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題彈琴圖 | ||
宮原節庵 |
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髙山流水七條絲, 不恨世無鍾子期。 自鼓自聽吾自樂, 此心難使伯牙知。 |
髙山 流水 七條の絲,
恨まず 世に 鍾子期の無きを。
自ら鼓し 自ら聽きて 吾れ 自ら樂しむ,
此の心 伯牙をして知らしむること 難からん。
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◎ 私感註釈
※宮原節庵:江戸後期~明治前期の儒者。文化三年(1806年)~明治十八年(1885年)。備後(広島県)尾道の人。頼山陽の門人。昌平黌に学び、京都に塾を開いた。名は竜。字は士淵。通称は謙蔵。号して潜叟、節庵・節菴、易安、栗村など。
※題弾琴図:琴を奏(かな)でているところの絵(について)の詩。 *この詩、『万葉集』に伝えられる元興寺の僧の「白玉 は人 に知 らえず知 らずともよし知 らずとも我 れし知 れらば知 らずともよし」(白珠者 人尓不所知 不知友縦 雖不知 吾之知有者 不知友任意 )を髣髴とさせる。 ・題-:(…の)詩を作る。 ・弾琴:琴を弾(ひ)く。なお、琴は、文人・貴族の嗜むべきものという位置づけがある。後出・『列子・湯問』の表現を借りれば「鼓琴」。盛唐・李白の『聽蜀僧濬彈琴』に「蜀僧抱綠綺,西下峨眉峰。爲我一揮手,如聽萬壑松。客心洗流水,餘響入霜鐘。不覺碧山暮,秋雲暗幾重。」とある。 ・図:絵。
※髙山流水七条糸:(高い山と流れる川の水で譬えられる伯牙を理解した鍾子期の関係を表す絶妙な演奏の)七弦琴。 ・髙山流水:高い山と流れる川の水。絶妙な演奏の譬え。自分を理解してくれる真の友人として、伯牙の演奏を理解した鍾子期との関係を暗示することば。『列子』湯問第五に「伯牙は琴を奏(かな)でることが上手(じょうず)で、鍾子期は聴くことに長(た)けていた。伯牙が琴を奏(かな)でる時、高い山に登っていることを想像していたところ、鍾子期は『すばらしい! 高々と聳える泰山のようだ。』と評し、川の流れを想像したところ、鍾子期は『すばらしい! 滔々と流れる大河のようだ。」と評し、伯牙が心に思っていることを、鍾子期は分かっていた。」(「伯牙善鼓琴,鍾子期善聽。伯牙鼓琴,志在登高山,鍾子期曰:『善哉!峨峨兮,若泰山。』志在流水,鍾子期曰:『善哉!洋洋兮,若江河。』伯牙所念,鍾子期必得之。」)とある。 ・七条糸:七本の弦。七弦琴を謂う。七弦琴とは、1メートル30センチ程の小さな琴。作者の属する頼山陽の一門では、「琴」は「七弦琴」のことを謂う。頼三樹三郎が、会津で見た浦上秋琴の家の琴も、七弦琴。
※不恨世無鍾子期:(しかし、わたしのことを理解してくれる)鍾子期のような人物が世にいないことを、うらめしく思わない。 ・世無:「世の中にはいない」の意。後出・『呂氏春秋』に「不復鼓琴。以爲世無足復爲〔ため:wei4〕鼓琴者。」)とある。 ・鍾子期:〔しょうしき;Zhong1 zi3qi1○●○〕春秋時代の楚の人。齊の音楽家・伯牙の琴の演奏をよく理解し、その心をとった。
※自鼓自聴吾自楽:自分で(琴を)奏(かな)でて、自分で聴き(=自分で鍾子期がしたように評価して)、自分で楽しんでいる。 ・自鼓:みずから奏(かな)でる。『列子・湯問』の表現「鼓琴」を用いた。前出・『列子・湯問』第五の青字部分参照。 ・聴:(積極的に)聴く。ここでは、鍾子期のように聴いて理解してくれる者がいないため、自分で聴いていること。前出・『列子・湯問』第五の「鍾子期善聽」に拠る。 ・自楽:自分で楽しむ。
※此心難使伯牙知:この思いは、伯牙に理解させることは難しいだろう。 ・此心:この思い。前の句の「自鼓自聴吾自楽」を指す。 ・難:…が難しい。…が難(かた)い。 ・使:(…に…を)させる。(…をして)…しむ。【使+名詞+動詞】使役表現。 ・伯牙:〔はくが;Bo2Ya2●○〕春秋時代の琴の名人の名。彼を理解してくれる友人が鍾子期。伯牙は、琴の音を理解してくれた親友・鍾子期の死を歎き、琴の弦を断ち切って、二度と琴を弾かなかった。それほどまでに知己を大切にした人物。『呂氏春秋』に「鍾子期が死ぬと、伯牙は琴を毀(こわ)して絃を絶ち、生涯、また琴を弾くことはなかった。世の中に琴を演奏してその人物のために聴かす、というのに値する人物がいなくなったからだろう。」(「鍾子期死,伯牙破琴絶絃,終身不復鼓琴。以爲世無足復爲〔ため:wei4〕鼓琴者。」)とある。
※節菴主人龍:宮原節庵のこと。節菴(節庵)は号で、龍は名。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「絲期知」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●●○○●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成23.5.31 6. 2 6. 3 (6.4~6.5)野州 6. 6完 6.10補 平成25.7. 5 |
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