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| 老矣行 | ||
祇園南海 |
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| 日居月諸何奔軼， 老矣吾且藏我拙。 誰使吾耳夜波濤， 誰使吾髮夏霜雪。 左不記右七誤八， 六神三魂招無訣。 鷄皮鶴骨魌其面， 汝寧獻媚孰爲悦。 老壯之言固妄談， 我不與容猶冰熱。 東鄰妖嫗尚效顰， 夜買臙脂佩鷄舌。 五十無聞可以已， 嗚呼老賊聖所罪。 君不見廉將軍使者笑， 一飯之間三遺屎。 |
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老矣行
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| 老矣行 | ||
祇園南海 |
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| 日居月諸何奔軼， 老矣吾且藏我拙。 誰使吾耳夜波濤， 誰使吾髮夏霜雪。 左不記右七誤八， 六神三魂招無訣。 鷄皮鶴骨魌其面， 汝寧獻媚孰爲悦。 老壯之言固妄談， 我不與容猶冰熱。 東鄰妖嫗尚效顰， 夜買臙脂佩鷄舌。 五十無聞可以已， 嗚呼老賊聖所罪。 君不見廉將軍使者笑， 一飯之間三遺屎。 |
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日や 月や 何ぞ奔軼する，
老い矣 吾 且らく 我が拙を藏さん。
誰 か 吾が耳をして 夜 波濤たら使 むる，
誰 か 吾が髮をして 夏霜雪 なら使 むる。
左 右を記せず 七 八を誤り，
六神 三魂 招くに訣 無し。
鷄皮 鶴骨 其の面を魌 にす，
汝 寧 ろ獻媚 するも孰 か悦 と爲 さん。
老壯の言固 より妄談 ，
我與 に容 れず猶 ほ冰熱のごとし。
東鄰 の妖嫗 尚ほ顰 に效 ひ，
夜臙脂 を買ひ鷄舌 を佩 ぶ。
五十 聞こゆること無くんば 以て已 む可し，
嗚呼 老賊 聖 の罪する所。
君 見ずや廉 將軍 使者 笑ふ，
一飯 の間 三たび遺屎 するを。
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◎ 私感註釈
※祇園南海：江戸中期の儒者、漢詩人。延寶五年（１６７７年）～寶暦元年（１７５１年）。名は瑜・正卿。字は伯玉。南海は号。江戸で生まれ、木下順庵に学ぶ。和歌山藩の儒者。
※老矣行：年老いてしまったことを詠った詩。*この詩、何となく現代語（＝中国語）の語義で作られているような感じがするが…如何。 ・老矣：年老いてしまった、老いたり、の意。南宋・朱熹の『勸學文』に「勿謂今日不學而有來日，勿謂今年不學而有來年。日月逝矣歳不我延，嗚呼老矣是誰之愆。」とある。 ・矣：…た。…てしまった。語気詞。句末の助字で、完了や過去、断定や決定を表す。 ・-行：詩の一体。楽府の題。
※日居月諸何奔軼：日よ月よ、何と早く走り去っていくのか。 ・日居月諸：日よ月よ。日や月や。月日（つきひ）（＝光陰）が流れ去ること。『詩經・邶風』の『柏舟』に「我心匪石，不可轉也。我心匪席，不可卷也。威儀棣棣，不可選也。…日居月諸，胡迭而微。心之憂矣，如匪浣衣。靜言思之，不能奮飛。」とあり、東晋・陶淵明の『命子』に「日居月諸，漸免於孩。福不虚至，禍亦易來。夙興夜寐，願爾斯才。爾之不才，亦已焉哉。」とあり、『論語・陽貨』に「好從事而亟失時，可謂知乎？曰：不可。日月逝矣，歳不我與。孔子曰：諾。吾將仕矣。」とある。 ・-居：〔き；ji1○〕…や。呼びかけ・疑問の助字。句末にあって語調を整える。＝乎。 ・-諸：〔しょ；zhu1○〕…や。…か。呼びかけ・詠嘆の助字。句末にあって語調を整える。＝乎。 ・何：なんと。動詞の前に置き詠嘆を表す。 ・奔軼：〔ほんいつ；ben1yi4◎●〕走りにげる。早く走っていなくなる。＝奔逸。『莊子・田子方』に「顏淵問於仲尼曰：「夫子歩亦歩，夫子趨亦趨，夫子馳亦馳；夫子奔逸絶塵，而回瞠若乎後矣！」夫子曰：「回，何謂邪?」曰：「夫子歩，亦歩也；夫子言，亦言也；夫子趨，亦趨也；夫子辯，亦辯也；夫子馳，亦馳也；夫子言道，回亦言道也；及奔逸絶塵而回瞠若乎後者，夫子不言而信，不比而周，無器而民滔乎前，而不知所以然而已矣。」とある。
※老矣吾且蔵我拙：老いてしまった。わたしは、ひとまず私のまずい部分を隠していこう。 ・且：ひとまず。しばし。しばらく。 ・蔵：かくす。 ・拙：自分のつたないところ。
※誰使吾耳夜波濤：誰が私の耳に、夜になると大波の音（＝耳鳴り）が聞こえるようにさせたのか。 ・誰：だれが…したのか。 ・使：…させる。…しむ。使役の表現。 ・波濤：大波のことだが、「夜に耳に聞こえる大波の音」とは、（加齢に伴う）耳鳴りを謂う。
※誰使吾髪夏霜雪：誰が私の髪に、夏でも霜と雪（＝白髪）があるようにさせたのか。 ・霜雪：〔さうせつ；shuang1xue3○●〕霜(しも)と雪。頭髪や鬢（びん）などの年を取っての白髪となったことの喩え。
※左不記右七誤八：左は右を覚えておらず、七を（うっかりとして）八と間違う（ような耄碌のさまで）。 ・左不記右：左は、右を覚えていない。左右を区別できない。≒不記（不辨/不分）左右。 ・不記-：…を記憶していない。…を覚えていない。 ・七誤八：（正しくは）七を（うっかりとして）八と間違う、の意。
※六神三魂招無訣：体の各部を司る精神を（新たに）招き寄せたいが、その秘伝も無い。 ・六神：心・肺・肝・腎・脾・胆の六臓を司る神。心。精神。 ・三魂：（道教での）胎光・爽霊・幽精の三魂。 ・訣：〔けつ；jue2●〕奥の手。秘伝。
※鶏皮鶴骨魌其面：（わたしは）年老いて、肌が鶏（にわとり）の皮のように衰えて、鶴のように骨張って痩せているさまで、醜い面がまえである（が）。 ・鶏皮：〔けいひ；ji1pi2○○〕年老いて、肌が鶏（にわとり）の皮のように衰えること。 ・鶴骨：鶴のように骨張って痩せているさま。「鶏皮鶴骨」は、「鶏皮鶴髮」のこと。「髮」の重出（「誰使吾髮夏霜雪」「鷄皮鶴髮…」）を避けたか。 ・魌：〔き；qi1○〕醜（みにく）い。 ・魌其面：醜いその面。鬼やらいに使った醜怪な面。
※汝寧献媚孰為悦：（年を取った風貌の）お前さんよ、よもや、しなを作ったって誰が喜ぶというのだい。 ・汝：おまえ。なんぢ。「鶏皮鶴骨魌其面」の主（ぬし）に対して言う。作者の自問自答。 ・寧：まさか。よもや。かえって。すなはち。どうして。なんぞ。豈(あに)…ならんや。むしろ。いづくんぞ。 ・献媚：〔けんび；xian4mei4●●〕しなを作る。 ・孰：だれ。どちら。いづれ。たれ。 ・為：〔ゐ；wei2○〕…とする。…となす。 ・悦：よろこび。
※老壮之言固妄談：「老いて（益（ますます））壮（さか）ん」という言葉は、でたらめな話であり。 ・老壮之言：「老いて益（ますます）壮（さか）ん」ということば。『後漢書・馬援傳』（八二八頁 中華書局版２２８ページ）に「轉游隴漢閒，常謂賓客曰：『丈夫爲志，窮當益堅，老當益壯。』」とある。老いては益（ますます）壮（さか）んなるべし。また、老人と若者。ここは、前者の意。 ・固：もとより。もともと。前から。本来。 ・妄談：〔ばうだん（まうだん）；wang4tan2●○〕でたらめな話。
※我不与容猶氷熱：わたしと相いれないことは、まるで氷と熱のようである。 ・与：ともに。 ・容：いれる。 ・猶：なお（…のごとし）。 ・氷熱：つめたいとあついと。この語不詳。
※東隣妖嫗尚効顰：東隣（ひがしどなり）のなまめかしい老女は、なおまだ。（西施の）顰（ひそみ）に効（なら）って。 ・東隣：『東施効顰』の故事中の西施の東隣にいる東施を謂う。 *春秋・越の美女である西施が、病になって村に住んでいた時、（西施は）苦しげに胸を押さえ、眉を顰（ひそ）めていた。（西施の）その姿が美しいので、その村の醜女（＝東施）がまねをして、西施のように苦しげに胸を押さえ、眉を顰（ひそ）めていた。すると、（そのさまを不気味に感じた）村の金持ちは、堅（かた）く門を閉ざして出てこず、貧乏人は妻子を連れて逃げていったという故事。 ・妖嫗：なまめかしい老女。 ・嫗：〔う（おう）；yu4●〕ばば（婆）。老婦人。おうな。 ・尚：なおまだ。なお。まだ。 ・効顰：顰（ひそみ/ひん）に効（なら）う。『莊子・天運』に「西施病心而矉（＝顰）其里。其里之醜人見之而美之，歸亦捧心而矉（＝顰）其里。其里之富人見之，堅閉門而不出，貧人見之，挈妻子而去走。彼知矉（＝顰）美而不知矉（＝顰）之所以美。惜乎，而夫子其窮哉！」とある。
※夜買臙脂佩鶏舌：夜に（こっそりと化粧用の）紅（べに）を買いに行って、（香料の）鶏舌香を身に着けている。 ・臙脂：〔えんじ；yan1zhi0(1）○○〕紅（べに）色の顔料。紅（べに）。＝燕脂、燕支、胭脂。紅藍花(紅花)から採り、化粧に用いる。 ・佩：おびる。 ・鶏舌：香料の名。
※五十無聞可以已：五十歳で、世に聞こえがなかったら（＝名声が揚がらなかったら）（名を揚げることについての活動は）やめたらいいだろう。 ・五十：五十歳。『論語・子罕』に「子曰：後生可畏，焉知來者之不如今也。四十五十而無聞焉，斯亦不足畏也已矣。」とある。 ・無聞：評判がたたない。名声があがらない。 ・可以：…したらいい。…したらどうか。もって…（す）べし。 ・已：やむ。
※嗚呼老賊聖所罪：ああ、老化は孔子様の罪とするところである。 ・嗚呼：〔をこ；wu1hu1○○〕ああ。感嘆・歎息のときに出す声。南宋・朱熹の『勸學文』に「勿謂今日不學而有來日，勿謂今年不學而有來年。日月逝矣歳不我延，嗚呼老矣是誰之愆。」とある。 ・老賊：悪人を罵る語。年取った賊。ここで老化を擬人化して謂う。 ・聖：孔子を指す。『論語・述而』に「葉公問孔子於子路，子路不對。子曰：『女奚不曰，其爲人也，發憤忘食，樂以忘憂，不知老之將至云爾。』とある。 ・所罪：罪とするところ。「罪とする」（動詞）の名詞化。 ・所-：動詞の前に附き、動詞を名詞化する働きがある。
※君不見廉将軍使者笑：御存知ありませんか、廉頗（れんぱ）将軍を、（趙の）使者が笑ったことを。 *「廉将軍使者笑」は「使者笑廉将軍」のこと。 ・君不見：諸君、見たことがありませんか。御覧になりませんでしたか。詩を読んでいる人（聞いている人）に対する呼びかけ、強調。樂府体に使われる。「君不聞」もあり、そこでは詩のリズムが大きく変化する。使用法は、七言が主となる詩では「君不見□□□□□□□」とする場合が多いが、必ずしも一定でないようだ。李白「君不見黄河之水天上來，奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮，朝如靑絲暮成雪。」とあり、顧況の『雜曲歌辭』に「君不見古來燒水銀，變作北邙山上塵。藕絲挂身在虚空，欲落不落愁殺人。」とあり、李白の『將進酒』「君不見黄河之水天上來，奔流到海不復迴。君不見高堂明鏡悲白髮，朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡，莫使金樽空對月。」
に「廉將軍雖老，尚善飯。（廉頗居梁久之，魏不能信用。）…趙以數困於秦兵，趙王思復得廉頗，廉頗亦思復用於趙。趙王使使者視廉頗尚可用否。廉頗之仇郭開多與使者金，令毀之。趙使者既見廉頗，廉頗爲之一飯斗米，肉十斤，被甲上馬，以示尚可用。」とあることに依る。趙使還報王曰：『廉將軍雖老，尚善飯，…」 老いたりと雖も尚も敵を駆逐する力の根元の食欲があることをいう。しかし、趙王は、結局、廉頗を用いなかった。その理由とは、「…然與臣坐，頃之三遺矢矣。』趙王以爲老，遂不召。」と。つまり、屡々トイレに立って大便をしたので、趙王は「やっぱりだめだ。年をとっている。」という次第…。南宋・辛棄疾の『永遇樂・京口北固亭懷古』に「千古江山，英雄無覓，孫仲謀處。舞榭歌臺，風流總被，雨打風吹去。斜陽草樹，尋常巷陌，人道寄奴曾住。想當年，金戈鐵馬，氣呑萬里如虎。 元嘉草草，封狼居胥，贏得倉皇北顧。四十三年，望中猶記，烽火揚州路。可堪囘首，佛狸祠下，一片神鴉社鼓。憑誰問，廉頗老矣，尚能飯否。」
※一飯之間三遺屎：（使者が笑った内容とは、）廉頗将軍は一度の食事の間に三回大便をした（ことをだ）。（頃之三遺矢矣。趙王以爲老，遂不召）。 ・一飯：一度の食事。「飯」は名詞。なお、前出・『史記卷八十一・廉頗藺相如列傳伝・第二十一』（二四四八頁 中華書局版６２０ページ）
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◎ 構成について
韻式は、「ａａａ（ａ）ａａａａ ｂｂｂ」。韻脚は、「軼拙雪（八）訣悦熱舌 已罪屎」。平水韻入声四質（軼）・入声八黠（八）・入声九屑（雪舌熱拙悅訣）。 上声四紙（已屎）・上声十賄（罪）。この作品の平仄は、次の通り。
●○●○○◎●，（ａ韻）
●●○●○●●。（ａ韻）
○●○●●○○，
○●○●●○●。（ａ韻）
●●●●●●●，
●○○○○○●。（a韻）
○○●●○○●，
●●●●○○●。（a韻）
●●○○●●○，
●●●○○○●。（ａ韻）
○○○●●●○，
●●○○●○●。（ａ韻）
●●○○●●●，（ｂ韻）
○○●●●●●。（ｂ韻）
○●●○○○●●●，
●●○○○○●。（ｂ韻）
| 平成２６．８．２８ ８．２９ ８．３０ ８．３１ ９． １ ９． ２ ９． ３ ９． ４完 平成２７．９．２４補 令和 ２．７．１８ |
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