近藤勇有感作　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


有感作

	近藤勇
只應晦迹寓牆東，喋喋何隨世俗同。果識英雄心上事，不英雄處是英雄。

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感有りて作る

只(た)だ應(まさ)に　晦迹(くゎいせき)して　　牆東(しゃうとう)に寓(ぐう)すべく，
喋喋(てふてふ)として　何ぞ　　世俗に隨(したが)ひて同じうせん。
果(は)たして　英雄　心上(しんじゃう)の事を識(し)らば，
英雄ならざる處ぞ　　是(こ)れ英雄なりと。

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◎　私感註釈

※近藤勇：幕末の武人。新選組局長。名は昌宜。幕臣時、大久保大和。武蔵の人。天保五年（１８３４年）～慶応四年（１８６８年）。新選組局長として尊王攘夷派の志士の取締りにあたった。戊辰戦争では、甲陽鎮撫隊を組織して政府軍と戦ったが、流山で捕えられ、処刑された。

※有感作：感じることがあって（詩を）作る。「有感而作」のこと。

※只応晦迹寓牆東：（本当の英雄人物は、）ただ世を逃れて姿をくらまして、（陶淵明のように隠棲して、）垣根の東で菊を採っていたようにすべきである。　・只応：（＝祗應）ただ…だけに…すべきである。ただまさに…べし。≒只合。盛唐・杜甫の『贈花卿』に「錦城絲管日紛紛，半入江風半入雲。此曲祗應天上有，人間能得幾回聞。」とあり、中唐・白居易の『一字至七字詩』に「詩。綺美，瓌奇。明月夜，落花時。能助歡笑，亦傷別離。調清金石怨，吟苦鬼神悲。天下只應我愛，世間唯有君知。自從都尉別蘇句，便到司空送白辭。」とあり、南宋・辛棄疾の『鷓鴣天』「送人」に「唱徹陽關涙未乾，功名餘事且加餐。浮天水送無窮樹，帶雨雲埋一半山。　　　今古恨，幾千般，只應離合是悲歡？江頭未是風波惡，別有人間行路難。」とある。　・只：（＝祗）ただ…だけ。ただ…のみ。　・應：〔おう；ying1○〕（副詞）まさに…べし。また、（動詞）あたる。うける。ここは、前者の意。なお、「應」に〔おう；ying4●〕（動詞）こたえる、の意もあるが、仄声。この語の平仄は、「○」のところ。　・晦迹：〔くゎいせき；hui4ji1●●〕姿をくらます。世を逃れて人に知られないようにする。隠れて跡をくらます。　・寓：〔ぐう；yu4●〕（身を）寄せる。寄る。やどる。仮住まいする。　・牆：〔しゃう；qiang2○〕垣。垣根。塀。　・牆東：垣根の東で、隠棲する場所の意。後出・陶淵明の詩中の「（隠棲場所の）東の籬（まがき）で菊を採る」ということに因り、隠棲する場所の意。東晉・陶潛の『飮酒二十首』其五に「結廬在人境，而無車馬喧。問君何能爾，心遠地自偏。采菊東籬下，悠然見南山。山氣日夕佳，飛鳥相與還。此中有眞意，欲辨已忘言。」とある。

※喋喋何随世俗同：（政事について）口数多くべらべらしゃべる俗人物と、どうして一緒に出来ようか。　・喋喋：〔てふてふ；die2die2●●〕口数多くしゃべる。べらべらしゃべる。ぺちゃくちゃしゃべる。　・何：どうして…か。なんぞ（…や）。反語・疑問の表現。

※果識英雄心上事：もし、（真の）英雄の心中を知ることが出来るのならば。　・果：はたして。もし。　・識：知る。みとめる。さとる。「知」との違いは、（語感の違い以外では）「識」は●のところで使われ、「知」は○のところで使われる。　・英雄：才能や武略の非常にすぐれた人。　・心上：心中。意中。「心上」を使い、「心中」を使わないのは、「心上」は●●（○●）のところで使い、「心中」は○○（●○）のところで使うため。

※不英雄処是英雄：（真の英雄は、心の内では）英雄らしからぬこと（＝豪傑ぶらないこと、政事を談じて風雲を好むということをしないこと）こそが、（真の）英雄である（と思っていよう）。　・不英雄処：英雄らしからぬところ/ことの意。 *「不英雄処是英雄」の句は、「不英雄処是英雄」で、「不英雄処」の「英雄」は動詞・形容詞であり、「是英雄」の「英雄」は名詞。　・-処：ところ。ところで。ところに。「…のところ」といった位置、場所を表す。…の点、…の折といったことも表す。白居易の『靈巖寺』「館娃宮畔千年寺，水闊雲多客到稀。聞説春來更惆悵，百花深處一僧歸。」、釋靈一の『題僧院』「無限青山行欲盡，白雲深處老僧多。」とある。柳永の『夜半樂』「凍雲黯淡天氣，扁舟一葉，乘興離江渚。渡萬壑千巖，越溪深處。怒濤漸息，樵風乍起，更聞商旅相呼。片帆高舉。泛畫鷁、翩翩過南浦。　　　望中酒旆閃閃，一簇煙村，數行霜樹。殘日下，漁人鳴榔歸去。敗荷零落，衰楊掩映，岸邊兩兩三三，浣沙遊女。避行客、含羞笑相語。　　　到此因念，繍閣輕抛，浪萍難駐。歎後約丁寧竟何據。慘離懷，空恨歳晩歸期阻。凝涙眼、杳杳神京路。斷鴻聲遠長天暮。」、或いは、「荷花深處小船通」「綠楊深處是蘇家（＝蘇小小の所）」、李清照の『如夢令』「嘗記溪亭日暮，沈醉不知歸路。興盡晩回舟，誤入藕花深處。爭渡，爭渡，驚起一灘鴎鷺。」、清・袁枚の『銷夏詩』「不著衣冠近半年，水雲深處抱花眠。平生自想無官樂，第一驕人六月天。」や戴叔倫『夏日登鶴巖偶成』「碧雲深處共翔。」とある。我が国では、江戸時代・廣瀨旭莊の『夏初遊櫻祠』「花開萬人集，花盡一人無。但見雙黄鳥，緑陰深處呼。」がある。　・是：…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B：AはBである〕。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「東同雄」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）