二百三高地 | ||
伊藤博文 |
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久聞二百三高地, 一萬八千埋骨山。 今日登臨無限感, 空看嶺上白雲還。 |
久 しく聞く 二百三高地,
一萬八千 骨を埋 めし山。
今日 登臨 すれば 無限の感,
空しく嶺上 を看れば白雲 還 る。
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◎ 私感註釈
※伊藤博文:政治家。天保十二年(1841年)〜明治四十二年(1909年)長州藩出身。幼名利助。後、俊輔。号は春畝。松下村塾に学び、木戸孝允に従い、尊王攘夷運動に参加。後、討幕運動に従って、維新政府樹立に貢献した。欧州よりの帰国後、華族制度、内閣制度の創設、大日本帝国憲法・皇室典範制定、枢密院設置など、天皇制確立のために努力。明治十八年(1885年)、初代総理大臣・枢密院議長となる。日露戦争後、初代韓国統監となり、併合強化への一歩を踏み出した。明治四十二年(1909年)、満洲視察と日露関係調整のため、渡満の際、ハルビン駅頭で韓国人・安重根に暗殺された。詩集に『藤公詩存』(明治四十三年 博文館)がある。
※二百三高地:遼東半島の南端にある旅順(現・大連市旅順口区)にある丘陵。当時の地図では二〇三高地。現・中国の地名では“203高地”〔er4ling2san1 gao1di4〕。蛇足になるが、映画の題では『二百三高地』)。旅順攻囲戦での激戦地。旅順の北西2キロメートルの地に聳える山地で、その標高が203mであることに因る。なお、旅順攻囲戦での要塞攻撃は、第三回総攻撃で二〇三高地をめぐる死闘が繰り広げられたが、それまでに二〇三高地以外でも、ロシア軍要塞の機関銃掃射のもと、日本軍兵士は果敢に突撃を繰り返し、極めて多数の戦死者を出した。明治・乃木希典に『爾靈山 』(=二〇三(高地))「爾靈山嶮豈攀難,男子功名期克艱。銕血覆山山形改,萬人齊仰爾靈山。」がある。
※久聞二百三高地:かねてから二〇三高地のことはうかがっている。 ・久聞:かねてからうかがっている。かねてから承っている。
※一萬八千埋骨山:(それは)一万八千人の死者の骨を土中に葬った山だ。 ・一萬八千:二〇三高地攻略に要した戦死者数。 ・埋骨:死者の骨を土中に葬ること。江戸・釋月性の『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有山。」とある。
※今日登臨無限感:今日、(二〇三高地に)登って下方を眺めれば、限りない思いがあり。 ・登臨:高い所に登って下方を眺める。
※空看嶺上白雲還:嶺の上をむなしく見つめていると、白い雲が(行き先から)帰って来た。(それは、英霊なのだろうか…)。 ・空:むなしい。すかっとからで、とらえるものがない。 ・看:物を臨み見る。窺い見る。 ・白雲:白い雲。道教や仏教の趣があり、俗世間を超越したことを暗示する語でもある。唐の王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」や、唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」、また、崔(さいかう:Cui1Hao4)の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」、漢の武帝・劉徹の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」。「白雲」の語はなく「雲」だけになるが、晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。ス親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝ク不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘。登東皋以舒嘯,臨C流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」や唐の賈島『尋隱者不遇』「松下問童子,言師採藥去。只在此山中,雲深不知處。」がある。 ・還:かえる。行き先から帰る。行った者がくるりと帰る。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「山還」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。
●◎●●○○●,
●●●○○●○。(韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
平成25.4.22 4.23 |
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