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高松城懷古
 

大原桂南


殺身救衆又誰儔,
城郭如今址尚留。
追憶當年弔雄魄,
翠松獨有護林邱。





高松城址公園にて(平成24.10.7撮影)
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高松城懷古

身を殺し 衆を救ふ  又 誰か(つれだ)つ,
城郭 如今  (あと) ()ほ留まる。
當年を 追憶(つゐおく)し  雄魄を(とむら)ふ,
翠松(すゐしょう) (ひと)り有って  林邱(りんきう)(まも)る。

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◎ 私感註釈

※大原桂南:書家。明治十三年(1880年)〜昭和三十六年(1961年)。岡山県の人。名は専次郎。号して桂南。岡山師範学校で書を学び、後に岡山師範等の書道講師、県書道協会会長等を歴任し、書道の振興に尽くした。
高松城本丸址全景
高松城南側(橋の奥が本丸跡)
高松城本丸跡北端(本丸は橋の奥)
清水宗治公の自刃の処
清水宗治公の首塚
ごうやぶ遺跡---家臣たちの殉死した処

※高松城懐古:(備中)高松城の昔を思い出して(詩を作る)。 ・高松城:備中・高松城のこと。備中の国・高松(現・岡山県岡山市北区高松)にあった城。この城は、清水宗治が城主であった時に羽柴秀吉による水攻めに遭う。秀吉は城を堰堤で囲んで水没させた。清水宗治は、城兵の命と引き替えに切腹した。このような史話が伝えられている城(址)。 ・懐古:昔を思い出して、懐(なつ)かしく思うこと。弔古の意として使う。

※殺身救衆又誰儔:(城兵の命を助けるために切腹した清水宗治公の)身を殺して人々を助ける行為に、また誰がつれだったのだろうか。 ・殺身:命を失う。「殺身成仁」(身を殺して仁を成す)。正義のために死ぬこと。 ・救衆:人々を助ける。城兵の命と引き替えに切腹した清水宗治の行為を指す。 ・儔:〔ちう;chou2○〕つれだつ。また、なかま。ともがら。たぐい。ここは、前者の意。なお、公園の読み下し文の碑では当該部分は「たとえん」となっている。

※城郭如今址尚留:城は、今もあとをまだ残し留めている。 ・城郭:城の周りの囲い。城。また、都市(中国の場合は城郭都市のため)。「城」は「内城の壁」のことで「郭」は「外城の壁」を謂う。ここは、前者の意。後者の用法に南宋・文天の『金陵驛』「草合離宮轉夕暉,孤雲飄泊復何依。山河風景元無異,
城郭人民半已非。滿地蘆花和我老,舊家燕子傍誰飛。從今別卻江南路,化作啼鵑帶血歸。」がある。 ・如今:いま。きょうび。この節。現今。 ・址:〔し;zhi3●〕残っているもとい。あと。もと。もとい。 ・尚:なおも。なお。まだ。 ・留:とどまる。

※追憶当年弔雄魄:往時を思い起こして、(清水宗治公の)雄々しい魂を弔(とむら)えば。 ・追憶:過去のことや死んだ人の生前のことを思い起こす。追懐。追思。追想。 ・当年:〔たうねん;dang
1nian2○〕当時。あのころ。あの年。往時。蛇足になるが、「当年」は(平仄上、詩意上、)〔たうねん;dang4nian2○〕その年(のうちに)。同じ年(に)。「当年とって三十歳」といった意味の用例とは異なる。 ・雄魄:雄々しいたましい。いさましいたましい。ここでは、清水宗治の魂を指す。

※翠松独有護林邱:緑色の松だけが、林になった丘をまもっているだけであった。 ・翠松:緑色の松。 ・独有:ただ…だけがある。もっぱら…だけがあり(ましてや…)。前漢・李陵の『與蘇武詩』其二に「嘉會難再遇,三載爲千秋。臨河濯長纓,念子悵悠悠。遠望悲風至,對酒不能酬。行人懷往路,何以慰我愁。
獨有盈觴酒, 與子結綢繆。」とあり、中唐・白居易の『餘杭形勝』に「餘杭形勝四方無,州傍山縣枕湖。遶郭荷花三十里,拂城松樹一千株。夢兒亭古傳名謝,ヘ妓樓新道姓蘇。獨有使君年太老,風光不稱白髭鬚。」とある。 ・護林邱:林になった丘をまもる(「護・林邱」)。なお、現代語(中国語)では「お城の濠」は“護城河”と言い(「護城・河」)、それと同様の節奏で読めば「林をまもる丘」(「護林・邱」)となるが、ここでは不適切。 ・林邱:林になった丘。ここでは、本丸跡を指す。松林の丘が、ハスの池に囲まれていた。


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◎ 構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「儔留邱」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●●○○,
○●○○●●○。(韻)
○●○○●○●,
○○●●●○○。(韻)
平成24.10.13
      10.14



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