。 ・病吟:病床で詩を詠む。
※身衰齢将終:肉体は衰えて、老齢で(生命も)終わろうとしているが。 *この「身衰齢将終」句は「身・衰 + 齢・(将)終」と句中の対で構成されている。 ・身:肉体。 ・齢:年齢。老齢。よわい。 ・将:これから…しようとする。…するであろう。まさに…(せん)とす。
※心閑夜不寝:心は平静であるものの、夜になっても寝付けないでいる。 *この「心閑夜不寝」の句は(作者の意図はともかくとして)「心・閑 + 夜・(不)寝」ではない。「心・閑 + 夜不寝」と見て「夜不寝」を一つの動詞句「夜になっても眠れない」とするのが妥当。 ・夜不寝:夜になっても寝付けない。不可能の表現。≒「不得夜寝」。ここの「夜」は「夜に…する」意の動詞的用法。東晉・陶潛の『雜詩十二首』其二に「白日淪西阿,素月出東嶺。遙遙萬里暉,蕩蕩空中景。風來入房戸,夜中枕席冷。氣變悟時易,不眠知夕永。欲言無予和,揮杯勸孤影。日月擲人去,有志不獲騁。念此懷悲悽,終曉不能靜。」とあり、北宋・蘇舜欽の『中秋夜呉江亭上對月懷前宰張子野及寄君謨蔡大』に「獨坐對月心悠悠,故人不見使我愁。古今共傳惜今夕,況在松江亭上頭。可憐節物會人意,十日陰雨此夜收。不惟人間惜此月,天亦有意於中秋。長空無瑕露表裏,拂拂漸上寒光流。江平萬頃正碧色,上下CK雙璧浮。自視直欲見筋脈,無所逃避魚龍憂。不疑身世在地上,祗恐槎去觸斗牛。景C境勝返不足,嘆息此際無交游。心魂冷烈曉不寢,勉爲此筆傳中州。」とある。
※蛙声与鵑声:(その原因は)かえるの鳴き声とホトトギスの鳴き声とが。 ・蛙声:〔あせい;wa1sheng1○○〕かえるの鳴く声。また、淫らな音楽。ここは、前者の意。 ・与:…と。…と(…と)。 ・鵑声:〔けんせい;juan1sheng1○○〕ホトトギスの鳴き声。
※和雨砕病枕:雨音と一緒になって、病床に響いて(わたしを)苦しめている(からだ)。 ・和:一緒になって。 ・砕:〔さい;sui4●〕くだく。苦しめる。現代でも毛沢東は『憶秦娥』婁山關で「西風烈,長空雁叫霜晨月。霜晨月,馬蹄聲碎,喇叭聲咽。 雄關漫道眞如鐵,而今邁歩從頭越。從頭越,蒼山如海,殘陽如血。」と使っている。 ・病枕:〔びゃうちん;bing4zhen3●●〕病気にかかり、床に臥していること。病臥。
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◎ 構成について
韻式は、「aa」。韻脚は「寝枕」で、平水韻上声二十六寢。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○○,
○○●●●。(韻)
○○●○○,
○●●●●。(韻)
平成23.6.7 6.8 |
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